第148回 改正労働者派遣法から派遣社員のキャリアについて考える
こんにちは、キャリア・コンサルタント高橋です。
先日、改正労働者派遣法について動きがありました。元々、この法律は昨年から国会で審議、検討されてきましたが、いよいよ今年施行される見込みになってきたようです。そこで、今回はこの改正労働者派遣法から派遣労働者のキャリアについて考えてみたいと思います。
■今回の改正労働者派遣法のポイントは?
今回の改正労働者派遣法は3月12日に閣議決定され、今期の通常国会に上程されました。大筋の見込みでは国会での審議で可決され、遅くとも今年の9月1日までには施行されるようです。この流れを受け、厚生労働省から今回の改正労働者派遣法の概要がアップされています。
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律案の概要~厚生労働省~
この改正労働者派遣法のポイントはいくつかありますが、大きくは
- 特定労働者派遣事業(届出制)の廃止
- 派遣期間の見直し
- 政令で定める業務(政令26業務)の廃止
- 派遣労働者の雇用安定とキャリアアップ
この4点です。
特定労働者派遣事業(届出制)の廃止とは、これまで労働者派遣法で定められた派遣事業の区分である特定労働者派遣と一般労働者派遣から、特定労働者派遣のみを廃止し、一般労働者派遣に一本化することです。これは、働き手よりも企業側にインパクトのある話なので、ここでは割愛します。
派遣期間の見直しとは、派遣期間の上限を「人」単位に設定し、最長でも3年を限度とするように変更されることです。但し、派遣元に無期雇用されているITエンジニアの場合、これまで通り派遣の期間に制限はなく、派遣先に無期限で勤務することができます。しかし、有期雇用されているITエンジニアの場合、今回の改正によって、最長3年しか1つの現場で就業できないことになります。
政令で定める業務(政令26業務)の廃止とは、元々、労働者派遣法で定められていた派遣の期間を定めない専門業務(=政令で定める業務)と、それ以外の派遣の期間が最長3年に制限される自由化業務の枠組みを取っ払い、どちらも「派遣期間の見直し」で定められた派遣期間の上限を「人」単位に設定する方法で派遣業務を行うように変更されます。
これらの内容はこれまで改正労働者派遣法で話が出てきた内容なので、ご存知の方も多いと思います。特に今回の改正では特定派遣の廃止、政令で定める業務の廃止といったこれまでの派遣体系を根幹から覆す大きな改定となっています。
■派遣労働者のキャリア
しかし、これら以外にもう1つ大きな改定がなされました。それが「派遣労働者の雇用安定とキャリアアップ」です。これは具体的には以下のような取り組みを指します。
派遣労働者に対する計画的な教育訓練、希望者へのキャリア・コンサルティングを派遣元に義務付ける(違反の場合は許可の取り消しを含め、厳しく指導をする)
つまり、派遣の形態で働く労働者は自分自身のキャリアについて派遣元の会社からキャリア・コンサルティングを受けることができるようになったといえます。逆のいい方をするならば、自社で雇用している派遣社員(有期・無期問わず)からキャリア・コンサルティングの要望があった場合、会社はキャリア・コンサルティングを行う義務が課せられます。
これまで派遣という働き方はどうしても雇用が不安定になるイメージが付きまとってきました。しかし、今後派遣社員は自身が希望すれば必ずキャリア・コンサルティングを受けることができます。そうなると、派遣という雇用形態の不安を改善することができる可能性が生まれてきます。このことは労働者にとって非常にプラスになる内容だと思います。
そして、この改定によって派遣を生業とする企業は必ずキャリア・コンサルタントを雇用しなければならないため、キャリア・コンサルタントにとっても活躍の場が広がります。私は在職者に対するキャリア形成を推進する立場なので、今回の改正は非常に好意的に受け取っています。
■今回の改正労働者派遣法は派遣の流れを変えるか?
私は派遣という雇用形態はもっとクローズアップされてもよいと思っています。派遣という仕事が一生涯働き続けることができる安定した働き方になれば、労働者の選択の幅も広がっていくのではないかと思っています。今回の改正労働者派遣法はその可能性を秘めているのではないかと思っています。
コメント
tomo
>派遣労働者に対する計画的な教育訓練、希望者へのキャリア・コンサルティングを派遣元に義務付ける
以下2点の問題から、派遣労働者にとっては良い改正とは言えない
1:派遣労働者がこれを知っているのか(知らなければ希望など出ようはずもない)
2:キャリアコンサルを受けたからと言って、派遣の労働が安定するわけではない。
派遣は景気が悪くなればたちまち職を失う。それはリーマンショックの時を見れば明らかだ。それは単純に派遣を失業から守る法律がないからだ。どんなにキャリアコンサルを受け、技術を高めても景気が悪くなれば真っ先に切られる。
>派遣という仕事が一生涯働き続けることができる安定した働き方になれば
こんな世迷いごとを言っている時点で、このコンサルは派遣で働いたことがないのだろう。
tomoさま、
貴重なご意見、ありがとうございます。
tomoさまが提起されている2点について、私の考えをお話しさせていただきます。
> 1:派遣労働者がこれを知っているのか(知らなければ希望など出ようはずもない)
これは、これから施行される改正労働者派遣法をどうやって労働者が知るのか?という問題と受け取らせていただきました。
確かに、現時点で労働者派遣法の詳細をご存知の派遣労働者の数は少ないかもしれませんし、この流れは労働者派遣法が改正されても変わらないのかもしれません。ただ、これは法律に関わる人すべてにいえる抜本的な問題で、法律によって保護されていることを知らないことで享受できない例は他に幾らでもあります。
