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第195回 コミュニケーションエラーをいかに防ぐか?

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 こんにちは、キャリアコンサルタント高橋です。

 先日、あるITエンジニアの方から相談を受けました。その方は現場で上司の方とうまくコミュニケーションが取れないそうでした。そこで、今回はこの方のお話からコミュニケーションエラーについて考えてみたいと思います。

■あるITエンジニアの事例

 その方を仮にAさんとお呼びします。Aさんはあるシステム開発の現場で仕事をされています。仕事の内容は主にプログラムの改修を担当されています。一般的にプログラムを改修する場合、改修理由、改修箇所、改修方法などを把握した上で納期が決まります。Aさんはこの業界での経験が浅いため、改修理由、改修箇所、改修方法などは上司の方が指示をされ、Aさんはその内容に基づいて作業をされているそうです。しかし、この現場ではプログラムの改修が多くあるらしく、作業の優先順位が変更になったり、プログラムの仕様がペンディング状態のまま改修の指示が渡されてしまうなど、イレギュラーな動きをしていることがよくあるそうでした。

 Aさんはとても真面目な方なので、こういったイレギュラーが起こった場合、必ずメモを取るなどをしてイレギュラーの内容やペンディング事項の内容を書き留めておかれるそうです。しかし、その量が増えてくると何から手をつけて良いか分からなくなり、作業の抜けや漏れが発生するのだそうです。

 このことは現場の上司も危惧されており、Aさんと何度も話をして改善を試みたようなのですが、Aさんが自分の状況をうまく説明できないせいか、現時点では解決に至っていないようでした。

 そこで、さらに詳しく話を聞いてみると、

  • 事前に取ったメモを作業時に確認していない
  • 作業のどこが分からないかを説明することができない

など、一見すると疑問符が出てくるような答えが返ってきました。しかし、Aさんは大真面目で嘘をいわれているようにはみえませんでした。こういったこともあり、現場の上司も対処のしようがなく、対応に困っているのだそうです。

■仕事が失敗する負のスパイラル

 私がAさんの話を聞いて強く疑問を感じたのは、過去と現在の意識のズレでした。

  • 仕事で必要だからメモを取る(過去)

  • 仕事でメモを見る必要性を感じていない(現在)

 この考え方は一般的には矛盾しています。しかし、Aさんの中ではこのような行動になってしまうのだそうです。そして、Aさん自身もこの理由が説明できないのだそうです。そのため、上司から説明を求められてもうまく自分の状況を説明できません。それが、さらに自分の状況を悪くしてしまうように見受けられました。

 このことを私に説明される際、手が震えたり、呼吸が浅くなるなどの動きがみられたので、ひょっとしたら軽いパニック状態を引き起こしているのではないかとも感じられました。

 これらのことから、Aさんは、

①失敗せずに仕事をする方法が分からない

②仕事で失敗をしてしまう

③先輩から注意を受ける

④原因を考える

①に戻る

 このような問題が解決できない負のスパイラルに陥っており、これが強迫観念のようになり、そこに縛られるあまり正しい思考力が働かないのではないかという考えにいたりました。

■Aさんへの提案

 これらのことから、これ以上原因を掘り下げるのはAさん自身のメンタルにも負担をかけると感じたので、Aさんの中でこのような事象が起こるという前提に立って解決策を検討しました。

 その結果、Aさんと上司との間に「共通の尺度」を設けることを提案しました。

 「共通の尺度」とは、Aさんと上司のそれぞれが理解できる事柄のことで、ここでは「時間」にしています。例えば、上司が2時間でできる作業をAさんは1日(8時間)かかったとします。当然、上司はなぜ2時間でできることが8時間もかかるのか? Aさんに説明を求めます。しかし、Aさんにとってみれば、自分なりに最速で仕事をした結果が8時間なのでなぜ8時間かかったのかが説明できないのです。

 そのため、8時間の内訳を細かく記録しておくようにお伝えしました。こうすることで、どの作業にどれだけの時間がかかっているかがAさん、上司ともに把握ができるようになるので、そこから原因の特定を行うキッカケがみつかるのではないかと考えたからです。また、1つひとつの作業にどれだけの時間がかかるのかがAさんにも客観的に理解できるメリットがあることもお伝えしました。

 また、これ以外のこととして、成功事例を増やすことメンタルの状況を上司に伝えることもお伝えしました。

成功事例を増やすこと:「成功事例」とは、Aさんが作業を正しく完了させることができた事例のことです。Aさんの場合、作業のやり方が自分の中で確立されておらず、そのことがAさんにとって大きな不安要素になっているのではないかと考えました。そのため、簡単な作業でよいので、成功事例を積み重ねていくことを提案しました。その中でAさんが少しずつ仕事のやり方を覚え、自信につなげていくことがAさんにとってはプラスになるおとをお伝えしました。

メンタルの状況を上司に伝えること:Aさんの話し方から仕事のプレッシャーでメンタルがかなり疲弊しているように見受けられました。仕事というものは無理をして体調を壊してやるべきことでありませんので、まずはその状況を上司に伝え、無理のないように仕事が進められる配慮をしてもらうことが大切であることをお伝えしました。(実際にはこれが一番大切であることをお伝えしています)

■コミュニケーションエラーをいかに防ぐか?

 最近、Aさんのようなコミュニケーションエラーが起きている事例の相談をよく受けます。今回のようなAさんの立場もあれば、上司にあたる立場の人からの相談もあります。どちらのケースにも共通しているのが共通の尺度をもっておらず、一方的に自分の尺度を相手に押しつけていることが多いように感じました。

 そのため、コミュニケーションエラーを防ぐためには、まずお互いが理解できる共通の尺度を設けることが必要なのではないかと思います。共通の尺度をもつためには、「分からない」原因を突き止めることができなくても、「分からない」という事実を理解するという、相手のありのままを理解する努力がお互いに必要なのではないかと感じました。

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