第78回 コーチングのススメ12 コーチングの戦略~クライアントの目標を達成するための考え方~
こんにちは、キャリア・コンサルタント高橋です。
これまで、4SコーチングのSystem(しくみ)、Spirit(考え方)、Skill(スキル)を紹介してきました。今回から最後のSであるStrategy(戦略)を紹介したいと思います。
■なぜ、コーチングはクライアントの目標を達成させることができるのか?
コーチングはクライアントの目標を達成させるため技術です。すべてのコーチング理論はこの前提で話が進められています。しかし、どうやってコーチングはクライアントの目標を達成させているのか? この点について語られている資料はあまり多く見かけられません。むしろ、意図的にこの部分を隠しており、あたかもコーチングのスキルやよく使うフレーズ(言い回し)を駆使することでクライアントを目標に達成させるような書き方をされている文献も見受けられます。そして、実際にコーチングをやってみると分かりますが、スキルやフレーズだけでクライアントが目標に辿りつくことはまずありません。
それでは、コーチングはどうやってクライアントの目標を達成させているのか? この答えを出す前に、目標を達成させる術(すべ)について考えてみます。例えば、ここに同じ能力を持ったAさん、Bさという二人の人がいたとしましょう。この二人は同じタイミングで同じ目標を立てました。そして、Aさんは目標を実現させるための方法を知っており、Bさんは知りません。さて、どちらが目標に辿りつくことができるでしょうか…? 答えは、もちろんAさんです。Aさんは「目標を実現させるための方法」毎日実践することで、目標に辿りつくことができました。
それでは次です。今度はAさんがBさんに「目標を実現させるための方法」を教えたとします。この場合、Bさんは目標に辿りつくことできるでしょうか? これはBさんの状況によってYesにもNoにもなります。仮にBさんがAさんのやり方を問題なくこなすことができれば、BさんもAさんと同じように目標へ辿りつけるでしょう。しかし、Aさんのやり方がBさんに合わず、そのやり方をこなすことができなければ、Bさんは目標に辿りつくことはないでしょう。
それではさらに次です。今度はAさんが自分の「目標を実現させるための方法」をベースに、Bさんに最適な方法を考えてもらうようにした場合はどうでしょうか? これも先ほどの例と同様に、Bさんの状況によってYesにもNoにもなります。ただ、先ほどの例と違い、Bさんにとって最適な方法をBさん自身が考えるため、より柔軟性が高くなります。そして、その方法を見つけることができた場合は、あたかもBさんが自分自身で方法を考えたかのようになりますので、他人から与えられた方法をそのまま行うより目標に辿りつきやすくなります。
このように、目標に辿りつく術を知らない人でも、その方法を考えつくことができれば、目標に辿りつくことができるようになります。しかし、そのためには目標に辿りつくためのベースとなる考え方が必要です。この考え方のことを戦略(Strategy)と呼びます。コーチングではこの戦略をベースにその人にあった目標に辿りつく方法を考えます。そして、その方法を実践し続けるからこそ、「目標に辿りつく」という結果が生まれるのです。
■目標に辿りつくためのベースとなる考え方とは?
この「目標に辿りつくための考え方」、いい方を変えると「戦略」とは一体何か? これを一言でいうならば、「問題解決手法」です。問題解決手法とは、何かの問題を解決するためのしくみ、枠組みのことで、過去にこのコラムでも『問題解決フローの4段階※』として取り上げたことがあります。
《問題解決フローの4段階》
第1段階:課題(イシュー)の把握
第2段階:問題箇所の特定
第3段階:原因の発見
第4段階:解決策の検討
※問題解決フローの4段階:詳しくは『第46回 四方山話(28) 論理思考のススメ5』から3回に渡ってで紹介しています。
この流れに沿ってクライアントに考えを促すことで、クライアントは問題解決フローの4段階を意識することなく、目標に辿りつくことができるようになります。これが4Sコーチングにおけるクライアントを目標に導くための戦略です。
■問題解決フローの4段階(4Sコーチング版) ~第1段階:課題(イシュー)の把握~
それでは、ここからは問題解決フローの4段階をおさらいしながら、4Sコーチングではどのように考えるのかを見ていきます。第1段階は『課題(イシュー)の把握』でした。論理思考では問題の根幹となる部分(本当の問題)を見つけ出すことをしていますが、4Sコーチングでは成功要因になぞらえて考えます。
成功要因は『第69回 コーチングのススメ2』で紹介していますが、物事が成功するために必要となる4つの要因のことで、『目標(Goal)』『環境(Environment)』『方法(Method)』『行動(Action)』のことで、これら4つの要因がすべて満たされているときに物事が成功すると仮定しています。
この第1段階では成功要因1つずつを10点満点で点数化し、点数の最も低い成功要因を今回取り扱う問題点とします。このとき、以下の成功要因レーダーチャートを使用すると、問題をクライアントがどのように認識しているかが可視化されます。
成功要因レーダーチャート
■問題解決フローの4段階(4Sコーチング版) ~第2段階:問題箇所の特定~
第1段階で問題となる成功要因が何かが分かったら、次の段階では『問題個所の特定』でした。論理思考では目標としてあるべき姿と現状の姿を認識し、その差分から問題の原因を検討しましたが、4Sコーチングでもこの流れは基本的に同じで、以下のように進めます。
《問題個所特定の流れ》
1.目標の確認
クライアントに問題となる成功要因が満たされた状態をイメージしてもらいます。このとき、主体のスライドの原因レベルや結果レベルを活用するとクライアントにイメージしてもらいやすくなります。
2.現状の認識
ここでは問題となっている成功要因からみた現状を認識してもらいます。このとき、主体のスライドの人称レベルを活用するとクライアントに現状を認識してもらいやすくなります。
3.差分の検討
目標と現状をイメージしてもらった所で、その差分を考えてもらいます。このとき、客体のスライドを使い、差分をミドルチャンクに据えます。そうして、チャンクの大きさを変えることで差分をイメージしてもらうと、クライアントが差分を意識しやすくなります。
4.問題個所の特定
差分を意識してもらった所で、満たされていない成功要因の問題点は何かを考えてもらいます。このとき、クライアントから導き出された考え方が浅いとコーチが感じた場合、客体のスライドを使いチャンクダウンで内容を掘り下げます。また、クライアントが導き出した答えに対して、コーチは中立の立場で受け入れるようにします。
■戦略と戦術を使い分ける
今回は4Sコーチングの戦略(Strategy)について紹介しました。なぜ、コーチングがクライアントの目標を達成させるかは冒頭説明させてもらったとおりですが、コーチングを進めるためには必ず戦略が必要です。4Sコーチングには今回紹介している『問題解決フローの4段階』以外にもいくつかの戦略があります。このようなコーチングの戦略は他にも有名な所でGROWモデルのようなモノもあります。どの戦略を使うかはそれぞれのコーチング理論によって違いはあるものの、どの戦略もすべて問題を解決するために考え出された手法です。
そして、この戦略を実現するために戦術という考え方が必要になります。ここでいう戦術は4SコーチングにおけるSkillのことを指します。つまり、戦略(Strategy)を機能させるために戦術(Skill)を使い、戦術(Skill)を使うことでコーチングを正しく働かせます。そのため、戦術(Strategy)や戦術(Skill)の違いを理解し、それぞれを正しく使い分ける必要があります。
次回はコーチングのススメ最終回として戦略(Strategy)のつづきと、コーチングを使う上でのポイントなどをお話ししたいと思います。