地方エンジニアが感じる地方・中小企業での悩み

古いツールに増えた新しい使い方が世界を変える

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 日頃、開発者だけではなく色々な方面から文句を言われることの多い Excel。個人的には表形式として利用している分には特に問題はなく、印刷物として利用しないのであればそれほど気にしていない、その程度の意見です。実際、体裁をこれでもかと整えた Excel ファイルは、その内容をもとに何かしらに利用することが困難ですので嫌われるのもわからないではありません。しかしだからといって、Excel というツール自体を悪いとは思わず、利用方法が悪いだけではないかと思うのです。

 確かに VBA の世界まで来ると、変更を管理しづらいなど多くの問題を抱えてしまいます。私も現在の業務で同じように泣かされている側で、単純な表以外はすべて撤廃したいと常日頃から訴えていたりもします。ですが、それにいたった経緯や背景を考えると、そうせざるを得なかった面も多いのは事実です。

 本来であれば VBA で頑張るのではなく、何かしらのアプリやシステムを別途用意して対応するのがよい、それは多くの人が理解していると思います。ですがそうするためには、ある程度の時間や予算、人員が必要というのもあり、必要なタイミングで必要な機能を提供することがいかに難しいかという問題がついてまわります。よく、システム部に頼んだら来月後半だとか言われたから自作した、というケースも聞きますが、これも現場の状況としてはいたしかたないところ、と理解もできます。リリースされるのを待っていたら業務が行えない、でも業務開始を後ろにずらすと会社から問題視される,このように板挟みになった末に、現場でツールを用意しているという環境は数多く存在しているのではないでしょうか。

 長い間、このような問題を抱えており、いつになっても改善できそうになかったのですが、ここ最近に至って別の方法を出してきました。個人的にも興味を持って追いかけているジャンルで、開発者以外が必要なアプリを作ることができる環境、プログラミングの知識はできるだけ不要とし、多くの人が物づくりを行える環境の提供です。Business Application Platform、をはじめとしていろいろな呼び方でそのような環境を提供するプロダクトを目にするようになりました。それらプロダクトに共通しているのは、バックボーンな部分をできるだけ意識させずに表面の部分を作りやすくすることで、これまでよりもスピーディに必要なアプリケーションを作成できるようにする、というものです。

 VBA のように完全なプログラム環境ではなくもっとシンプルな環境を、そして Web ブラウザに限定せずに利用環境を選ばないようなものを、さらにはビジネスでも利用できるよう制限も行えるもの、そういった特徴を表に出しながら色々なプラットフォームサービスが登場しています。そしてなにより最初に書いた悪名高い Excel も、実はその環境の一端に存在しているのです。

 つい先日に公開された Excel の新規アドインに、Microsoft Flow for Excel というものがあります。これは Flow と呼ばれる Low-Code(少ないコード)または Codeless(コードを書かない)に処理を構築できるサービスに対して、Excel 上で選択している値を連携させるものです。これだけだと何に使えるかがイメージしにくいかもしれません。言い方を変えると Excel 上で選択した値を「そのまま」何かしらの API サービスに連携できるものです。そしてそのためのプログラム開発は、ほぼ必要ではありません。

 連携先は一般公開されている API に限らず、自社内に設置してある API も対象にすることも可能です。例えば、新商品のリストから Excel 上で特定の商品を選択すると自社内の商品マスタに更新をかける、ということも可能ですし、得意先のリストで Excel 上で選択した宛先への下書きメールを自動で作成する、ということも可能です。今までだと、時間と予算を確保しなくてはできなかったことが、非常に簡単に開発者以外でも構築することが可能となったのです。

 この方向性を見ていると、現場側で利用するツールは現場側に任せ、システム開発としてはそこで呼び出すことができる API を作成する、という分業体制が現在の状況に適した形なのではないでしょうか。すべてを厳密な管理に基づいてプログラム開発対応する必要はなく、コアとなる部分を開発する際にプログラミングで複雑な要件へ対応し、変更が求められる頻度の高い現場側は開発者以外で好きに組み立てさせる、必要としている人たちに物づくりの一端を担わせる。そうすることで、企業組織としてスピード感ある対応を可能にしようという思想が見えてきます。

 もちろんこの方法が適しているのか、また今後どうなっていくかというのはわかりません。ですが昔ながらのツールでも新しい使い方をしていくと、全く違った結果になることも珍しくはないことになるかもしれません。ツールはツール、それ以上でもそれ以下でもありません。ですが、ツールの使い方が増えることでこれまで対処できていなかった点も解決できるように、そういうより良い方向へ向かうよう助力していくことも、エンジニアに求められるものなのではないでしょうか。

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