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第13回 キャリコン事例(6) 自分の会社に将来が見出せない

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 こんにちは、キャリア・コンサルタント高橋です。

 今回のキャリコン事例は、自分の会社に不安を感じているITエンジニアの話です。忙しく仕事をする反面、社員のキャリア形成を意識していないような会社のITエンジニアはどのようにして自分のキャリアを考えていけばいいのでしょうか?

 それでは、はじまりですっ!

…………

■相談者のプロフィール

 渡辺さん(男性・28歳)、小規模ソフトハウスのITエンジニア。業界経験5年。専門はWebアプリケーション開発で、得意言語はPHP、Perl、Ruby、JavaScriptなど。

 渡辺さん 「僕はこの会社に入社して5年になります。うちの会社は受託開発がメインで、主にWebアプリケーションの開発を行っています。うちの会社の方針なのかもしれませんが、あまり利益にならないような仕事でも取ってくることが多いのです。俗にいう薄利多売という状態でしょうか。そのため、納期が厳しい案件も多く、状況によっては同時期に複数の案件を対応することもよくあります」

 渡辺さんは線は細そうですが、受け答えはハッキリしており、誰とでも気軽に打ち解けられるような気さくさを感じます。そのため、話しやすい印象を受けました。

 渡辺さん 「こんな状況なので、開発メンバーはいつも忙しくしています。私は社内では開発主任を担当しており、いろいろな開発案件に関わっています。そのため、他の開発メンバーより多くの技術スキルが身に付けられる状況にあると思います。その点ではありがたいと思うのですが、仕事の振られ方があまりにも厳しいので、最近ではこのままでいいのかな? と自分の仕事に疑問を抱くようになりました」

 渡辺さんはITエンジニアとして忙しい毎日を送っており、技術スキルも順調に身に付けているようですが、その反面、仕事の振られ方が厳しいと感じています。渡辺さんは今の現状に疑問を持たれているようです。もう少し詳しく話を聞いてみましょう。

 渡辺さん 「僕が自分の仕事に疑問を抱くようになったのは、半年ほど前に自分の将来を考えるようになったときからです。例えば、このまま3年間今の仕事を続けたとします。恐らく、その3年間は仕事に忙殺されて、きっと今のような生活の繰り返しになっているでしょう。そうだとしたら、3年後の僕はきっと今の自分と何も変わっていない気がするんです。3年経っても何も変われない会社に居続けるのもどうなのかなと思うようになってしまって……。

 本来であれば、会社は社員に将来どうなってほしいとかがあって、そのために社員を教育をして、社員を育てるようなことをすると思うのです。だけど、うちの会社は目の前の仕事をさばくことにしか考えておらず、社員を育てるということにはあまり関心がないみたいなのです。社員を教育するとしても、目先の開発案件に対応するために必要な技術スキルを習得させる程度のことしかやってもらえません。会社のこのスタンスが悪いとは言いませんが、そうなると、この会社に僕の将来はないだろうなぁと思ってしまいます……」

 渡辺さんは、会社は会社の方針(事業方針)に基づき、将来に渡って会社に貢献する人材を育てるべきだと思っているようです。しかし、今の会社は目先の開発案件に対応することしか目が行っておらず、将来に渡って社員の育成することには関心がないと感じています。だからこそ、今の会社に渡辺さんの未来がないと考えているようです。それでは、渡辺さんの考える未来とはどんなモノでしょうか?

 渡辺さん 「それが、実は僕自身にもよく分かってないのです。将来に不安を感じることはあるのですが、毎日の仕事がこうも忙しいと将来のことばかりを考えているわけにもいかないので、いつの間にか将来のことを考えるのを忘れてしまっています。そして、気付いたら時間だけが過ぎてしまっていて、何の結論も出ていない……。いつもこの繰り返しなのです」

 渡辺さんの会社では、事業方針に基づいて社員を育成しようという考えにはあまり興味がないようです。そのせいか、渡辺さんのような現場の社員は皆目先の案件に追われる毎日を送っています。渡辺さんはそこに疑問を感じているようですが、将来のことを考える時間が取れないまま、時間だけが過ぎてしまっている。だからこそ、この現状を打開したいと考えておられるようですね。そうなると、例えば、転職などの選択肢が思い浮かびそうなものですが、こういったことを考えたことはあるのでしょうか?

