第497回 対話のススメ4 -「流れ」の技術
こんにちは、キャリアコンサルタント高橋です。
「対話のススメ」シリーズ第4回目になります。前回は対話における「伝える」技術をお話しさせていただきました。今回は対話の「流れ」に関連する技術のお話です。
■対話の「流れ」とは
対話は相手の話を「聴き」、自分の考えや気持ちを「伝える」ことの繰り返しで成り立っています。そのため「聴く」技術と「伝える」技術さえあえれば対話は成り立つのでは? と考えられるかもしれません。
しかし、実際には「聴く」と「伝える」だけでは対話は成立しません。なぜなら、そこには何のために聴き、何のために伝えるといった対話の目的がないからです。雑談であろうと相談事であろうと対話には必ず目的が存在します。その目的を実現させるために聴き、伝えるのです。
そして、今回お話しする対話の「流れ」というのは対話の目的を達成させるための対話の進め方のことです。例えば、相手から相談事を持ちかけられたとしましょう。その相談事に対し十分に相手の話を聴かず解決策を提示してしまったとしたら、相手はその解決策を受け入れてくれるでしょうか?
対話は人対人のやり取りです。人には感情がつきものです。理路整然と論理立てて話すことだけが最善ではないケースもあります。じっくり相手の話に耳を傾け、相手の気持ちに寄り添う。そうすることで相手の心が少しずつ開いていき、本音で語れるようになってくる。そうした状態になるからこそ、人は受け入れ難い提案だったとしても聴き入れられるようになってくるのではないでしょうか。
このように、対話技法(ダイアログ・メソッド)では、対話における流れをとても重要視しています。この流れに従って対話を進めることで対話の目的を実現させていきます。
■「流れ」の技術
対話技法(ダイアログ・メソッド)における流れの技術では、対話の目的を実現させるための対話の進め方を表しています。対話の進め方は6つの段階(フェイズ)に分かれます。
- オープニング
- 関係の構築
- 問題の把握
- 目標の設定
- 方策の決定
- クロージング
この流れは順を追って進んでいきますが、それぞれの段階(フェイズ)は基本的にシームレスに進んでいきます。
オープニング
対話の最初に行うことをオープニングという表現でまとめています。ここでは初見であればお互いの自己紹介を行ったり、対話の目的やグランドルールなどを確認し合います。このオープニングを行うことでこれから行われる対話の意義を明確にします。
関係の構築
対話初期の段階である関係の構築では、相談相手との間に信頼関係を築くことを目標とします。ここで言う信頼関係とは、
「この人になら本音で話せる」
「この人の話なら素直に聴ける」
こういった信頼関係を築くことです。そのために用いられる技法は主に「聴く」技術の聴くマインドを持つことと、「伝える」技術の深掘りです。特に気持ちや行動原理に寄せた深掘りを対話上に展開していくと、自然と相手の内面に入ってく対話になり、相手との信頼関係を構築しやすくなります。
問題の把握
信頼関係が築けてきたら、次は問題解決に向けたアプローチをしていきます。ここでの問題解決の方法は次回お話しする「考え方」の技術になりますが、問題の構造を相談者が抱えている問題と本質的な問題の二層で捉え、問題の本質を探し出し、必ずその内容を相談者と共有します。
目標の設定
問題の本質が共有できたら、次の行うのは目標の設定です。ここでいう目標というのは問題が解決した姿を表します。例えば、問題の本質が「上司との人間関係が悪い」だったとします。この場合の目標は「上司との人間関係を解決する」ではなく、上司との人間関係が解決した時の状態を指します。上司との人間関係が解決することで、「今の職場でストレスなく働くことができるようになる」であるならば、それが目標になります。
方策の決定
方策とは問題解決に向けた具体的な行動のことで、先ほど定めた目標を実現するための具体的な行動を決定します。ここまでの例で「上司との人間関係が悪い」という問題の本質から、「今の職場でストレスなく働くことができる」ことを目標に据えました。では、そのための具体的な方法を考えてみると...、当然、上司との人間関係を改善するということになりますね。つまり、問題(=上司との人間関係が悪い)の裏側にある状態というのは対話技法(ダイアログ・メソッド)において目標ではなく方策と捉えます。そのため、ここでは上司との人間関係を改善するために考えられることを具体的にあげていきます。
ここまでの問題の把握から方策の決定までの例をまとめるとこのようになります。
問題の把握:上司との人間関係が悪い
↓
目標の設定:今の職場でストレスなく働くことができる(問題が解決した姿)
↓
方策の決定:上司との人間関係を改善する具体的な方法(問題の裏側)
クロージング
対話の最後に行うことをクロージングと呼びます。ここでは、対話の内容の振り返り、感想、守秘義務などの約束の確認、動機付けなどを行います。特にここでは動機付けがとても重要で、対話によって解決が導き出せたとしても、そこから先、実際に進んでいくのは相談者です。その相談者が1歩前に踏み出せるような励ましやサポートを行うことを動機付けと呼びます。
このように、対話技法(ダイアログ・メソッド)では対話の目的に対し、対話の流れを意識しながら対話を行います。そうすることで、対話の目的からブレることなく話を進めることができ、場当たり的ではない本質的なアプローチによって問題を解決することができるようになります。
今回は対話技法(ダイアログ・メソッド)の「流れ」の技術について簡単にお話させていただきました。流れの技術のベースにあるのはシステマティックアプローチ・モデルという技法から来ていますが、そこにコーチングのエッセンスを取り入れています。そのため、この対話技法(ダイアログ・メソッド)ではキャリコンやコーチングにおいても適用させることができますし、勿論、通常の相談事や雑談などでも幅広く活用することができるようになっています。
次回は対話技法(ダイアログ・メソッド)最後の要素である「考え方」の技術についてお話しします!