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第39回 四方山話(21) 水平思考のススメ3

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 こんにちは、キャリア・コンサルタント高橋です。

 前回から引き続いて、今回も水平思考ネタのお話です。これまで水平思考で問題を解決するための4つの手法をご紹介していますが、今回は「視点をスライドさせる」手法をご紹介したいと思います。この手法はコーチングなどでクライアントに気付きを与えたい場合に使われることもあり、水平思考だけに留まらず、いろいろと活用範囲の広い手法です。

■視点をスライドさせる

 いきなりですが、友人と会話をしているシーンを思い浮かべてください。友人はあなたに何やら自慢話をしてきます。でも、その自慢話はあなたにとって心地よい話ではありません。このとき、あなたの心境はどうでしょうか? きっと、穏やかではないでしょう。友人の話を聞き流す程度ならまだしも、反論する、時にはケンカをするなんてこともあるかもしれません。

 それでは、次。今度はあなたの意識を友人の中に移してみてください。あなたは今、友人になりきっています。友人になったあなたの口からは、あなたに伝えたい話がどんどんあふれ出てきます。

移してみてください:実際に精神を乗っ取る訳ではなりません。意識が友人に移ったイメージしてみてください。

 ここで考えてほしいのですが、あなたはどんな気持ちで自慢話をしたと感じましたか? あなたが体験したことや興奮したことを、ただ単純に相手に伝えたかっただけなのかもしれません。また、今話した内容は、決して相手に悪意を与えるものではなかったかもしれません。

 このように、あなたの意識を他の人(物)に移し、その人(物)になりきって物事を考えることを、「視点をスライドさせる」といいます。

 なぜこのようなことをするのか? それは、先ほど試してもらった内容を思い出してください。最初、あなたは友人の話を聞いたとき、穏やかな気持ちにはなれませんでした。しかし、視点をスライドさせ、友人の視点で話をしてみることで、それまでのあなたにはなかった新たな想いや考えがあることを発見しました。この新たな発見こそがあなたにとっての気付きとなります。そして、この気付きを得たいがために、あえてあなたの視点を他の人(物)にスライドさせています。そして、この視点をスライドさせて考えることが、水平思考の「視点をスライドさせる」手法の元となります。

 視点をスライドさせる方法は、大きく分けて2とおりあります。

《視点をスライドさせる方法》

  • 見る側の意識を別の場所(人や物)に移す
  • 見られる側のとらえ方のくくりを変える

 「見る側の意識」というのは、あなたの視点を指しています。最初にあげた例のように、あなたの視点を話し相手や、時には物に移し、その移された人や物の身になって考えてみるということです。

 「見られる側のとらえ方」というのは、あなたが見ている人や物の見方を指しています。これは少し分かりづらいと思いますので、例をあげてみます。

 あなたの目の前にパソコンがあるとします。あなたはずっとパソコンを見ている状態なので、パソコンはあなたからすると見られる側になります。このパソコンの見方(=とらえ方)を変えてみましょう。

 もし、あなたがパソコンというものを知らなければ、目の前にあるモノは何に見えますか? きっと何かしらの機械だろうなぁ……という見方になるでしょう。逆にあなたがパソコンに精通していたとしたら、そのパソコンはどのような見方になるでしょう。CPUがIntel Corei7-3770 3.4GHzでRAM 16GB、ROM 1TBのデスクトップPCで……のような見方になるかは分かりませんが、目の前にあるパソコンをさらに深く掘り下げたような見方になるかもしれません。

 目の前にある対象物自体は何も変わっていませんが、その見方(=とらえ方)がパソコンから機械に、パソコンからCPUがどうたら……と変わっています。このとらえ方のことを「チャンク(塊)」と呼びます。そして、とらえ方を大きく、大雑把なくくることをチャンクアップ、とらえ方を小さく、詳細にくくることをチャンクダウンと呼びます。

  • パソコン -> (チャンクアップ) -> 機械
  • パソコン -> (チャンクダウン) -> CPUがどうたら……

 これらが、「視点をスライドさせる」手法です。

■さて、ここで問題です!

