悪貨として駆逐されないように
少し前に Web 広告が問題になったのを覚えている人も多いと思います。ダークパターンとも呼ばれている類ですが、多くのメディアや Web サイトで見かけることもあり、非常に多くの人に影響を与えた問題です。もともと閉じるボタンを見えにくくしたり、押し間違いをするように見せたりと、悪質なものは以前から存在していました。海外国内を問わずに、多くの広告に嫌な思いをした人は多いのではないでしょうか。
私たちが色々なサービスを無料または格安で利用できているのは、広告収入があるからという面は多くの場合に共通しています。そのような背景事情があるのを承知しているので、利用者側も広告については理解して付き合っていました。明確にはしていませんが、ある種の暗黙の信頼関係があったのですが、それも崩れようとしています。
これまでにも悪質な広告は存在していましたが、それを超える手口だったこともあり、一時期は JavaScript を無効化する必要という意見も散見できるほどです。本来であれば、広告を扱う業界の中での自浄作用的なところに期待をするのがよいのでしょうが、国内だけでなく海外も交えた状況となっている以上、そうそう簡単に話が進むことはありません。
このままでは広告全体になんらかのペナルティ的な動きも起きる可能性があり、悪貨は良貨を駆逐する、この言葉通りの展開になっても不思議ではありません。
同じような話題は、私たちが扱う IT 技術全般に通じるところがあります。技術的に可能性を秘めていたとしても、悪い利用方法が目立ってしまうことで技術そのものを封じられてしまったことも少なくありません。悪い利用方法よりも良い利用方法が数多くなればその限りではありませんが、それでも技術の利用方法というのは常に考えていかなくてはなりません。セキュリティの世界と同じく、性善説で考えていては予想もしない利用法が現れてしまいすべてを禁止せざるを得なくなることが考えられます。性悪説で考えていかなくてはいけないのは、そのような事情もあるからです。
技術の進歩もあり、物事の活用方法を考えるスピードは日に日に速まっています。今では AI の登場もあり、その速度はさらに速まっています。その背景を考えると、何かしらの新しいことを行おうとしたときも、できるだけ予定していない利用のされ方をされないよう、今まで以上に時間をかけて検討しておくのが求められているのではないでしょうか。
これまではスピード感が重要といい、まずはやってみてから考える、というスタンスが世の中に求められていました。しかしこれからは少し慎重に動くことが必要なのだと感じます。プラスの面がいくら大きくても、マイナスの面が少しでも見つかれば一斉にたたかれてしまう昨今の風潮も、それを後押ししているように思えてしまいます。
最終的に良い方向へ進むことができるのが望ましいのですが、今のご時世は少しのミスも許されにくい空気です。慎重になりすぎてもよくないですし、スピードだけを求めても同じように良い結果には辿り着きにくいです。これからは、このあたりも含めてバランス感覚がより求められるのかもしれません。どちらか一方に偏ることは、かなりの確率でよくない結果になることが見えている以上、関連する要素の間で適切と思えるバランスを取り続けていくしかないのだと言えます。
他の業界と比較して、私たちの関わる IT 業界はその傾向はより顕著です。これまで許されていたかもしれないことであっても許されないことが普通に起こりえます。許されないこと、許されること、それぞれのラインがどこにあるのか、一層の注意を払って考えていくよう注意していきたいところです。