ITエンジニアへの5分間キャリア・コンサルティングやってます!

第9回 キャリコン事例(2) 充実していたあの頃の自分を取り戻したい!

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 こんにちは、キャリア・コンサルタント高橋です。

 キャリコン事例の2例目です。今回のお話は古い技術をしか持たないベテランITエンジニアのキャリアについて考えてみます。

 それでは、はじまりはじまり~♪

…………

■相談者のプロフィール

 酒井さん(男性・48歳)、大手家電メーカーの社内ITエンジニア。社内の情報システム部門に勤務。専門はメインフレーム(汎用機)における開発全般で、得意とする言語はCOBOL。

 酒井さん:「私がこの会社に入社したのは、今から30年ほど前、高校卒業と同時に入社しました。当時ITエンジニアと言えば、社内でも花形の職業で本当にやりがいのある仕事でした。うちの会社はたくさんの基幹システムを持っていますが、それらのほとんどを私たちの部署で開発してきました。大変なことも多かったですが、システムを作り上げる喜びは今でも忘れられません」

 酒井さんは中肉中背で姿勢が良く、品の良さが感じられました。また、言葉づかいも丁寧で、年齢と経験を重ねてきた言葉の重みも感じられます。

 酒井さん:「開発はずっと汎用機(主に富士通製FACOM)で行ってきました。言語はCOBOL 85と呼ばれるものです。ただ、15年ほど前からダウンサイジングの風潮がうちの会社にも入ってきまして、いくつかのシステムの再構築がオープン系(クライアント・サーバ型)で行われたのですが、その時にサーバ周りの構築も担当しました。この時は、MicroForcus COBOLという言語で開発しています」

 最近はオープン系を見直す動きもあるようですが、時代の流れで言えば、この先にWeb系(Webアプリケーション型)によるシステム開発の流れがやって来ます。そこはどうのように関わったのでしょうか?

 酒井さん:「確かに、Web系で再構築をするシステムもいくつかはありましたが、私はCOBOLしか使えなかったため、Web系への再構築の開発には加わることはありませんでした。そうこうしている内に、再構築されるシステムもほとんどなくなってしまいました。数年前からは、十数種類ある基幹システムの運用保守業務を行いながら、月に数件対応する発生する簡単な機能改善や改修の対応を行うのが主な仕事です」

 なるほど、これまで酒井さんはシステム開発の第一線で働いてこられましたが、どのシステムも運用保守フェイズに入ってしまったため、主だった開発がなくなり、数年前からは運用保守業務が中心となっている状態なんですね。今の現状について、酒井さんはどう思っているのでしょうか?

 酒井さん:「時代の流れ、と言ってしまえばそれまでかもしれませんが、私のITエンジニアとしての役割は終わったと思います。実際、システムの開発に参加していた同僚は転職や配置転換でほとんどいなくなり、皆、ITエンジニア以外の仕事をしています。ただ、こんなことを言ったら変なのかもしれませんが、私は自分が構築を担当したシステムと約30年に渡って向き合ってきましたので、何だか自分の子供みたいな感覚なんです。そう、今の仕事は子供のお守をしているような感覚ですね。ですので、別段今の仕事に不満がある訳ではないんですよ」

 酒井さんは、時代の流れで変わってしまったご自身の境遇をちゃんと受け入れているように思えました。ただ、それならば、なぜキャリア・コンサルティングを受けているのでしょうか?

 酒井さん:「仰るとおり、今の仕事については私自身の中で受け入れていますので、この点に不満があるわけではありません。しかし、私もITエンジニアとして第一線で頑張ってきた自負があります。ですが、これから先の自分には仕事に対する想いや気持ちを込められるモノが見当たらないのです。今のご時世、仕事があるだけでもありがたいことなので贅沢な悩みなのかもしれませんが、これから先、あの時のように頑張れるモノをもう一度見つけたいという想いがあります。それで、キャリア・コンサルティングを受けました」

 ITエンジニアとして第一線で活躍していた時、きっと酒井さんは充実した時間を過ごしていたのでしょうね。それを今一度取り戻したい、ということなのかもしれません。それでは、もし、酒井さんがITエンジニアを辞めてしまったら、何か他にやってみたいことはあるのでしょうか?

 酒井さん:「ITエンジニアとして仕事ができなくなったとしても、ITエンジニアとかかわりを持つような仕事はしていきたいですね。私は汎用機やオープン系の知識しかなく、今の開発技術には到底ついていけません。しかし、拙い私の知識や経験でも何か人の役に立つことができれば良いですね。私自身、人と接することは好きですし、人に何かを教えることも好きです。私が指導した人が成長し、活躍してくれると、それは自分のことのようにうれしくなります

 ITエンジニアとして仕事ができなくても、ITエンジニアと関わり合いを持ち続けたい。酒井さんが持つたくさんの知識や経験を他の人に役立てたい。そんな酒井さんの想いが込められているような気がしますね。素晴らしいことだと思います!