 それでは、今回も水平思考で問題を解いてみましょう。今回はこの問題を用意してみました。

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《バーテンダーと男の話》

ある男がバーに入ってきて、バーテンダーに水を一杯注文しました。
バーテンダーは銃を取り出し、男に狙いをつけて撃鉄を上げました。
男は「ありがとう」と言って帰って行ってしまいました。これは一体どういうことでしょうか?

(ヒント)
Q:男が水を頼んだ時、彼は変な頼み方をしていましたか?
A:はい。

Q:男は本心で「ありがとう」と言ってるのですか?
A:はい。

(Jed's List of Situation Puzzlesより一部抜粋)

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 この問題も水平思考ではおなじみの問題で、Wikipediaにも「シチェーションパズル」の例題として紹介されています。今回はこの問題を「視点をスライドさせる」手法と考えてみます。せっかくなので、過去に取り扱った手法も取り混ぜながら考えてみましょう。

 この問題、一見すると何のことやらさっぱり分かりませんので、まず最初にこの問題の目的をハッキリさせておきます。これは、人によって答えが違うと思いますが、筆者はこのように考えてみました。あなたなりの答えを考えてみてください。

《『バーテンダーと男の話』の目的》

男がバーテンダーに銃を突きつけられたにも関わらず、「ありがとう」と言って帰ってしまった訳を考える

 それでは次。この問題の背景にある前提条件を考えてみましょう。これもいろいろ出てきそうですが、筆者はこう考えてみました。

《『バーテンダーと男の話』の前提条件》

  • 男はバーに入り、変な頼み方で水を注文した。しかし、変な頼み方がどのような頼み方なのかは分からない。
  • バーテンダーを銃を取り出し、男に狙いをつけて、撃鉄上げた。しかし、バーテンダーは銃を撃たなかった。
  • 男は本心で「ありがとう」と言い、何も注文をせず帰ってしまった。

 特に矛盾や抜けになりそうなところは見つからなかったですね。それでは、次に「視点をスライドさせる」手法を使って考えてみましょう。ここでは、見る側の意識を変えてみます。最初はバーテーンダーに意識を移してみましょう。

《バーテンダーの行動》

あなた(バーテンダー)は、男に水を注文された後、男に銃を突きつけ激鉄を上げます。その後、男はあなた(バーテンダー)に向かって「ありがとう」と言い、帰って行きました。

 あなた(バーテンダー)の行動には、どのような意図があったことが推測されると思いますか? これもいろいろと考えられそうですが、このような考えはどうでしょうか。

《バーテンダーの意識》

  • 男が変な頼み方を水を注文したことを聞いた(見た)。だから、私(バーテンダー)は男に銃を突きつけた。水を注文したことが銃を突きつけるきっかけとなった。
  • 銃を突きつけたのは、男のためにやってあげたのだ。だから、男から心からのありがとうと言われたのだ。

 何となく答えが分かったような、分からないような……。それでは、今度は男に意識を移してみましょう。

《男の行動》

あなた(男)はバーに入り、バーテンダーに水を注文します。その後、バーテンダーは銃を取り出し、あなた(男)に狙いをつけて激鉄をあげます。それを見たあなた(男)はバーテンダーに「ありがとう」と言い、バーを出て行きます。

 先ほどと同様、あなた(男)の行動は、どのような意図があったことが推測されると思いますか? 筆者はこのように考えました。

《男の意識》

  • 私(男)はどうしても水が飲みたかった。だからバーに入り、水を注文した。
  • 私(男)を見たバーテンダーを、私のために銃を突きつけてくれた。
  • それを見た私は水を飲む必要がなくなり、すごくありがたいと思った。だから、私はバーテンダーに「ありがとう」といい、バーから出て行った。

 こんな感じでしょうか。

 それでは、ここまで出てきた前提条件、バーテンダーの意図、男の意図を結びつけて考えてみます。これらの状況を結びつけて考えてみると、どのような状況が推測されるでしょうか? 筆者はこのように考えました。

《『バーテンダーと男の話』で想定される状況》

男が水を飲まなければならなかったのはなぜか?
 ⇒喉が渇いているから
 ⇒喉が詰まっているから

バーテンダーが男に銃を突きつけたのはなぜか?
 ⇒男を(暴漢か何かから)助けてやろうと思ったから
 ⇒単純に驚かせてやろうと思ったから

……ん? 結びつけられる情報はありそうですね。そう、「喉が詰まっているから」と「驚かせてやろうと思ったから」です。ここまで分かってくれば、答えが導き出せそうですね。種明かしをすると、この話はこんな状況だったのです。

