第99回 恥ずかしさと自己表現の関係
こんにちは、キャリア・コンサルタント高橋です。
人と会話をするときに、自分の考えや想いを人前で話すのを苦手としている人がいます。「苦手」は「恥ずかしい」といい換えることができると思いますが、これは学生や若手社員のように若年層に多くみられる傾向であるように思います。しかし、年齢を重ねていくと、今度は逆に自分の考えや想いを人前で話せないことを恥ずかしいと思うようになってきます。今回は、この「恥ずかしい」という想いについて書いてみます。
■自分のことを話すのは恥ずかしい?
学生に自分の目標や夢を語ってもらおうとすると、何割かの人は堂々と自分の想いを話されますが、半数以上は「特にないです」「まだ決まってないです」といって自分のことを話そうとしません。そこで、それらの人に対して「自分のことを話すのは恥ずかしいですか? 」と聞いてみると、ほぼ全員が「はい」と答えられます。
これを社会人に置き換えてみると少し状況が変わってきます。新卒社員や20代前半の若手社員に対して同じ質問を投げかけてみると、学生よりは自分の目標や夢を語れる人が増えています。しかも、自分のことを話せない人に対して「自分のことを話すのは恥ずかしいですか? 」と聞いても、「恥ずかしいとは思っていませんが、本当に目標や夢がみつけられません」と答える人が増えてきます。
そして、更に年齢層が上がり、中堅、ベテラン社員になってくると、更に自分の目標や夢を語れる人が増えてきます。そして、自分のことを話せない人に対して「自分のことを話すのは恥ずかしいですか? 」と聞くと、「自分を語ることができないことに恥ずかしさを感じます」とまで答える人も出てきます。
このように、自分のことを話す、つまり自己表現をすることは年齢によって捉え方が違い、年齢が高くなる程、自己表現の必要性を感じている人が多くなることが分かります。
■アサーション
キャリア理論には自己を表現する方法として、アサーションという考え方があります。アサーションとはコミュニケーション技法のひとつで、「よりよい人間関係を築くために、自分や相手を認め合いながら自己表現する方法」です。「自己表現」という言葉だけを取ると「我を通す」といったことにもなりかねませんが、アサーションはそうではなく、お互いのことを尊重し認め合いながら自己表現を行います。そして、それが実現できている状態のことをアサーティブと呼びます。
アサーションの技法について語りだすとかなりのボリュームになってしまうのでここでは割愛しますが、社会人になるとアサーティブを確立しようとする人が増えてきます。これは社会や仕事において自己を表現することが必要ということの表れではないかと思います。
■なぜ、自己を表現しなければならないのか?
それでは、なぜ社会や仕事において自己を表現することが必要なのでしょう? 少し乱暴な考えかもしれませんが、私はこの社会が、自己を表現できる人の方が有利に働くからではないかと考えています。実際、会社を経営している人や会社で上位の役職に就いている人などは自己表現に長けている人が多くいますし、世に名前の知れている人も須(すべから)く、みな自己表現に長けています。
これは、この社会で勝ち上がっていくためには、自分はこうだ! と自己表現できる必要があることの表れではないかと考えます。だからこそ、社会人になると自己表現の必要性を肌で感じ取り、自己表現ができるようにアサーションのような技法を身につけようとするのかもしれません。
■「恥ずかしさ」のその先に
しかし、そのためには自己を表現することの「恥ずかしさ」を克服しなければなりません。これはどの年代であっても大変なことだと思います。キャリア相談を受ける場合ても自己表現を苦手としている人がおられるのですが、その場合、じっくりと相手との信頼関係を築き、相手が自分から話がしやすくなる状況をつくるようにしています。
それ以外にも、相手に自己表現ができている自分をイメージしてもらい、その自分をどう感じるかを考えてもらうようなこともします。自己表現を苦手としている人は、自己表現できるような自分になりたいという願望をもっていることが多いので、こうすうることで、自己表現できる自分をつくる強い動機づけになります。その結果、「恥ずかしさ」を克服し、その先にある自己表現ができる自分に到達し、想い描くキャリアをつくることができるようになってきます。
自己表現が求められる社会というのは少し厳しい感じもしますが、そういう時代だからこそ自己表現ができるようになっておくと、この社会の荒波を渡っていくことができる有効な武器になるのかもしれませんね。