この問いは裏を返せば、派遣労働者が改正労働者派遣法の内容を知ることができれば解決できるとも取れると思います。したがって、
・労働者自身が法律を知る努力をしてもらうこと
・雇用する側が正しい情報を労働者に提供すること
が今後必要になってくるのではないかと思います。その意味で今回のコラムは、派遣労働者の方が自分を守るための法律を知るひとつのキッカケになればと思い、書かせていただきました。
> 2:キャリアコンサルを受けたからと言って、派遣の労働が安定するわけではない。
先に申し上げておきますが、私は派遣の形態でITエンジニアとして仕事をしたこともあれば、派遣で働かれるITエンジニアに1000名以上直接お会いしております。当然、リーマンショックの時代の「派遣切り」ことも企業側、労働者側それぞれの視点からみています。ですので、派遣として働く問題点や難しさは誰よりも理解しているつもりです。
恐らく、tomoさまが仰る言葉がすべてをあらわしているように思うのですが、世間一般ではまだまだ「キャリア・コンサルティングを受けたって状況は変わらない」と思われているのが実情だと思います。要するに「キャリア・コンサルティングって何?そんなことをやって、どうやって雇用を安定させるの?」ということだと思います。
しかし、キャリア・コンサルティングによって派遣社員の雇用が改善している例は数多くあります(ここでいうキャリア・コンサルティングは転職活動におけるキャリア・コーディネーターなどとは違います)。国(厚生労働省)もその効果が分かっているからこそ、今回の改正で敢えて「キャリア・コンサルティング」という言葉を使ったのだと、私は解釈しています。
世の中には、派遣という業態でしか働くことができない人もたくさんおられます。そのような方々に法律が守ってくれないから派遣では一生涯働けないよ、で片付けてしまうのではなく、どうすれば派遣という業態で雇用を安定させることができるのかを考え、実践していくことが必要なのではないかと思います。その意味で、私はキャリア・コンサルタントが果たす役割というのは決して小さくはないと思っております。
tomo
思い込みから一部、失礼な書き込みをしたことをお詫びさせて頂く。
>・労働者自身が法律を知る努力をしてもらうこと
>・雇用する側が正しい情報を労働者に提供すること
結局自己責任論になるのだよな・・・どうして厚労省はTVCMをしたりしないのだろう?派遣労働者の権利拡充なのに。筆者は不思議に思わないのだろうか。
雇用する側がというのは少数派だろう。そんな企業ばかりならブラック企業など存在するまい。
>しかし、キャリア・コンサルティングによって派遣社員の雇用が改善している例は数多くあります
その改善の中身は具体的にどのようなものか?単に時給が増えたとか雇用が長期化したとかではないことを願うが。
リーマンショックによる派遣切りを御経験なら、キャリア形成などスズメの涙ほどの役にしかたたないということは良く分かっているはずだ。
「キャリア形成をしていれば、未曽有の不況が来ても正社員と同じように雇用が安定します!!」とは言えまい?
あなた自身は派遣労働者の雇用安定のために努力しておられ、それは結果として石を穿つかもしれないが、派遣労働者自身は、そんなの待ってはいられないのだ。
tomo
>派遣という業態でしか働くことができない人もたくさんおられます。そのような方々に法律が守ってくれないから派遣では一生涯働けないよ
ケチばかりつけて「じゃあどうする」を書いてないので、記載しておく。
解決策を記載しておくが、そもそもの問題は景気が悪いことだ。企業が正社員を欲しないのも、派遣で人が来るからだ。
派遣でしか働けないというのは、労働時間などの面からだと思うが、それも企業側が「そういう人でもいいから正社員としてほしい!!」となれば解決する。
というわけで、解決策としては「政府が50兆ほど予算を増やして使え」となる。
財源は刷れば良い。(貨幣が金から紙に移行した歴史を調べれば分かる)
需要が増し、多少インフレになる。
雇用が不安定な人は国が公務員として雇えばいい。国が公募すれば挙って応募するだろう。増えた人員で役所の労働時間削減をする。
こうなると企業が人手不足に陥るので、労働者側の意見が通りやすくなる。
企業が内部留保をためないよう、派遣を厳しくする法律改正も必要だ。
今までが緩すぎたのだ。
tomoさま、
コメント、ご意見をいただきありがとうございます。
tomoさまの仰る通り、法律から利益を享受するためには自身が法律を知らなければならない、つまり自己責任論だと思っております。だからこそ、このコラムで法改正のことを知ってもらおうと思い、書かせていただきました。
キャリア・コンサルティングによって派遣社員の雇用が改善されるケースについてですが、雇用の改善の尺度は人それぞれ違います。少し抽象的な言葉になりますが、ここでいう改善は「本人が望まれる」という意味で使わせていただきました。それは、賃金や雇用の長期化を改善と捉える人もおられますし、抜本的に働くことに対する観点から改善を考えられる人もおられます。
また、tomoさまがご提案された雇用の改善についてですが、私はエコノミストではないのでその効果を論じることはできません。ただ、それらの施策は国家レベルで対応されるものですので、非常に高い効果が期待できるのかもしれません。しかし、実現には時間がかかるのではないかとも思います。
拙い文章で恐縮ですが、今回のコラムは労働者派遣法という法律が改正されるというベースがあり、その上で一キャリア・コンサルタントの立場から派遣労働者のキャリアについて提言をさせていただいたとお取りいただけると幸いです。