第83回 ツカミをつかむ
こんにちは、キャリア・コンサルタント高橋です。
研修にせよ、講演にせよ、出だしの「ツカミ」は結構大切です。ツカミがうまくいくと、受講者との距離が近づき、その後の研修や講演の流れに弾みがつきます。逆に、ツカミがうまくいかなかったり、ツカミを入れなかったりすると、受講者が傍観者となり、その後の研修や講演のリズムが取りづらくなったりします。今回はそんなツカミについての話です。
■後出しジャンケン
筆者が研修や講演でよくやっているツカミの1つに「後出しジャンケン」というものがあります。やり方は、まず最初に講師(自分)対受講者でジャンケンをします。このとき、受講者は後出しで必ず勝つように伝えます。例えば、講師がパーを出した場合、それをみた受講者が後からチョキを出すのです。これを3回繰り返しますが、最初は、
「じゃーーーーん、けーーーーん、ぽーーーーん! ぽーーーーん! 」
のようにかなりゆっくりジャンケンします(2回目の「ぽーーーーん! 」で受講者が出します)。そうして、2回目は、
「じゃーん、けーん、ぽーん! ぽーん! 」
のように少し早くします。そして、3回目は、
「じゃん、けん、ぽん! ぽん! 」
のように普通の早さでジャンケンをします。これはほぼすべての受講者が勝つはずです。しかし、ここまでが準備運動、ここからが本番であることを伝えます。ここからは、今まで同じように後出しジャンケンをするのですが、今度は受講者がわざと負けるように指示します。例えば、講師がパーを出した場合、受講者は後からグーを出して負けなければなりません。そして、これも先ほどと同じように少しずつスピードを上げながら3回繰り返します。
「じゃーーーーん、けーーーーん、ぽーーーーん! ぽーーーーん! 」
「じゃーん、けーん、ぽーん! ぽーん! 」
「じゃん、けん、ぽん! ぽん! 」
面白いことに、このわざと負ける後出しジャンケンは半数以上の人がうまくいきません。中には3回ともうまくいかない人もおられます。そして、ひととおりジャンケンが終わった後でタネ明かしをします。これは、人間の癖を利用したもので、
- ジャンケンは元々勝つものとして頭に刷り込まれており、それを急に変えることができない
- 最初の後出しジャンケンによってジャンケンが勝つことを強くインプットさせている
ことを説明します。この説明によって受講者に気づきをを与え、そこから次の研修や話題へと進めていきます。
■ツカミの重要性
この後出しジャンケンですが、受講者に気づきを与えるツカミとして、いろいろ応用することができます。例えば、ヒューマンスキル向上などの研修の場合、タネ明かしをする段階で、
- 人間の習慣や行動は簡単には変えられないこと
- 人間は普段は意識していない深層心理に行動を支配されていること
- 人は知らず知らずのうちにルールに縛られた生活を送っていること(「ジャンケンに勝つ」というルール)
のように伝えれば、それだけ自分の習慣や行動、ルールを変えることが難しいことを身を持って分かってもらうことできます。そして、そこに、
「でも、もしあなたの習慣や行動、ルールを変えることができるとしたら、それってすごいことだと思いませんか? 」
のように繋げると、そこで一気に受講者の意識を講師側に持ってくることができます。そして、このようなツカミは受講者の緊張を解きほぐすアイスブレイクの役割も果たします。そのため、ツカミを研修や講演の最初にもってくると研修や講演の目的の気づきを与えるとともに場をほぐすアイスブレイクの効果も得られるため、まさに一石二鳥の効果が得られます。
しかし、このようなツカミを入れないままいきなり本題に入ってしまうと、受講者側の警戒心が解けていないため、ツカミを入れた場合に比べ、受講者は研修や講演の内容が入りづらくなります。それは研修や講演の成果にも影響します。このように考えると、ツカミがどれほどの重要性をもっているか分かっていただけると思います。
■普段の生活にこそツカミを!
このようなツカミですが、ある程度熟練の講師であれば誰でも鉄板のツカミをもたれています。そして、このツカミは何も研修や講演だけのモノではありません。上司が部下と話をする、チーム内で発表するなど、普段人と関わり合いをもつ人にとってもツカミは有効に働きます。
簡単なモノでも構いません。ホンのちょっとだけでもいいので、普段の生活にツカミを入れてみてください。きっと、それまでとはちょっと違う人間関係を構築できるかもしれませんよ!