《『バーテンダーと男の話』で想定される状況(模範解答)》

男はシャックリが止まらず、バーに駆け込み、水を注文しました。
バーテンダーはシャックリの声を聞いて状況を知り、手っ取り早い方法として、銃で男を驚かしてシャックリを止めようとします。
男は驚きましたが、無事シャックリが止まったので喜び、「ありがとう」を告げ、バーを出て行きました。

(Jed's List of Situation Puzzlesより一部抜粋)

 いかがでしたか? 何となくもやもやした感じは残りますが、話の整合は取れていそうです。ただし、これが唯一の答えではありません。以前にもお話ししましたが、水平思考で物事を考えた場合、必ずしも想定される解答は一つとは限りません。むしろ、大抵は複数出てきます。ここでは導き出した解答と用意された解答が一致することが重要なのではなく、問題と導き出した解答との整合が取れていることが、問題解決にとって重要であることを理解してください。

■「視点をスライドさせる」手法のコツ

 「視点をスライドさせる」手法にも他の方法同様、コツがあります。

《「視点をスライドさせる」手法のコツ》

問いかけに対して、以下のような考え方でとらえてみる。

①問題に登場する対象(物)に意識を移してみる

 人に意識を移す場合、その人に成り切って考えてみる
 物に意識を移す場合、その物にもし意識があったら感じるだろうと思われることをイメージする(擬人化)

②問題に登場する対象(物)のとらえ方を変化させてみる

 とらえ方を大きく抽象的なくくりにしてみる(チャンクアップ)
 とらえ方を小さな具体的なくくりにしてみる(チャンクダウン)

 ③対象(物)の視点をスライドさせて得られた情報と目的、前提条件とを結びつけ、目的を導き出せるかを考えてみる

■イノベーションを起こそう!

 冒頭にも書きましたが、「視点をスライドさせる」手法はコーチングでもよく利用されます。私たちは思い込み、癖、感情などによって自分自身が意識している、していないに関わらず、かたよった物の見方をしています。今回ご紹介した「視点をスライドさせる」手法は、かたよった物の見方によって隠されている事実を浮き彫りにする効果があります。普段から視点をスライドさせて物事をみる癖をつけておくと、水平思考で物事を考えやすくなるだけでなく、いざという時にイノベーション(革新)的なアイディアを創造しやすくなります。さぁ、水平思考でイノベーションを起こしましょう!

良く利用されます:人や物に意識を移す方法をリフレーミングといいます。

Comment(3)

コメント

鬼塚

一回くらいなら、つまらない「頭の体操」もいいかもしれませんけどね。仏の顔も三度まで・・・ということも言われているで。

ホントにプロジェクト・マネージメントで深刻になやんでいる人が、こんな記事読んで参考になるのかなあ・・・なんて疑問に思っちゃいます。

キャリア・コンサルタント 高橋

鬼塚様、

貴重なご意見ありがとうございます。

例えば、納期遅延が起きている開発現場では、水平思考を使うより、クラッシング、ファストトラッキング、残業(作業工数の追加)などプロジェクト管理の考え方が有効に働くと思います。
また、何か新しいモノを創造する場合などでは、プロジェクト管理の考え方より、水平思考の方が向いているのではないかと思います。

思考法や考え方というのは、それ一つでオールマイティに使えるものではなく、状況に応じて複数の考え方を上手に使い分けることが大事なのかなと思っております。
その意味で、今回水平思考という考え方をご紹介することで、読者の方に何か一つでもプラスになることがあればと思い、コラムに書かせていただきました。

james.katou

今まで様々なアイデア出しの本や技法学んできたけど、
結局水平思考の技法が広く普及し過ぎていて、ロジカル思考の域を
超えないんじゃないかと
決まった技法で思いつくものなんて既に
考えついてしまっていてほとんどが陳腐なアイデアにとどまるというか、

名案はよく言われる三上
>寝ている時、馬に乗っている時、便所で用を足している時と言われますが
自分の場合、本当にいいアイデアは
寝ている時にに天から降りてくる様に思いつくことの方が多いですね。

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