第77回 コーチングのススメ10 相手を認める言葉~Youメッセージ~
こんにちは、キャリア・コンサルタント高橋です。
前回までに4Sコーチングの話す内容の1つである「考察」のスキルである主体のスライド、客体のスライドについて紹介してきました、今回からは、話す内容の2つにあたる「承認」のスキルを紹介します。
■承認とは認めること
「承認」と一言でいうならば、クライアントの発言をコーチが認めたことをクライアントに伝える話し方のことです。一般的に会話は聞き手が話し手の内容を理解している前提で進められます。しかし、相手が自分の話した内容を理解せずに会話が進められていると、話す側は自分の話した内容が相手に伝わっているか不安になり、会話に集中しづらくなります。逆に、相手に自分の話した内容が理解されていると感じると、会話の内容はさらに濃く、深くなっていきます。
コーチングはこの話し手の心理を利用し、意図的にクライアントの言葉を承認する(認める)ような振る舞いをします。また、承認にはクライアントが話した内容をコーチが理解していることを確認する意味合いもあるため、クライアントは自分の意図したとおりにコーチが理解していることを知ることができるようになります。
■Youメッセージ
4Sコーチングでは、Youメッセージと呼ばれる方法で承認を行います。Youメッセージとはクライアントの状態をありのままでクライアントに伝える伝え方です。そのためYouメッセージにはコーチの考えや想いといったコーチの主観は一切入りません。通常、相手の言葉を受け入れるためには、何かしらの根拠が必要です。その根拠が客観的な事実に基づくほど公平性が高くなり、誰からも納得されやすい内容になります。そのため、Youメッセージでは、クライアントのありのままの状態を客観的な事実として捉え、その情報をクライアントに伝えます。そうすることで、コーチが行う承認は公平性が高くなり、承認される側(クライアント自身)も受け入れやすくなります。以下はYouメッセージの例です。
- 「今、目をそらしましたね? 」(クライアントが「目をそらした事実」を承認しています)
- 「あなたがその仕事に任命されているのは、紛れもない事実ですよね? 」(「仕事に任命されている事実」を承認しています)
- 「彼女は、指導の結果、遅刻することがなくなりましたね? 」(「遅刻がなくなった事実」を承認しています)
- 「彼は、初めて担当したプロジェクトを成功させましたよね? 」(「プロジェクトを成功させた事実」を承認しています)
Youメッセージを作るためには、話そうとするキーワードと、客観的事実のレベルを組み合わせることで承認の内容を作り出します。客観的事実とは、クライアントの言葉、行動、仕草などから考えられる客観的にみた事実のことで状態、存在、変化、成果のレベルに分かれています。
客観的事実のレベル
- 状態レベル … クライアントの言葉をそのまま承認するレベル
- 存在レベル … 状態レベルの派生形で、クライアントの状態そのものを承認するレベル
- 変化レベル … クライアントに何かしらの変化があった場合に、その変化を承認するレベル
- 成果レベル … 変化レベルの派生形で、変化がある成果となって表れている場合に、その成果を承認するレベル
状態レベルは、クライアントが発した言葉をそのまま承認する方法で、バックトラッキングとパラフレージングという方法に分かれます。バックトラッキングとは、クライアントが発した言葉をそのままの状態で承認しますが、パラフレージングだと、クライアントが発した言葉をコーチの中で要約して承認します。これらの方法を行うと、クライアントは自ら発した言葉をコーチに受け入れられたと感じ、さらに深い部分の考えや想いを掘り下げる効果が期待できます。
Youメッセージ(状態レベル)の例
- クライアント:「昨日、めちゃくちゃ疲れててさぁ・・・」
→(バックトラッキング)「めちゃくちゃ疲れたんですね? 」
→(パラフレージング)「目の下にクマがありますね? 」
- クライアント:「イマイチ、説明が分からかったよ」
→(バックトラッキング)「説明が分かりませんでしたか? 」
→(パラフレージング)「理解できなかったようですね? 」
- クライアント:「やっぱり言ったとおりになった! 」
→(エコーイング)「言ったとおりになったの? 」
→(パラフレージング)「あなたの言葉どおりですね? 」
