第147回 選択するということ~それから~
今から2年半ほど前に選択することを題材にしたコラム※を書きました。先日、そのときに話題にしたある方(○○さん)と偶然会うことができ、近況を聞かせていただくことができました。そのときの話が結構印象的だったので、今回は以前ネタにした選択するということについて、再度見直してみたいと思います。
※選択することを題材にしたコラム:詳しくは「第27回 四方山話(10) 選択するということ」をご参照ください。
■転職してからどうなった?
○○さんは当時、システム・エンジニアとして仕事をされていました。コミュニケーション能力がとても高く、社内やお客様からの信頼が厚い方なのですが、これまでに対応してきた仕事はすべて品質評価の仕事ばかりで、設計書を書く、プログラミングをするといった開発系の仕事に携わることができませんでした。本人はそのことをかなり気にしており、この先のITエンジニアのキャリアを考え、開発系の仕事にチャレンジするため、転職を決意されました。
あれから、約2年半経ち、久しぶりに○○さんにお会いしました。雰囲気は以前のままでしたが、どこか頼もしくなったイメージを持ちました。○○さんに近況を聞いてみると、社内のある部署のリーダーを任されているそうです。その部署は以前の会社で担当していた品質評価だったそうです。○○さんはこのようにいわれました。
「あのとき、ITエンジニアの可能性を広げようと思い、思い切って転職をしました。転職先ではすぐに開発系の仕事に携わらせてもらうことができました。最初はプログラミングから始まり、1年ほど経って設計業務や要検定義などの業務にも関わらせていただくことができました。幸い、周りの方のサポートもあってミスなく仕事をすることができました。
それから1年ほど経ち、上司から今後の方向性について聞かれたんです。このまま上流工程に進みたいか? それとも、以前やっていたような品質評価の仕事に戻りたいか? と。今のウチの会社は結構規模が大きく、開発、品質評価どちらの仕事も請け負っており、それぞれにチームをもっています。今後、そのどちらのチームに進みたいか? と聞かれたんです。
そのとき、私は品質評価チームに進みたいと答えました。上司もそれが分かっていたようで、特に何もいわれることはありませんでした。そして数カ月経ち、私は品質評価チームのリーダーとして働かせていただくことになりました」
■転職してみえた前職の仕事のこと
○○さんは、なぜ開発系の仕事ではなく、品質評価の仕事を選ばれたのか。本人曰く、単に品質評価の方が自分の性格に向いていると思われたからだそうです。もちろん、開発系の仕事はやりがいがあり、充実感もあったそうです。しかし、単純な向き不向きでいえば、○○さんにとって開発系は不向きな仕事だったようです。もう少し掘り下げて話を聞いてみると、自分に求められている仕事は開発系、品質評価どちらかと自問した際、開発系ではなかったのだと感じたそうです。
社内では開発系の仕事は人気があり、皆そこに意識を向けたがるそうです。一方、品質評価はあまり人気がなく、低スキルのITエンジニアが仕事がないのでやらされているイメージがあるのだそうです。しかし、実際の品質評価の仕事は非常にレベルが高く、誰にでも簡単にできるような仕事ではありません。品質評価が成果物の出来を左右するといっても過言ではないくらい重要な部署です。さらに、品質評価の部署は開発系の部署に対してモノを言える部署でなければ成り立ちません。そういった諸々のことを理解している人でないと、品質評価という仕事は務まらないと○○さんは考えられていました。
それは、前職で○○さんが経験、体得された考え方でした。そして、それを上司の方も理解していたのでしょう。だから、○○さんが品質評価チームに進みたいといわれたことに、上司の方は何もいわれることなく、○○さんを品質評価チームのリーダーに抜擢されたのだと思います。
■当時のコラム、読まれていました(笑)
○○さんは当時、私のコラムを読んでいただいていたそうです。そのときに読まれたコラムから、ご自身の選択について、このように話されていました。
「あのコラムでは転職に対して不安を持っていた私が一歩前に踏み出すキッカケにもなり、本当に有難かったです。当時、前の会社には本当に良くしてもらっていました。だからこそ、転職するということがそれらの人の想いを踏みにじってしまうのではないかと自問自答しました。しかし、実際に転職をした今でも、前の会社の人たちとは仲良くさせてもらっています。私が転職することは寂しいといってくれた人がいましたが、それでも応援してくれる人たちばかりでした。それも、私にとっては有難かったです。
私にとって転職は、自分の将来を決める選択だったと思います。あのコラムは、選択することは行動を決めることでしかなく、成功するかどうかはその先の行動にかかっているといわれているように感じました。だから、選択したことを思い悩むより、これから先のことを考えなさいといわれているような気がしました。
今思い返してみると、選択するということは、良いことが起きても、悪いことが起きてもそれを全部受け止めなきゃならない、その覚悟をもつことだと思うんです。それができないなら選択なんかすべきではないです。あのコラムを読んで、この先、もし悪いことが起きたとしても、自分の責任で全部受け止めようと思いました。あのとき、その覚悟ができたような感じがして、前に一歩進めたような気がしました」
このように話された後、○○さんは会社の同僚の方と仕事に戻って行かれました。その姿は、今の仕事が充実しており、あのときの選択が正しかったことを物語っているように思えました。