第121回 ピーターの法則に抗(あらが)う
こんにちは、キャリア・コンサルタント高橋です。
「出世」というキーワードはキャリアづくりにおいて重要な位置づけになることがあります。しかし、同時に出世することでその人のやる気やモチベーションが下がってしまうこともあります。これは「ピーターの法則」に絡んでいることがあります。そこで、今回は「ピーターの法則」からキャリアを考えてみます。
■ピーターの法則
ピーターの法則とはアメリカの教育学者であるローレンス・ピーターによって提唱された組織内の労働者に関する社会学の法則です。
<ピーターの法則>
- 能力主義の階層社会では、人間は能力の極限まで出世する。すると有能な平(ひら)構成員も無能な中間管理職になる。
- 時が経つにつれて人間はみな出世していく。無能な平構成員はそのまま平構成員の地位に落ち着き、有能な平構成員は無能な中間管理職の地位に落ち着く。その結果、各階層は無能な人間で埋め尽くされる。
- その組織の仕事は、まだ出世の余地のある、無能レベルに達していない人間によって遂行される。 ~Wikipediaより~
これをみて、「あぁ、分かる分かる」と仰られる方も多いのではないかと思います、昇格するまではすごく立派な先輩、上司だった人が、昇格した途端やる気をなくしたとか、何もしなくなったと傍からみえるようになった人は結構おられるのではないかと思います。実際、私の身の回りにもこのようなITエンジニアは何人もおられました。
「俺が上に上がってこの会社を変えてやるよ」
「俺は会社のいいなりになんかならないから、安心しな」
でも、どの人も昇格すると仕事に対する意欲を失い、そつなく仕事をこなすようになっていました。
■なぜ、昇格すると意欲を失うのか?
一体、なぜこのようなことが起きるのでしょう? 実は理由は簡単で、新しい仕事に適応できなかっただけです。例えば、それまでITエンジニアとしてバリバリ働いていて、しかも単価が高く、お客様に重宝がられていた人が、昇格で社内の管理職になったとしましょう。社内の管理職はその人にとって初めての仕事です。どれだけITエンジニアとして優秀であったとしても、これからは会社の経営を見据えた動きが求められます。一般的に、経営を優先させると社員を締めつけることになりますし、社員を優先させると経営が苦しくなります。だから、
「俺が上に上がってこの会社を変えてやるよ」
「俺は会社のいいなりになんかならないから、安心しな」
といってみても、職制が管理職である以上、ある程度経営のことを考えて行動しなければならず、そこにそれまでもっていた自分の主義主張を通すことができなることがあります。そのような状況で仕事をやっていくと、やがて管理職という職制に埋もれてしまいます。しかし、管理職という職制においても、
「俺が上に上がってこの会社を変えてやるよ」
「俺は会社のいいなりになんかならないから、安心しな」
と考えるような人もおられます。そう、ITエンジニアで優秀だった人がいるように、管理職においても優秀な人はいるのです。しかし、そういった人も昇格し役付き(会社役員など)などになると、途端にパフォーマンスが下がってしまうことがあります。理由は先に述べたとおりです。
このような組織の流れを「ピーターの法則」といいます。
■ピーターの法則に抗(あらが)う
「昇格したらやる気がなくなるのだったら、昇格をキャリアに見据えるのは辞めた方がいいのかな? 」と思われる方もいます。これは半分正解であり、半分間違っています。この答えは、その人のキャリアのゴールをどこに置くかで変わってきます。例えば、昇格することをキャリアのゴールに見据えると「ピーターの法則」にのように目標とした職種に就いた後埋もれてしまうかもしれません。しかし、その職種に就くことがゴールではなく、目的を実現させるための手段と捉えられるのであれば、打開策はみえてきます。
例えば、「派遣契約で働いているITエンジニアを社内の受託開発によって一ヶ所で働かせてあげたい」という想いをもっている人がいたとしましょう。その人が昇格によって新たに部署をつくる権限が与えられる立場なったとします。しかし、何の根拠もなしに新たな部署をつくることなど一般の企業ではあり得ません。受託開発の部署をつくることよって得られる社内のメリット、それに対する投資金額などを勘案し、会社を納得させなければなりません。
もし、昇格することがキャリアのゴールだったら、新たに与えられた日々の仕事以外に、部署設立のために自分に足りないスキルを補おうとは思わないかもしれません。しかし、部署を立ち上げるという明確な目的があれば、会社を説得させるためのスキルを補おうとします。そうして、日々の業務がありながらでも、何とかして部署の設立を目指そうとします。
つまり、ピーターの法則に抗うためには、職種は目的を実現するための手段と考えキャリアづくりを行うことが必要になってくるのではないかと思います。