 渡辺さん 「もちろん、あります。ですが、それも日々の仕事の忙しさで後回しにしてしまうため、結局は何もできていないですね」

 ここまでである程度渡辺さんの想いを引き出せました。まとめてみましょう。

《渡辺さんの想い》

・会社は事業方針に基づき、将来に渡って会社に貢献できる人材を育成すべきと考えている。一方、会社は目先の案件をさばくことにしか注力していない
 ↓
・会社の方針に疑問を感じつつも、渡辺さん自身は将来のことがよく分かっていない。しかも、仕事が忙しいため、転職を含め、将来のことを考えている余裕がない
 ↓
・だからこそ、現状を打開したい

 渡辺さん 「そうですね、そのとおりだと思います」

 それでは、渡辺さんの問題を1つずつ紐解いていきましょう。渡辺さんは現状に不安を感じており、打開したいと考えています。そこにはどのような想いがあるのでしょうか?

 渡辺さん 「想いですか? それは、先ほどもお話ししましたが、将来このままでいいのかな? という不安からですね」

 渡辺さんは“将来は変わらなければならない”と考えているからこそ、将来が変わらない現状を不安だと感じているのですよね? それでは、“将来は変わらなければならない”と思われる根拠は何でしょうか?

 渡辺さん 「え? 将来は変わらなければならない根拠ですか? そりゃあ……、やっぱり今よりも給料も欲しいですし、よりレベルの高い仕事もしたいです。あっ、部下も持ちたいですね。そういった想いが根拠なのだと思います」

 つまり“今の待遇や仕事の環境をより良くしていきたい”という想いが根拠と言えそうですね。しかし、それは現状のままでは達成できない想いなのでしょうか? 例えば、今の発言内容は過去に実現できていなかったのでしょうか?

 渡辺さん 「僕は開発主任ですので、実現できているかできていないかと言われれば、実現できていることはあると思います……」

 そうだとすると、ちょっと話がおかしくなりますね。渡辺さんは待遇や仕事環境を良くしていきたい想いを持っています。きっとそこには渡辺さんの生活を豊かにし、仕事を通じて成長していきたいという想いが込められているのでしょう。そして、今の会社ではそれは実現できないことだと思っています。しかし、実際には今の会社で実現できていることもありました。それでも渡辺さんは将来に不安を感じています。これはどういうことなのでしょうか?

 この背景には、渡辺さんの想いの捉え方があるように思います。これまでの話を聞いていると、渡辺さんは、自分の想いに対してどこか他人事のように思えます。それこそが、渡辺さんにとって本当の問題なのではないでしょうか。

 渡辺さんの本当の問題……それは、渡辺さんのキャリアを他人任せにしていることにあります。渡辺さんは“会社は社員を育成すべき”という想いを持っています。その考え自体は間違いではありませんが、本当に渡辺さんが自分の将来を考えるのであれば、それは会社ではなく、渡辺さん自身が作り上げていかなければならないのです。キャリアとは他の誰かが作るものではなく、その人自身が自らの力で作り上げるものなのです。だからこそ、その人にとって価値のあるものとなるのです。

 渡辺さんの想い――今の待遇・環境を改善したい――が渡辺さんの心に響いていなかったのは、この想いを実現するのが会社だと考えていたからではないでしょうか。しかし、そうではなく、この想いを渡辺さん自身が実現しなければならないとしたら、渡辺さんは何かを変えようと行動を起こされるのでしょうか? それとも、今のままで何も変わらないのでしょうか?

 渡辺さん 「キャリアを他人任せにしている……ですか。確かにそうかもしれません。将来を不安に感じていたのは、僕の将来を会社に委ねてしまったことにあったのかもしれません。僕の想いを僕自身が実現しなきゃならないとしたら、きっと仕事が忙しくても、今の環境を変えようと何かすると思います。ひょっとしたら、その程度じゃ何も変わらないかもしれませんが、それでも、そのときに感じる不安は、きっと今感じている将来の不安とは違う意味の不安になるような気がします。自分のキャリアは誰かに委ねて作ってもらうものじゃなく、自分自身で苦労しながらでも作っていくものなのでしょうね。僕の想いを実現させるために、まずはやれることをやってみようと思います。実際に動いてみて、うまくいかないことがあった場合には、また相談に乗ってください! 」

それでは、また次回お会いしましょう!

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