第319回 「花」を考える
こんにちは、キャリアコンサルタント高橋です。
先日、『風姿花伝』の現代語訳を勧められました。
風姿花伝といえば、過去に「序破急の話」で書いたことがありましたが、今から600年以上の昔に能の大家である世阿弥が著した「能楽」に関する本です。そのため、ベースとなる話は「能楽」なのですが、どうやらそれだけに留まらず、勉強論、教育論、ビジネス論、人生論などについても書かれており、日本最古のビジネス書なのだそうです。
ちょうど腰が痛くてあまり身動きが取れない状況が続いているので、この機会に読んでみることにしました。すると、確かに面白いです!
全般的に書かれている内容は「能楽」の話ですが、私はこの内容を自分の研修に置き換えて読むようにしてみました。そうしたら、当てはまることが多いこと多いこと。スラスラ読み進めることができ、モノの1時間もかからず読破できました。。。
この風姿花伝は大きなテーマとして「花」があります。「花」とは誰もが持つ優れた要素であると紹介されていますが、この「花」をいかに自分のモノとし高めていくか? が能楽という場を通して語られています。
そこで今回は風姿花伝から「花」について考えてみました。
■「初心忘れるべからず」
風姿花伝には多くの名言が残されています。「初心忘れるべからず」もその一つなのだそうです。風姿花伝の序文にはこのように書かれています。
「修行は何事も一所懸命にやること。自分勝手な慢心で手を抜いてはいけない」
また、本文中にはこのような言葉もあります。
「上手は下手の見本、下手は上手の見本」
この意味は
「上手な人でも慢心し手を抜いていると、それは下手な人の見本になってしまう。しかし、下手な人が努力をし上手になろうとする様はあたかも上手な人の見本である」
なのだそうです。
だからこそ「初心忘れるべからず」の考え方、つまり、下手だった自分が上手になろうと努力したときの気持ち(=初心)はいつ何時も忘れてはならない、ということなのだそうです。
私も研修やキャリコンの世界に飛び込んでから優に10年以上が経ちました。今でこそ、研修やキャリコンで悩むことは少なくなってきたように思います。しかし、この世界に飛び込んだときの気持ちは持ち続けないといけないなぁと改めて感じました。
■「鬼の演じ方」
能楽は様々なモノを「真似る」のだそうです。しかし、単に真似ればよいわけでもないそうです。風姿花伝には「鬼」を真似ることが書かれていました。
鬼は架空の生き物ですが、もし実在したとして、これをリアルに演じてしまうと恐怖の対象になってしまいます。しかし、「能」という場においては観客がいますから、普通にリアル演じても恐怖を与えるだけで面白みがありません。
つまり、鬼という存在は上手に演じれば演じるほど、観客を楽しませるという能の本質から外れてしまうのだそうです。だからこそ、鬼を面白く演じる役者はこの道を究めた達人なのだそうです。
これも、研修に置き換えてみると良く分かります。研修で伝える内容がとても難解でわかりづらい内容だったとします。それを一言一句正しく伝えても、受講者さんには理解されません。多少内容を崩したとしても、伝えるべき内容の本質がブレることなく、受講者さんが興味を惹いてもらえるように自分の言葉で伝える。正に「鬼」を演じることとそっくりだと感じました。
■「秘すれば花」
風姿花伝において「花」は能によって人々を感動させる一連の振る舞いのように書かれています。
その「花」を咲かせるためには、まず「種」を植えなければなりません。しかし、種は簡単には咲きません。長い年月をかけ、水をあげ、太陽の光を浴びることで少しずつ育ち、ゆっくりゆっくり大きな花を咲かせます。
花が咲く時期は一瞬です。それ以外の時期は花を育てている時期です。つまり、私たちが自分の「花」を咲かせようとするならば、まず「種」を植えなければならない。その種は技術、技能、スキルといえるでしょう。これらを習得するためには何度も何度も練習、修練しなければなりません。そうして、ゆっくりゆっくり私たちの心が育ち、やがて「花」となって表れてきます。だからこそ「初心忘れるべからず」なのだそうです。
風姿花伝には「秘すれば花」という有名な言葉があります。この言葉は「秘密にしておくことの重要性」を説いているそうです。秘伝と呼ばれることは実は公開してしまうと大したことはないのだそうです。だからこそ、それを秘することで人々を魅了させる「花」にするのだそうです。例えるならば、マジックのタネのような感じなのかもしれません。
しかし、私は「秘すれば」というのは「種を育てる」という意味があるような気がしています。むやみやたらに人前で技術をひけらかすのではなく、じっくり自分の腕を磨き、技術を高めようとすること。そうすることで、私たちの花は大きく大きく咲き誇るのではないかと思いました。
■「花」を考える
風姿花伝を読んで、私は自分の「花」が何かを考えました。これだ!という答えには巡り合っていませんが、研修やキャリコンを通じて受講者やクライエントに喜んでいただける振る舞いが、きっと私にとっての「花」なのだろうと思いました。
今までそういったことを、深く考えてこなかったのですが、風姿花伝を読んでみて、自分の「花」を意識して立ち振る舞うことは、自分の価値を高め、周りの人に対して満足を与えられることに繋がるような気がしてきました。
ですので、今後は積極的に自分の「花」を考えていこうと思いました。