第115回 目的か手段か
こんにちは、キャリア・コンサルタント高橋です。
キャリアをつくる上で技術やスキルを習得することは大きな意味があります。しかし、キャリア・コンサルティングを行っていると、技術やスキルを何のために習得しているのかが曖昧になっている人が結構おられます。そこで、今回は技術やスキルを習得することについて書きたいと思います。
■『その資格は何のために取得するのですか? 』
あるITエンジニアにキャリア・コンサルティングを行ったときの話です。ここではその人を佐伯さん(仮名)と呼びます。佐伯さんは既にご自身のキャリアプランを頭に描いており、自前のキャリアプランまでつくっていました。佐伯さんは自分でつくったキャリアプランを精査するために私のキャリア・コンサルティングを受けに来ました。
早速、佐伯さんがつくられたキャリアプランを拝見させてもらうと、○歳までにこの技術を身に付け、○歳までにこの資格を取る…、のように誰の目からみても分かりやすく理路整然とご自身のキャリアプランが書かれていました。しかし、技術やスキルの習得に違和感を感じたので、いくつか質問をしてみました。
佐伯さん『私は32歳までにPMP(Project Management Professional:プロジェクト管理に関する国際資格)を取得するようなキャリアを考えています』
私『その資格は何のために取得するのですか? 』
佐伯さん『資格をとってプロジェクト管理の仕事に就くためです』
私『どうやって? 』
佐伯さん『PMPを取ったことを社内に伝えて、プロジェクト管理の仕事をさせてもらうんです』
私『佐伯さんのご経験から考えてもらいたいのですが、本当にそれでプロジェクト管理の仕事をさせてもらえますか? 』
佐伯さん『・・・・・・』
佐伯さんは考え込み、黙り込んでしまいました。
■あなたのやろうとしていることは目的ですか? それとも手段ですか?
佐伯さんがつくったキャリアプランの違和感、それは技術やスキルを習得することが目的になっているようにみえたことです。PMPを取得するからプロマネ業務ができる、この技術やスキルを身につけるからその仕事ができる…、一見すると正しいようにもみえますが、資格や技術を取得したからといって仕事ができるようになることは一般的にはあり得ません。この手の話はこのコラムでは再々書いていますのでここでは割愛します※が、ITエンジニアが身につける技術やスキル、資格といったモノはそれらを習得する意味を明確にしておく必要があります。
※割愛します:興味のある方は『第6回 あなただけのキャリアを設計する(2)』辺りをご参照ください。
例えば、自分自身の中でどれだけ能力が付いたかを計る指標が欲しいのであれば、資格の取得を目的とすればよいと思います。例えば、既にプロマネの仕事に就いていて、プロマネの仕事を深く知るといった意味でプロジェクトマネージャ試験やPMPを受験することには大きな意味があります。この場合、あくまで資格の取得は自分自身への能力の確認作業となります。
それに対して、例えば未経験の仕事に就きたいという目的があり、その目的を達成するために技術やスキル、資格を取得する場合は、その行為自体が手段となります。この場合、一般的に技術やスキル、資格を取得することで目的とする未経験の仕事に就くことはなく、技術やスキル、資格を取得すること以外にプラスアルファの何かをしなければ、目的を達成することはできません。
佐伯さんのキャリアプランには目的の仕事に就くために技術やスキル、資格を取得することは事細かに書かれていたのですが、それ以外のことが何も想定されていませんでした。そこで、一つひとつのキャリアを棚卸しし、具体的に仕事に就くために必要なことを具体的に考え、最後には佐伯さんの想いが実現できるキャリアプランを作成させてもらいました。
■自分のやっていることを今一度振り返る
私たちのやっていることは時として、それが目的なのか手段なのかが明確になっていないことがあります。今回はキャリアづくりについて考えましたが、このようなことは日常生活にもたくさん出てきます、もし、自分のやっていることに迷いが出たとき、それが目的として行っていることなのか、手段として行っていることなのかを今一度振り返ることで、正しい道を選ぶことができるかもしれません。
ちなみに、今回紹介した佐伯さんに対して行ったキャリア・コンサルティングはひとりで行うこともできます。詳しくは拙著『ひとりでできる!ITエンジニアのキャリアデザイン術 ~望みをかなえる「壁」の越え方』に詳しく書かせていただいておりますので、興味のある方はご参照ください。