バクチのような新人時代
気がつけば4月を迎え、ひと目でフレッシュマンと分かる人たちをたくさん見かける時期になりました。ぴしっとしたスーツに身を包み、真新しい鞄を片手に通勤している姿を見ると、「自分もそういう時代があったよねぇ……」と、思わず過去を振り返りたくなってしまいます。昔はもう少し髪の毛も多かったなぁ……。いや、それはさておいて。
わたしは社会人となって10年以上が過ぎていますので、大分過去となった話ですが、なかなか珍しい新人時代を過ごしてきたのかなぁ、と今になっては思います。
わたしが入社した時はオープンシステムが流行りだした時代で、「Windows 3.1登場!」というところでした。まだこのころは文章入力といえば一太郎、表計算といえばLotusであり、今ではすっかりデフォルトとなったWordやExcelは、まだまだ使い勝手の悪いものだったと記憶しています(Office系はバージョン4.0~とかで、Accessは2.0でしたね)。
新人研修としてオフコンでCOBOLを叩き込まれている最中、ちょうどその時、社内には修羅場を迎えていたプロジェクトがあり、ゴールデンウィーク明けには、ドキュメントを書きながら会社に泊まり込みという体験をしていました。この時、務めていた会社では、休日出勤の際は私服でよかったのですが、初めて呼ばれた際には、
「当然、スーツ姿で出社に決まっているだろう」
と、優しい先輩に見事に騙されて出社したこともあります。ですが、このような軽いやりとりができた分、忙しくてもそれほど苦痛には感じなかったのは幸運だったなぁ、と今では思えますね。
その後、その年の中盤には継続して修羅場なプロジェクトに組み込まれ、新人ながらもVB2でプログラムを作る毎日を過ごしていました。プロジェクトにおけるチーフプログラマである一期上の先輩が非常に技術に長けており、わたしはその人のソースを見ながら色々と覚えていったものでした。このころのわたしは、MS-DOSの環境設定ならある程度できるレベルでした。クライアント/サーバ型のシステムとは、データベースとは、ネットワークとは、などなど、業務として必要な知識はこのあたりで形作られてきたと思えます。
……しかし秋ごろになり、状況が一変しました。
この一期上の先輩の出社が不安定になり始めたのです。午後に出社したかと思えば2日ほど会社に寝泊まりし、また数日休むという繰り返しを何度か行った後、一カ月の間でほとんど出社しなくなるという状態にまでなってしまいました。それでも連絡が取れればまだ救いがあったのですが、この先輩の場合はまったく連絡が取れなかったのが、ものすごく厳しいところでした。
チーフプログラマでもある先輩が出社しないというのは、プロジェクトとして進ちょく度に多大に影響を及ぼす問題です。残念ながらこの人に並ぶ技術力の持ち主は社内にいなかった時期でもあり、会社としてもどうするか、非常に悩んだと思われます。
そして、会社が出した結論は、わたしがチーフとなれ、でした。
いま考えても、新人時代にいきなりそのような立場に置かれるというのはとてつもないことで、それなりな案件規模だったにも関わらず、このような選択を行ったところに、会社としてもかなり悩んだのではというところが見え隠れします。まさに博打です。
さすがに新人といえど、この状況が切迫していることぐらいは理解できますので、何も言わずにできるだけのことをやろうと、一生懸命にPCに向かって作業していた記憶があります。VB2についてもそれほど理解できているわけでもなく、サーバOSはWindows NT 3.51で、当然まともに触ったこともなく、データベースに利用していたSQL Serverはバージョン4.21aと出始めのころだったため、資料も数少なく(今ではSQL Serverの一覧にすら……)。何事においても手探りでやり続けていた時でした。
この案件をやっていた際には色々な不始末も起こしました。お客様のデータをきれいさっぱりに削除してしまったり、請求書データを出力済みにするのにすべて紙で出力してみたり。RAIDも組んでいたのにアラートを通知する手段を用意していなかったために、サーバのHDDが全て飛んでしまうまで気づかなかったり。
いくらやっても出口が見えないこともあり、正直大変だったと今でも思えます。ですがその反面、普通に仕事をしていたのでは得ることのできない経験を数多くできたのではないかな、と思います。
そして、数多くの人の支えがあったから、あの時代は乗り切れたのだなぁ、とも。自分1人だけでは到底うまくいくことはなかったでしょうから。この時代に一緒に働くことができた先輩、上司の方々には今でも感謝の気持ちで一杯です。
いまにして思えば、新人が育つ状況としては良かったのかな、とも思えます。切羽詰まり、
「やるしかない!」
という状況下に置かれたことで、余分なことは考えずに、とにかく集中して仕事に取り組むことができていたと思いますから。
いまの自分を思うと、新人時代の博打は成功したのかもしれません。一応、技術者としてはそれなりに成長できた(まだまだ未熟ですが……)気がします。
しかし、いまのご時世でそれができるか、となると……、少々難しいことかもしれません。
新人の周りでサポートできる人間の数が昔に比べると減っていると思えるからです。そう思うと、いまの新人たちは、自分たちに比べると、与えられる機会も少なく、大変だなぁと思います。
新人の皆さんにはぜひ、色々なことを見聞きし、体験して、考えるようになってもらいたいと思います。わたしが新人だったころに比べれば、数多くの情報に囲まれて、逆に難しくなった面がありますが、わたしの世代よりも情報を選択する技術には長けているはずです。
やれば必ずできるようになります。「この仕事が向かない」なんて気持ちは、やるだけやってからでなければ後悔するだけです。やらないで後悔するよりは、やって後悔する方がはるかに精神衛生上も楽だと思います。
皆さん、ぜひ、この業界で長く仕事を続けられるよう頑張ってください!
