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第611回 プロジェクトマネジメントの原理原則

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 こんにちは、キャリアコンサルタント高橋です。

 最近、プロマネ系の話が続いていますが、今回もプロマネネタです。

 現在のPMBOKではプロジェクトマネジメントの考え方が二極化されています。それは、プロセス志向原理原則志向です。今回はこの原理原則志向について書いてみたいと思います。

■プロセス志向と原理原則志向

 過去のコラムでも書きましたが、近年PMBOKは大きな動きを見せています。現在のPMBOKの最新版は2022年に発刊された第7版ですが、この第7版とそれまでの第6版とでは内容が大きく変わっています。端的に言うと、このような違いです。

第6版...予測型アプローチ(ウォーターフォール型)
第7版...適応型アプローチ(アジャイル型)

 予測型アプローチは別名計画駆動型とも呼ばれるように計画を立て、その計画の通りにプロジェクトを進めていくやり方です。その際、PMIはプロジェクトマネジメントのやり方や方法を詳細に定義しており、そのやり方の通りに進めていくことを提唱していました。これはやるべきことをプロセスとして規定し、そのプロセスの通りに進めていくプロセス志向と言えるでしょう。

 一方、第7版で登場した適応型アプローチは別名変化重視型と呼ばれるように、その場その場で起こる様々な不確実なことに対して適応させていくやり方です。このやり方はアジャイルの仕組みをプロジェクトマネジメントに適応させているのですが、アジャイルの源流であるアジャイルソフトウェア開発宣言ではこのような原理原則が提唱されています。

アジャイル・マニフェスト(宣言)12の原則

1.顧客満足を最優先し、価値のあるソフトウェアを早く継続的に提供します。
2.要求の変更はたとえ開発の後期であっても歓迎します。変化を味方につけることによって、お客様の競争力を引き上げます。
3.動くソフトウェアを、2-3週間から2-3ヶ月というできるだけ短い時間間隔でリリースします。
4.ビジネス側の人と開発者は、プロジェクトを通して日々一緒に働かなければなりません。
5.意欲に満ちた人々を集めてプロジェクトを構成します。環境と支援を与え仕事が無事終わるまで彼らを信頼します。
6.情報を伝えるもっとも効率的で効果的な方法はフェイス・トゥ・フェイスで話をすることです。
7.動くソフトウェアこそが進捗の最も重要な尺度です。
8.アジャイル・プロセスは持続可能な開発を促進します。一定のペースを継続的に維持できるようにしなければなりません。
9.技術的卓越性と優れた設計に対する不断の注意が機敏さを高めます。
10.シンプルさ(ムダなく作れる量を最大限にすること)が本質です。
11.最良のアーキテクチャ・要求・設計は、自己組織的なチームから生み出されます。
12チームがもっと効率を高めることができるかを定期的に振り返り、それに基づいて自分たちのやり方を最適に調整します。

 アジャイルではこの原理原則を元に実際の開発を行います。PMIはこのアジャイル・マニフェスト(宣言)12の原則からプロジェクトマネジメントの原理原則を以下のように定義しました。

プロジェクトマネジメントの原理原則

1.勤勉で、敬意を払い、面倒見の良いスチュワードである
2.システムの相互作用を認識し、評価し、対応する。
3.複雑さに対処する。
4.協働的なプロジェクト・チーム環境を構築する。
5.リーダーシップを示す。
6.リスク対応を最適化する。
7.ステークホルダーと効果的に関わる。
8.状況に基づいてテーラリングする。
9.適応力と回復力を持つ。
10.価値に焦点を当てる
11.プロセスと成果物に品質を組み込む。
12.想定した将来の状態を達成するために変革できるようにする。

 この内容はアジャイル・マニフェスト(宣言)12の原則とは内容とは違い、プロジェクトマネジメントに特化した内容になっていますが、こうした原理原則を定義することによってPMIは以下のように伝えています。

これらの原理・原則の記述を使用することによって、PMIは価値実現の全貌を通して、つまり、予測型から適応型、およびその中間にあるすべてを対象に、効果的なプロジェクトマネジメントを示せる。
『PMBOKガイド』第7版より

■なぜ、原理原則なのか?