 ここで、酒井さんの想いがある程度分かりましたので、少し整理してみましょう。

《酒井さんの想い》

・ITエンジニアとして仕事ができなくなっても、ITエンジニアと関わりを持つ仕事がしたい
・酒井さんの知識や経験が誰かの役に立つような仕事をしたい
・人と接すること、人に何かを教えることが好きで、酒井さんが指導した人が成長し、活躍すると、自分のことのように嬉しくなる

 こうやってみると、酒井さんは人、それもITエンジニアを育てるような仕事が向いているように感じますね。ITエンジニアを育てる職業と言えば、研修講師などが思い浮かびます。こういった職業はどうでしょうか?

 酒井さん:「確かにその職業は、私も最初にイメージしました。しかし、私の開発技術では今のITエンジニアに教えることはほとんどないよう思います。そうなると、私は何を通じて、私の知識や経験を伝えれば良いのか見えてきません。この答えが出ない以上、研修講師としての道は難しいと思っています」

 確かに酒井さんの考えも良く分かります。古い開発技術しか持たない酒井さんが、研修を通じて何を教えばよいのか? その問いに明確な答えが出せない以上、研修講師としての道は厳しいように感じます。

 それにしても、本当に酒井さんが想いを実現するような職業はないものでしょうか……?

 ところが、実はそんな職業があるんです! それも、酒井さんの目の前に……、そう、キャリア・コンサルタントです!

 キャリア・コンサルタントは、クライアントが本当に目指したいと思えるキャリアを一緒に見つけ出し、そこに到達するためのお手伝いをする仕事です。特に、酒井さんの場合は30年という長いITエンジニアのキャリアがあります。その経験を生かしたキャリア・コンサルティングは、クライアントにとって非常に心強いものになります。クライアントが想い描くキャリアの実現をお手伝いをする、正に酒井さんの想いに合致する職業ではないでしょうか?

 酒井さん:「なるほど! そういった職業もあるのですね。確かに今の私には最適なキャリアのように感じます。しかし、どうすればキャリア・コンサルタントになれるのでしょうか? 」

 キャリア・コンサルタントについては専門の教育機関で詳しく学ぶことができます。また、キャリア・コンサルタントの国家資格も用意されており、比較的学ぶ環境は整えられています。厚生労働省がまとめたキャリア・コンサルタントの人材像は「標準レベル」「熟練レベル」「指導レベル」の3種類に分類されており、それぞれ以下のようにして認定さていれます。

《キャリア・コンサルタントの人材像と認定方法》

標準レベルキャリア・コンサルタント…厚生労働省が認定した教育機関が実施する研修を受講、試験に合格する
熟練レベルキャリア・コンサルタント…国家検定の2級キャリアコンサルティング技能士に合格
指導レベルキャリア・コンサルタント…国家検定の1級キャリアコンサルティング技能士に合格

※キャリア・コンサルタント:興味のある方はこちらも覗いてみてください♪

 酒井さんはキャリア・コンサルタントの経験がありませんので、まずは標準レベルキャリア・コンサルタントを目指すことになります。そのためには、専門の教育機関で学ばれることが一番確実で早いです。そして、標準レベル取得後は、キャリア・コンサルタントしての実務経験を積みながら、熟練レベルキャリア・コンサルタントを目指していきます。

 ところで、ここで1つ考えなければならないことがあります。それは、これから目指そうとするキャリア・コンサルタントの仕事をするにあたり、今のITエンジニアという仕事をどのするのか、という点です。

 結論を言ってしまえば、酒井さんの場合、キャリア・コンサルタントの実務経験を積む上で、今の仕事を辞める必要はありません。あくまで今の仕事を続けながら、キャリア・コンサルタントとしての実務経験を積むことを考えます。なぜだと思いますか?

 それは、酒井さんが持つ「充実していたあの頃の自分を取り戻したい」という想いを実現させるだけならば、今の仕事を辞めなくても実現できるからです。例えば…、

・酒井さんが所属する部署の専任キャリア・コンサルタントになってみる
・ボランティアで社外のキャリア・コンサルタントに挑戦する

 このような方法であれば、比較的簡単に行い、実務経験も積むことができます。このようにITエンジニアを続けながらキャリア・コンサルタントとしての仕事を続けていくことで、退職のリスクをゼロに抑えながら、酒井さんのITエンジニアに替わる軸である2つ目のキャリアセカンド・キャリアを創り上げることができます。

 酒井さん:「私にも生活がありますので、今の仕事を辞めずにキャリア・コンサルタントの知識や経験を身につけられるのは非常にありがたいです。また、今の仕事が嫌になった訳でもないので、ITエンジニアとしての仕事が続けられるのも良いですね。これからは、ITエンジニアとして働きつつも、キャリア・コンサルタントとして充実した時間を過ごしていくことができるよう、これからのキャリアを積み上げていきたいと思います」

 それでは、また次回お会いしましょう!

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