第37回 四方山話(19) 水平思考のススメ
こんにちは、キャリア・コンサルタント高橋です。
先日、用事があって大型書店に立ち寄りました。そのとき人材開発のコーナーを通ったのですが、思いのほか考え方や思考法の本がたくさんあることに気付きました。そういえば、筆者も思考法の研修を行うことがありますが、思考法の研修は需要があるのか、参加者に喜んでもらえることが多いです。そこで、今回は思考法の中でも水平思考について書いてみたいと思います。
■いきなりですが、ここで問題です!
思考法の話はアレコレ述べるより、実際に問題を解いてもらった方が早いので、まずはこの問題を考えてみてください。
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≪年老いた醜い金貸しに借金した父親と娘の話≫
多額の借金をした父親と娘に対して年老いた醜い金貸しが話を持ちかけました。敷地に散らばっている石から白い石と黒い石を一つずつ選んで袋に入れたくじを作り、引くように提案します。
「娘がもし白い石を引いたら借金は帳消しにするし、何もしない。しかし、黒い石を引いたら借金は帳消しにするが、娘は嫁として貰い受ける。また、このくじを引かないなら、借金を今すぐ返せ!」
と金貸しは迫りました。
若く美しい娘は年老いた醜い高利貸しのところには嫁に行きたくありません。
この時、高利貸しは袋に2つとも黒い石を入れてしまいます。
しかし、石を袋に入れる所を娘は見ていました。
さて、娘はどのように行動するのが賢いでしょうか?
(水平思考の世界―電算機械時代の創造的思考法 エドワード・デボノ(著)より一部抜粋)
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これは水平思考という考え方を語る上で避けて通れないほど有名な問題です。それは、『年老いた醜い金貸しに借金した父親と娘の話』で検索してみると非常にたくさんの検索結果が出てくることからも分かります。
この問題、一般的な考え方をすれば、以下のような答えに集約されるのではないでしょうか。
- 娘がくじを引くのを拒否する
- 袋の中身から2つの黒い石を取り出し、インチキを暴く
- 父を救うためにあえて黒い石を取る
しかし、この問題の本当の答えはこの中にありません。この問題の答えはこうでした。
娘はくじを引いた後、わざと石の色を確認せずに敷地に落としてしまいます。その後、こんなことをいい放つのです。
「あらっ、私ってそそっかしいわね。でも大丈夫! 袋に残っている石の色を見れば引いた石が何色だったか分かりますものね♪ 」
「うぉーーー、やるねーーー! おじょーちゃーーーん! 」と思わず叫びたくなるほど見事な答えです。この答えを聞いたときの金貸しの顔が目に浮かびそうです。この答えでは、高利貸しのインチキを利用しつつ、父娘にとって有利な状況を引き出すことに成功しています。最初の3つの答えは論理思考にもとづいた考え方ですが、4つ目の答えは既存の枠組みにとらわれない自由な発想で問題を考えています。このような考え方を水平思考といいます。
■水平思考の考え方
水平思考で問題を解くにはいくつかの方法がありますが、ここでは「解決させる目的をハッキリさせる」という考え方を使います。問題をもう一度みてください。問題には「さて、娘はどのように行動するのが賢いでしょうか? 」とあります。この問題は「賢い」をどう読み解くかがポイントです。その読み解き方によって、答えが大きく変わってくるのです。
例えば、「賢い=最適な石を選ぶこと」ととらえると、論理思考の答えになるでしょう。しかし、父娘の立場に立って考えれば、「賢いこと=父と娘が助かること※」ではないでしょうか。そう考えると、石を選ぶという行為はその目的を達成するための手段にすぎません。石を使って何をしようが、要は助かればいいのです。このように考えるからこそ、石を落とすという発想が生まれ、「あらっ、私って…」のようなナイスな答えが生まれてくるのです。
※助かること:父親からすれば借金が帳消しになることでしょうし、娘からすれば金貸しの元に嫁に行かないことです。
■水平思考を実際の生活や仕事に生かそう!
このような問題はシチュエーション・パズルとも呼ばれ、古くからたくさんの問題があります。また、日本では多湖輝先生の『頭の体操』シリーズが有名です。こういった背景から水平思考の考え方はパズルやクイズを解くためのモノととらわれがちですが、筆者はそれだけではないと考えています。水平思考こそ、わたしたちの生活や仕事に生かせるものです。
「新しい事業計画を立てなければならないが、革新的な内容が思いつかない」
「失敗をしてしまったことをお客さまに報告しなければならない」
「今日が結婚記念日なことを、すっかり忘れていた! 」
こういったときにこそ、水平思考を使ってみる価値があります。ひょっとしたら、最初は有効な答えが何も出てこないかもしれません。それでも考え続けてみてください。思考法を身に付けるためには、何度も繰り返して思考法を使い、習慣化させることが一番です。そうやって生みだされた答えは、きっとあなたにとって価値あるモノになるでしょう。そして、あなたの中で習慣化された思考法は一生涯に渡り消えることがなく、ずっとあなたの強い武器となるでしょう。
なお、補足としてこの記事では論理思考と水平思考を比較していますが、どちらの思考法が優れているということではありません。どちらの思考法にも長所や短所があります。大切なことは、それらを互いに補いあいながら上手に活用することだと筆者は考えます。