 なぜ、PMBOKは第7版になり原理原則を重要視するようになったのでしょうか。

 その明確な答えはPMIからは出されていませんが、予測型アプローチから適応型アプローチにシフトしたことから、より変化に対応させるプロジェクトマネジメントが必要になると考えたからではないでしょうか。

 変化に対応するというのは、言い方を変えるならば不確実性を受け入れるということになります。そのためにはプロセスのような画一的な方法で対応するのは例外が発生してしまうため難しくなります。それでは、どうすればよいか。

 答えは「不変の考え方」を持つということです。不確実性を目の前にした時に、対処するための絶対的なルールがあれば不確実性にも対処できるようになります。この対処するための絶対的ルールこそが不変の考え方であり、これが原理原則にあたります。

 例えば、プロジェクトで何かしらのトラブルが起こり、何かしらの対応を考えなければならないシーンがあったとします。その時、トラブルを解決することは勿論必要なのですが、その前段として

10.価値に焦点を当てる

この考え方をプロジェクトメンバー全員が持っていたとします。そうした場合、そのトラブルを対処する上で「どうすればこの瞬間に価値を高めることができるのか?」という視点が生まれますよね。また、

9.適応力と回復力を持つ。

この原理原則は「Fail Fast(失敗を恐れない)」という考えなのですが、失敗することよりも、失敗から早く回復すること、失敗に対して適応力を身に付けること、そちらに意識を向けようという意味です。この考え方をプロジェクトメンバー全員が持っていたとしたら、対処方法も変わってきますよね。

 原理原則を持つということは、物事の判断の拠り所を持つということです。その原理原則が本質を突いていれば、そこから導き出される行動も本質を突いていることになります。だからこそ、PMBOK第7版では原理原則を重要視するようになったのではないかと私は考えています。

■原理原則を持つということ

 実は、原則という言葉は7つの習慣でも表現されています。7つの習慣において原則というのは以下のように定義されています。

人間の内面にすでに存在し、私たちが知っていても知らなくても存在する働き・原理のこと

 この原則には物事の効果性を高める原則もあれば、その逆もあります。こうした効果性を高める原則を使い、私たちの人格を成長させることを7つの習慣では目指しています。

 この時、効果性の高い原則を用いているのは、そこから生まれる行動は小手先な行動ではなく不変的な行動であり、効果性を高めるという結果として表れるからです。だからこそ、PMIもPMBOK第7版において原理原則を定義したのかもしれません。

 私はPMBOK第7版で原理原則志向になったことで、プロジェクトマネジメントが人間味を帯びてきたように感じました。何というか、無味乾燥的なプロジェクトマネジメントが血の通った人間味のあるプロジェクトマネジメントになったような気がしています。こうした原理原則に基づく考えたこそが今の時代には必要なことのかもしれませんね。

 まだまだ私も浅学ですが、原理原則に基づき自分なりに行動していきたいと思っています。

Comment(2)

コメント

山無駄

PMBOKが第7版から適応型アプローチを取り扱うことができるようになったこと
はとても良いことだと思っています。
もともとBody of Knowledge 知識体系をまとめたものなので、実プロジェクト
に適用する際にはそのプロジェクトに応じて知識をカスタマイズする必要がある
のですが、それをどうすればよいかがありませんでした。
原理原則指向になるなると、この問題にたいしてのサジェチョンがでてくるので
はないかと期待しております。なので、プロセス志向と原理原則志向は二極化し
たのではなく、スコープを広げたのではないかと考えております。
個人的な解釈ですが。

キャリアコンサルタント高橋

山無駄様、


コメントありがとうございます。


> プロセス志向と原理原則志向は二極化したのではなく、スコープを広げたのではないかと考えております。


本当にその通りだと思います。
プロセス志向と原理原則志向は考え方こそ違えど、それらは一つの括りとして考えるべきことなのではないかと思っております。


実際、PMBOK第7版になり、予測型アプローチは別冊となる「プロセス群:実務ガイド」で語られることになりましたが、この冒頭で原理原則の話が出てきております。
これは原理原則志向を踏まえた上での予測型アプローチの形であり、スコープを広げた予測型アプローチだと解釈しております。

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