ちなみに、状態レベルは、クライアントの言葉を返す技法であるため、質問の方法は必ずクローズド・クエスチョンになります。また、バックトラッキングとパラフレージングを比較すると、一般的にはパラフレージングの方が効果が高くなります。
存在レベルは、状態レベルの派生形で、クライアントの状態をそのまま承認する方法です。ここでいう「状態」とは、言葉(内容ではなく、言い回しや抑揚、フレーズなど)、仕草、行動などのことを指します。状態レベルの承認は、クライアントにその状態(言葉、行動、仕草など)を認めさせる効果があります。
Youメッセージ(存在レベル)の例
- クライアント:(イライラした口調で)「昨日、むりやり買い物に連れて行かされたよ」
→「眉間にシワが寄ってますね? 」
- クライアント:(煙草を吸っている)
→「煙草を吸われていますね? 」
- クライアント:(時計を気にしている)
→「時間が気になりますか? 」
変化レベルは、クライアントの会話で何かしらの変化が起きている事例がある場合に、その変化した状態を承認する方法です。変化レベルでは変化した事実を承認するため、クライアント自身が気づいていない変化を意識してもらう効果があります。それが、クライアントにとって意図していない変化であればあるほど、クライアントの気づきは大きく、強力になります。また、変化した事実をすでにクライアントが知っている場合でも、変化レベルの承認を行うことで、コーチがクライアントの変化を認めたことになるため、クライアントのモチベーションが変化しやすくなります。
Youメッセージ(変化レベル)の例
- クライアント:「プログラミングにも慣れてきました! 」
→「プログラミングテストのエラーがなくなってきたね? 」
- クライアント:(相手の筋肉のつき具合をみて)
→「ちょっと筋肉がつきましたか? 」
- クライアント:(クライアントの話し方を聞いて)
→「落ち着いた話し方をされるようになりましたね? 」
成果レベルは、変化レベルの派生形で、クライアントに起きている変化がある成果に達している場合、その成果を承認する方法です。基本的な効果は変化レベルの承認と同じですが、成果レベルの方がより強力な承認となります。
Youメッセージ(成果レベル)の例
- クライアント:「ついに、司法試験に合格しました! 」
→「あなたも弁護士の仲間入りですね? 」
- クライアント:(リーダーに昇格して)
→「あなたの頑張りが結果として表れましたね? 」
- クライアント:(指導していた部下が成果を出した)
→「あなたの指導が実を結びましたね? 」
■あなたの会話に承認を
今回は話す内容の「承認」のスキルからYouメッセージという方法を紹介しました。Youメッセージ自体は普段の会話でもよく使われる話し方です。俗にいう「聞き上手な人」は、Youメッセージがうまい人といい換えることができます。テレビのバラエティ番組で司会をされている人の話し方を聞いていると、聞き上手な人ほど、Youメッセージを巧みに使われていることが分かります。試しに、普段の会話に意識してYouメッセージを取り入れてみてください。きっと、相手はあなたのYouメッセージによって話が引き出され、あなたは聞き上手になっていることでしょう。Youメッセージはそれほど強力なスキルです。ぜひ、やってみてくださいね。
それでは、次回は「承認」スキルの発展系である「意見」のスキルについて紹介したいと思います。
コメント
abekkan
Youメッセージで「君にこれをやってほしい」と言うと命令されてる感を与えてしまうので、Iメッセージで「私は君にこれを期待している」と言う方が受け入れられやすい。という話も聞きます。IメッセージとYouメッセージは内容や立場に応じて使い分けなくてはいけませんね。ちょっと難しい(^_^;)。
abekkanさん、
いらっしゃいませ♪
コメントありがとうございます。
YouメッセージとIメッセージの使い分けはコーチングによって色々と違いますが、私の場合、
Youメッセージ:そのままの状況を認める(誰が行っても同じ結果になる)
Iメッセージ:その人の主観を交えて意見する(人によって違う結果になる)
としています。そのため、例えば、相手が何かしらの目標を達成したとして、Youメッセージの場合は、
「目標を達成したねっ!」
という事実のみを伝えてますが、Iメッセージの場合は、
「(目標が達成して)素晴らしいっ!」
という「素晴らしい」という主観が入るため、一般的にはIメッセージの方が強い力があるといわれています。この辺の話は次回のコラムネタになっているので、よかったら覗いてみてくださいね♪