第420回 一生懸命という想い
こんにちは、キャリアコンサルタント高橋です。
少し前まではキャリコンと言えば対面で行う面談形式が一般的でしたが、最近はZoomを使った遠隔で行うキャリコンも増えてきました。私もZoomを使ってキャリコンをさせてもらうことはありますが、十分成り立つなぁと感じております。とは言え、やはり空気感というのか場の雰囲気というのか、そういったノンバーバル(言葉以外の情報)が掴み切れない部分もあるので、ZoomはZoomなりのやり方があると感じています。
そういったキャリコンですが、以前、ある2つの出来事がきっかけで自分を見つめ直すことがありました。今回はこのことを書かせていただきます。
■「高橋さん、傾聴が下手になりましたね」
今から少し前の話になりますが、まだ新型コロナウイルスが流行する前に国家資格キャリアコンサルタントの面接試験のトレーニングをしていたことがありました。こういったトレーニングの場ではいつも実演をさせていただき、面接試験の雰囲気を掴んでいただくことをやらせてもらっています。その時も面接試験の実演をさせてもらったのですが、サポートで入ってもらっている方からこんなことを言われました。
「失礼ですが、高橋さん、傾聴が下手になりましたね」
この方は過去に私がトレーニングをさせてもらっていた人で向上心の高い方でした。また、思ったことを臆することなく話されるタイプで、それが良くも悪くもこの人の特徴でした。
私は単にフィードバックをしてもらったと思ったので、「勉強になります、伝えてくれてありがとうございます」と素で答えたのですが、周りを見ると場が凍り付いたようになっていました(笑) 何となく「何でお前のレベルでそんなこと言ってんの? 」みたいな雰囲気になったような気がします。。。
勿論、その方に悪意などは一つもなく、単に私の実演で気持ちに寄り添う部分が雑に見えたからそのように伝えてくれたのだそうです。その方が言うには、以前、自分(その方)にトレーニングを付けてもらっていた時はもっと丁寧に気持ちを拾っていたのに、その時の実演では話を進めることに注力しているように感じたのだそうです。
確かにそう言われれば思い当たる節はあります。面接試験のトレーニングということで、キャリコンの「型」を披露しなければならない、面接の各段階を分かりやすく表現しなければならない、そんな考えが根底にあったような気もします。また、面接試験は時間が決まっていますからタイムマネジメントが必要になります。そのため、私は頭の中で時間を組み立ててある程度の戦略を立てて面接をしていました。その結果が傾聴を雑に扱っているように見えたのかもしれません。
■「高橋さんは凄いと思います。ただ...」
また、そこから少し時期がずれるのですが、キャリコンの指導者向けのトレーニングをキャリコン仲間と行っていた時にもこんなことを言われました。
「高橋さんは技術的に凄いと思います。ただ、正直に言えば、高橋さんから指導を受けたいとは思わないです」
キャリコンの指導者が行う事例指導にはある種のやり方があります。ただ話をしていれば良いということではなく、目の前のキャリコンに対して問題点を見つけ出し、どうすればそのキャリコンが成長していくことができるかを一緒に考え、指導していかなければなりません。そのためには色んな技術が求められます。関係性を構築する力、問題の本質を図る力、目標を設定する力、具体的な行動を起こしていく力...、こうったことを会話を通じて実現させていかなければなりません。
その方が言われるのは、私の場合、そういった技法の使い方はピカイチなのだそうです。しかし、指導を受けるという気持ちが入っていかない。技術で丸め込まれているような感覚になるそうなのです。
これも、言われてみるとその通りだと思います。私はこれまでずっとキャリコンの技術を高める訓練を行ってきました。実践を繰り返しながら試行錯誤をし、自分なりのやり方、キャリコンの型を作り込んできました。それが今の私のスタイルになっています。だから、自分のやり方でキャリコンをする場合、何も意識をせずともこの型の通りにキャリコンをすることができるようになっていると思います。そういった姿が「気持ちが入っていかない」「技術で丸め込まれている」と感じられたのかもしれません。
■私に足りなかったモノ
私にとってキャリコンや事例指導を行うことはそれ程大変なことではありません。勿論、ケースによっては対応に苦慮する事もありますが、既に何千回もやらせてもらっているので、そういった対応も含めて慣れています。だから、緊張することもなければ、あがってしまうこともありません。
しかし、考えてみると、例えば、目の前にいるキャリコンが二人いたとして、
- こなれていてスラスラ話を進めていくキャリコン
- 技術は今一つでも一生懸命にやろうとしてくれているキャリコン
一体どちらが本当に求められるキャリコンなのでしょうか?
これは、面接試験でも同じです。例えば、試験官から見て、
- そつなくスラスラこなす受検者
- 一生懸命に取り組もうとしている受検者
どちらの受検者が試験官の心に残るでしょうか? 勿論、試験なので要件を満たす人が合格するのは間違いないのですが、それでも心に残るのは、私は後者のような気がするのです。
慣れていればある程度手を抜いたとしても、そこそこの結果は残せるかもしれません。しかし、それでは人の心には響きませんし、届きません。慣れていようがいまいが一生懸命に取り組むこと、その姿が心に響くのではないかと思うのです。だから、その時の私に先ほどのような言葉が掛けられたのだと思います。
私に足りなかったもの、それは一生懸命にやることだと思いました。キャリコンをやり始めた当初、一生懸命に人の話を聴こうとしました。面接試験の実演を始めた頃、受検者に役立つように一生懸命実演しようとしました。それが経験を重ねることで一生懸命にやらなくても結果が残せるようになってきました。しかし、それこそが誤りで、どんな時でも一生懸命にやる事、これが基本であり、最も大切であることが分かりました。
■一生懸命という想い
そして、これはキャリコンだけではなく、すべてのことに対して言えます。目の前の仕事、家族との会話、自分のための時間...どんなことであっても一生懸命であるべきです。
一生懸命というのは想いです。すべきことに対して想いを込めて一心にそれを行う。その姿に人は共感してくれるのだと思います。
これから先、どれだけ技術や経験が身につこうとも、そんなことより優先すべきは一生懸命に行うこと。それはこれからの私にとっての大きな課題でもあり、命題でもあると思っています。その想いをもって行動していく人間になりたいです。