第43回 四方山話(25) 論理思考のススメ2
こんにちは、キャリア・コンサルタント高橋です。
前回から論理思考の考え方を紹介しています。今回は前回紹介した論理思考の2つの要素の1つである「論理的な考え方を身に付けること」の続きで、「選択肢の漏れがないか? 」について考えてみたいと思います。
■「選択肢の漏れがないか? 」
前回のコラムでは「話の筋道が通っているか? 」について話しましたが、これは、話の筋道や理屈が通っているかを考えることでした。そして、そのための考え方として演繹法、帰納法を紹介しました。しかし、話の筋道や理屈が通っていれば、それだけで物事を論理的にとらえられているかといわれれば、実際にはそうならないこともあります。例えば、前回のコラムで例としてあげたプログラミングの進捗が遅れていたときの原因を今一度考えてみます。前回は、
「体調が悪かった」
「技術的な問題に直面した」
という2つの原因をあげましたが、原因として想定される内容はこれがすべてではないはずです。他にも、
「現場の人間関係に問題があった」
「PCの障害による物理的な作業中断があった」
「停電が起きて、仕事どころではなかった」
など、いろいろな原因が考えられます。もし、新たにあげたこれらの原因でプログラムの進捗に遅れが出ていたのであれば、最初にあげた「体調が悪かった」「技術的な問題に直面した」という答えは、話の筋道は通っていても、正しい答えを示せていないことになります。このように、物事を論理的に考える場合、判断の基準となる選択肢をすべて見付け出しておかないと、正しい答えを導き出せないことがあります。
そこで、判断の基準となる選択肢をすべて見付け出すためにMECEという考え方があります。これを前回の「物事を論理的にとらえる方法」にあてはめると以下の図のようになります。
■MECEとは
MECEとは、Mutually Exclusive and Collectively Exhaustiveの略称で、「ミーシー」、もしくは「ミッシー」と呼ばれます。これは「相互に排他的な項目であり完全な全体集合」と訳されますが、要するに、
漏れがなく!
ダブリがなく!
全体をとらえている!
ことを表しています。それでは、ここで問題を解いてみましょう。
――
命題:社内における全社員の構成比を考える
↓
結論 :???
――
この結論にはいろいろな答えが想定されますね。筆者はこのように考えてみました。
結論 :男性、女性
ちょっと拍子抜けするような答えですが、この答えがMECEに適っているのが分かりますか。性別は男性と女性しかないので、社内における全社員は男性か女性かのいずれかにあてはまります。決して、性別が漏れている社員や、性別がダブっている社員は一人もいません※。
※性別がダブっている社員は一人もいません:ここでは両性具有の考え方は割愛します。
それでは、別の答えもみてみましょう。
――
命題:社内における全社員の構成比を考える
↓
結論 :技術職、営業職、事務職
――
これはどうでしょうか。何となく正しいような感じもしますが、少し腑(ふ)に落ちない感じもします。ひょっとしたら、この会社には技術職、営業職、事務職という3部門で構成されているのかもしれません。だとするとMECEっぽいような気もしますが、このような社員はどうでしょうか?
- 社長(3部門以外に所属する社員) → 漏れ!
- 営業SE(技術職と営業職の兼務) → ダブリ!
これらのことが考慮されていないので、「技術職、営業職、事務職」の構成比では全社員を表せておらず、MECEでとらえられていないことが分かります。それでは、どうすればMECEでとらえられるのか……、このように直してみたらどうでしょうか。
――
命題:社内における全社員の構成比を考える
↓
結論 :技術職、営業職、事務職、その他
※複数職を兼務する場合、いずれか1つの職種への所属とする
――
先ほどの結論である「技術職、営業職、事務職」に「その他」を追加することで漏れをなくし、「※複数職を兼務する場合、いずれか1つの職種への所属とする」の注意書きを追加することでダブリをなくしています。何となくズルい(? )感じがしなくもないですが、ちゃんとこれもMECEにのっとって考えられています。
■MECEの考え方を身に付けよう!
このようなMECEですが、実際にやってみると難しく感じる人が結構いるようです。確かに、最初から完璧にMECEの考え方にのっとって物事をとらえると難しいと感じるかもしれません。しかし、MECEで物事を考える場合、コツのようなモノがあります。
《MECE的に物事を考えるコツ》
- 切り口を考える
- 図に描いてみる
「切り口を考える」とは、MECEでとらえる際の基準を考えることです。先の例で全社員の構成比を考えましたが、これらは以下のような切り口でとらえていました。
- 男性、女性 → 性別
- 技術職、営業職、事務職、その他 → 職種
実際にどの切り口で考えなければならないかはそのときの状況によって変わりますが、どのような場合であっても問題の本質に沿った切り口を意識するようにしてください。このとき、MECE的に考えやすい切り口、考えにくい切り口というモノがあります。
《MECE的に考えやすい切り口》
- 全体の範囲が決まっている切り口(性別、年齢、時間、地域など)
- 客観性がある切り口(金額、個数など)
《MECE的に考えにくい切り口》
- 全体の範囲がハッキリしていない切り口(職業、職種など)
- 主観性が強い切り口(感情、感覚など)
「図に描いてみる」とは、文字の通り、MECEを図で書き表してみることです。図の描き方は一般的にはベン図※を使うことが多いですが、それにこだわる必要はありません。あなたが思い付く描き方でMECEを図で表現してみてください。
※ベン図:複数の集合の関係や、集合の範囲を視覚的に図式化したもの。詳しくはこちらをご参照ください。
ちなみに、先ほどの社員の構成比を図で表すとこのようになります。
このようにMECEを視覚化すると分かりやすくなります。特にMECE的に考えにくい切り口を図式化すると空白や重なりが出てくることがあります。この空白が漏れ、重なりがダブリですので、図をじっくり眺め、
- どうすれば空白を埋めることができるか
- どうすれば重ならないないようにできるか
を考えるようにすると、MECEの考え方でとらえることができるようになってきます。
■MECEってみよう!
MECEの考え方は実際のシステム開発の現場でも多く使われています。例えば、設計工程ではデータベース設計の正規化、テスト工程ではテストケースを洗い出す場合などでMECEの考え方が使われます。また、普段からMECEの考え方で物事をとらえていると、選択肢の漏れやダブリに気付く機会も増えるため、論理的に物事を考えることに繋がっていきます。もし、論理的に考えることが苦手だなぁと思われる方は、ぜひMECEって(MECEを使って)みてください!