そこを見届けてから、わたしたち年長者は隠居しようかと……。させてくれないかなぁ。
コメント
三年寝太郎
今の企業というか社会というか、世間一般の物事の捕らえ方には、異なる時間軸でどうなるか?という考察が欠け過ぎいてるのかもしれませんね。それも、大方は「もっと長いスパンで考えたときにどうなんだ?」が。
人の成長も技術の進歩も、もともと金も時間もかかるものなのですけどね。
よく言われる、タイムイズマネーは、確かにそうかも知れませんが、
ひっくり返してマネーイズタイムかというとそうではない。
時間と供にお金は増やせるし、減ってしまっても時間をかければまた増やす方法はあります。
しかし、どんなにお金があっても時間は増えない。一日は24時間以上にはならない。
そして使ってしまったら元に戻せない。
ソフトバンクの孫社長が、両手の指で納まらない桁の金額で携帯の事業を買い取ったときに、
「時間を買った」と言いましたが、それは「時間のかかるもの=人や技術」を買ったなんですよね。
お金の力で自分の周りだけ時計の針を進めたわけではない。
お金の無い中小企業ならなおのこと、少しずつでも時間(のかかるもの=人や技術)への投資は意識しなければならないのだろうし、それをしなければ、結局、経過した時間に見合った成果が得られないという事かもしれません。
時間が経過しても、社内で人が育って無い、技術が蓄積されてないのであれば、中身が残ってないのに等しいですから、景気のいいときに売上やコストや利益の数字を基準に「時は金なり」といってみても、その「金」と思ってるものはまさにバブルなのでは?
と思ったりします。
「人を成長させない(成長する機会を与えない)」は、
「人を大事にしない(与えたお金の価値を超える時間を奪う)」とイコールですし、
それでは、技術や知識を、誰かにとっての幸せに変えられる知恵や心を生み出せない。
それって社会貢献できてないって事じゃないの??そんな組織が存在する意義とはなんぞや??
とも思います。
だって、どんなに技術が進歩しても、結局、仕事をするのは人。
そして、仕事の成果を喜んでくれたり讃えてくれたりするのも人。
なわけだし。
ということで「人を育てられない組織に存在価値は無い。」というのが、
今のところの私の結論なのかもしれません。
そういうのを見るにつけ、イラっときたり距離を置いてみたり、
何とかできないものかと悪足掻いてみたりしても、何分にも力不足なもので。。。
三年寝太郎
あああ、すみません。
前々回からの流れで思ったことをつらつら書いてしまいましたが、
今回のコラムとはそれほどリンクしたコメントでは無かったですね。
失礼しました。
任せられるというのは、人の成長にとっては凄く重要なことですね。
集中して取り組むというのも同じです。
一人で抱え込まないことが前提になりますが、やはり、責任やプレッシャーといった、
ある程度のストレスは、成長する上では必ず必要ですから。
人間、誰だって、重力に逆らって起き上がり、立ち上がる様になるわけだし。
それに、失敗を許容してもらえる環境も、経験の浅い頃には必要なものだと思います。
立ち上がったら、転んだりぶつかったりしながら安定した歩き方を覚えるものですし。
些細なことでも、何かするたびに怒られてるような環境だったら、
いわれた事しか出来なくなって伸びなくなることもあるでしょう。
保守的な雰囲気の職場は、大概、何でそんなことに思えるような妙なところに、
或いは些細なことに厳しいところが多い様に思います。
いつでものびのびと、というのはさすがに難しいでしょうが、
何かやらかしても笑って許せるぐらいの余裕が先輩や上司にないと、
十分な経験を重ねる前にいなくなるかもしれませんし。
なかなか難しいところですね。
インドリ
先輩が居るだけましです。
私の場合は「私以外の技術者が居ない」状態だったので、いきなり社長から「何か作れ。成功したら安月給で雇ってやってもいい。」と命令されて右も左も分からないままシステム構築するところから始まりました。
それで思うのですが、今の会社はIT会社というよりも偽装IT会社が増えていますよね。
一体全体日本で何社が本物のIT会社なのでしょうか(溜息)
教育とか技術の空洞化とか3K色々言われていますがこの業界はそれ以前に、まともに商売をする気がなく、客や技術者を騙す事が前提だと思えてなりません。
Ahf
三年寝太郎さん多くのコメントありがとうございます。
本編と異なっていてもコメントは嬉しく思います。
自分の場合は結構幸運だったな、と今では思えます。企業としてとった行動としては微妙ですが(笑
新しい世代に仕事を任せて自分達は影からサポート、そのような環境にもっていくことができれば次に繋がる人たちを育てることもやりやすくなるでしょうね。
たどり着くところは人、というのは私もそう思います。
企業として、というのもありますが人が何かをやる以上、全ては人に戻ってくるのかも知れませんね。
私も社内で色々画策したり実行したりしてますが、やはりなかなか・・・。
Ahf
インドリさんコメントありがとうございます。
インドリさんのケースは凄いですねぇ。流石に先輩もいないというのは
なかなかない事だと思います。
ただ私はまだ業界自体が騙すこと前提、とまで落ちてはいないと思っています。
それに近い会社が存在するのも事実ですが、そうでもない会社もあると思います。
何より私は出来る限りのことをやるつもりで仕事をしていますし、他にコラムを書いている方々やインドリさんも含めコメントしてくださる皆さんのように、それを良くないことと判っている人がいる限り、捨てた物ではないと思っていますよ。