第379回 ナラティブを考える
こんにちは、キャリアコンサルタント高橋です。
キャリコンの一つの手法にナラティブアプローチという考え方があります。元々は臨床心理から生まれた考え方のようですが、近年ではキャリコンでも用いられるようになりました。
このナラティブアプローチは『21世紀のキャリア理論』と呼ばれるように、これまでとは違うアプローチをするキャリアコンサルティングです。実は私がキャリコンにナラティブアプローチを取り入れていたのは10年以上前になります。ただ、その時はナラティブアプローチという言葉すら知らず、単に私がやりやすいようにキャリコンをしていたことが、たまたまナラティブアプローチに近かったというだけだったなのですが、最近、このナラティブアプローチでキャリコンをすることが増えてきました。そこで、今回はナラティブについて私の思うことを書きます。
■ナラティブとは
ナラティブとは日本語で「語り」と訳される言葉で、語り手が主人公となって話される内容のことです。似たような言葉にストーリーという言葉がありますが、こちらは「物語」と訳され、予め決められシナリオに基づいた話のことを言います。ナラティブとはストーリーと違い明確なシナリオはありません。語り手が自由に語ることで、その内容に対して後から意味、意図、意義などを見出していきます。
これが何を意味しているのか?ですが、私たちの行動や人との関わりには何かしらの意味、意図、意義を持っています。そして、その行動や人との関わりが実生活における私たち自身を作り上げています。だとすれば、私たちの行動や人との関わりを紐解くことで、その人が抱える想いや気持ちを再構築できるのではないか?と考えます。こういった考え方は社会構築主義とも呼ばれるのですが、これをキャリコンに応用したのがナラティブアプローチ、ナラティブ・キャリアコンサルティングなどと呼ばれます。
私たちは元来「自我」や「パーソナリティ」といった私たち自身の根幹的な部分があり、そこがベースとなって私たち自身の考えや行動を決定づけているという考え方をしています。従来のキャリコンもこのような考え方に基づいており、その人の根幹部分に近づくようなアプローチをしていきます。
それに対して、ナラティブアプローチは私たち自身に「自我」や「パーソナリティ」といった部分があるとは考えるのではなく、行動や人との繋がりの結果が私たちを作り出しているという考え方をしています。例えば、電車の中でご年配の方に席を譲ったとします。その行動はご年配の方に優しくしたい、労わりたいという気持ちの表れですが、それはご年配の方に席を譲るという行動があることで形作られます。そういった行動や人との繋がりを語ってもらうことで、そこに対する意味付けをし、その人の想いや気持ちを再構築していくのです。
■ナラティブを使ってみる
少し難しい話になってしまいましたが、このナラティブというのは相手が自分の好きなように語ることです。その内容は予め決められたストーリーなどではなく、その時の行動や人との繋がりが語られます。そこにあなたが意味づけをすることで、新たな気づきを得て前に進んでいくことがナラティブアプローチです。(実際にはある種のテーマのようなモノを使います)
文字で書くと少し分かりづらい感じもしますが、実際には私たちが普段から良く使っていることです。例えば、雑談などで相手の話を聴いた後、あなたの考え、気持ちなどを返すことは良くあることです。その「あなたの考えや気持ち」などを返す時に、相手の取った行動や人との繋がりにどのような意味、意図、意義があったのかを返してあげるのです。そうすることで、相手は自分が語った内容から自分自身への気づきを深めていきます。
ナラティブアプローチは傾聴と組み合わせて使います。傾聴をする人の中には、何に対して傾聴をすればよいかわからないといった声を聴きます。そう言った場合はぜひ相手のナラティブに合わせて傾聴を使ってみてください。相手の気づきや想いを引き出すきっかけになるかもしれません。