第523回 答えを求める人から探す人に
こんにちは、キャリアコンサルタント高橋です。
研修を担当させてもらっていると毎回いろんな人に出会います。私はよく研修に参加されたきっかけを伺うのですが、「〇〇のことを教えてもらいたいと思って参加しました」のようにおっしゃる方がおられます。それは、その人が抱えている問題を解決したいという想いから来ている発言だと思いますので、それ自体は何ら悪い事でもないですし、至極真っ当な内容だと思います。
ただ、一方で、そうした方に対して思うこともあります。今回はこのことについて書きます。
■研修に何を求めるか
研修は学びの場です。だから参加者の動機は様々ですし、それで良いと思っています。しかし、何を学びたいかによって研修の有様は変わってきます。
例えば「部下とのコミュニケーションがうまくいっていないので、どうすればうまくいくのか教えて欲しいです」という動機を持っていた人がいたとします。このような場合、この人が求めているのはどうすればうまくいくのか? という答えです。だから、答えになる情報をお伝えすると、皆さん一様に満足されます。
しかし、一方で答えではなく解決のための考え方を得ようとする方もおられます。このような場合、私は先ほどのような答えを伝えることはせず、時間の許す限りその問いに対して参加者全員で考えを深め、答えを導き出せるようなファシリテーションを行います。これはワークセッションという方法で、答えをファシリテーターが伝えるのではなく参加者が導き出します。
このワークセッションで答えを導き出すことができると、答えに対する納得度合い、理解度などは格段に上がります。また、この方法は問題を解決する過程(=考え方)を体験することができるため、別の問題が起きても対応しやすくなります。
■魚が欲しいのか、それとも釣り方が知りたいのか
この話は老子に出てくる
「飢えている人がいるときに魚を与えるか、それとも魚の釣り方を教えるか(授人以魚 不如授人以漁)」
という話に似ています。この言葉の意味は
「人に魚を与えれば一日で食べてしまうが、釣り方を教えれば一生食べていける」
ということだそうですが、研修においてはどちらのタイプもおられます。しかし、魚(=答え)を得ようとする人に釣り方(=考え方)を教えることができれば、その人への研修効果は更に高まります。ですが、魚を求めている人は魚が欲しい訳で釣り方を知りたい訳ではありません。そうした方に無理矢理釣り方を教えても、それは逆効果になってしまうこともあります。
つまり、魚の釣り方を教えることは万人に当てはまる方法ではないと感じています。
■答えを求める人から探す人へ
それは、その人の人格とも関連しています。答えが欲しいというのは何かに依存する考え方です。一方で考え方が考え方が知りたいというのは自分で答えを導き出す自立という考え方です。そのため、依存体質の人に対して魚の釣り方の話をしたとしても受け入れてもらえないことがあります。そうした場合は無理に魚の釣り方を教えるのではなく、素直に魚を渡した方が良い場合もあります。
とは言え、魚を求める依存体質の人が、研修に参加することで魚の釣り方を探す自立体質の人に変容するきっかけになればと思うこともあります。そしてそれは研修中にファシリテーターが意識して行わなければ、研修の場で実現されることはほぼありません。
研修は一期一会です。二度とお会いすることが叶わない方も大勢おられます。だからこそ、その場でできることはやりたいと思ってしまいます。
研修のファシリテーターは単にコンテンツを提供することが仕事ではありません。研修を通じて参加者の学びを深めることも大切な仕事です。私自身、そうしたファシリテーションができるよう、日々努力を続けていきたいと思います。