第203回 感動を生む仕事
こんにちは、キャリアコンサルタント高橋です。
毎年4月は新卒社員の研修を担当させてもらっているのですが、今年は地方の温泉旅館をお借りして合宿形式で研修を行っています。今回お邪魔させていただいたのは老舗の旅館で、どこか昭和の香りがする落ち着ける旅館でした。一般的に地方の温泉旅館にはその土地ごとの見どころがある反面、コンビニなどの施設はない場合が多いです。そのため、新卒研修のことを考えると、都会で行うよりも集中しやすい環境にあります。そんな中、旅館の人とのやり取りで私自身がとても感動することがありました。そこで今回はこのことについて書いてみたいと思います。
■ある給仕さんのこと
今回の新卒研修を旅館の大会議室をお借りして行いました。新卒社員も総勢50名以上はおられるので、研修を行うだけも相当なパワーと使うのですが、研修以外にもいろいろと気を遣います。特に食事はこれだけのまとまった人数が一度に食べるので、旅館側の対応も大変です。私たちがお邪魔した旅館はバイキング形式で好きな食べ物や飲み物を自由に取れるのですが、私たちの他にも一般のお客様もおられるので、その方々への配慮も必要になってきます。そのため、旅館側では座席を指定していただいたり、食べる時間を設定していただくなど、極力私たちの食事がスムーズに行えるよう配慮していただいておりました。
ただ、研修は生モノなので、時間通りに終わらないこともあります。ある日のことですが、研修が長引き、あらかじめ旅館と取り決めをしていた夕食の時間が30分ほどしか取れない日がありました。研修が終わってすぐに新卒社員には食事を取ってもらうようにしたのですが、どうしても時間内に食べ終わらない人も出てきてしまいました。この旅館ではバイキングが2部制になっており、私たちが退出しなければ次の2部を始めることができません。そのため、旅館の給仕さんが私がたちが食べている横で片づけやら新しい料理の準備をされたりと忙しく動かれていました。
「旅館の人に迷惑をかけているなぁ、明日からの研修は時間厳守でやらないとマズいなぁ…」
と思いながら肩身の狭い思いをして食事をしていると、ある給仕さんが私の傍に来られ、このように言われました。
「バタバタしており申し訳ありません。今、次のお客様のために準備をしておりますが、お気になさらず、ゆっくり召し上がってください」
私は逆にこの言葉に逆に恐縮してしまい、「こちらこそ時間を守れず申し訳ありません」と伝え、残っている新卒社員に極力旅館に迷惑をかけないよう、早めに食べてもらうようにしてもらいました。そうして、その日は何とか全員時間ギリギリまでに食べ終わることができました。
その翌日、いつものように朝食を食べていると、昨日の給仕さんが私の元に来られて、このように言われました。
「昨日はこちらが催促したようになってしまい申し訳ありませんでした。研修のお時間もあろうかと思いますので、よろしければ本日から夕食は後ろの部に変更させていただきましょうか。後ろの部であれば皆さまゆっくり召し上がっていただくとこともできるのですが、いかがでしょうか? 」
正直、このお申し出には本当に助かりました。50名以上の食事の時間帯を変更するのは旅館側にもインパクトのあることで迷惑がかかる行為だとは思いましたが、ここは甘えさせていただくことにしました。
さらにその翌日、朝食を食べていると、また昨日の給仕さんが私のところに来られました。
「昨日は差し出がましいお願いをさせていただき、申し訳ありませんでした。皆さまは一つの場所にまとまって食事を取っていただいておりますが、少し窮屈ではないかとお見受けいたしました。よろしければ本日から座席を自由にして、お好きな席に座っていただくこともできます。そのほうが私ども給仕も片づけなどがやりやすくなるのですが、いかがでしょうか? 」
私たちが食事をする場所はあらかじめ決まっており、その中で範囲内で食事をすることになっています。当然のことですが、用意されている席数も人数分しか用意されていないため、間が空かないよう詰めて座っています。私個人は窮屈に思っていなかったのですが、確かに自由に座らせていただくことができれば、皆思い思いの席で気軽に食事を取ることができます。また、そうすることで給仕さんの負担が減るのであればと、その申し出も受けさせていただきました。
その日以降も、その給仕さんはいろいろと私たちの便宜を払っていただき、とても快適に食事ができる環境を提供していただきました。
■感動を生む仕事
私はこの給仕さんの仕事っぷりにとても感動しました。それは、給仕さんの仕事の中には常に「相手」がいたからです。
「目の前の人が快適に食事を取られるために、自分に何ができるか? 」
この給仕さんは、常にそのことを考えて行動されていたように思えました。ひょっとしたら、給仕さんにとってはいつもどおりの仕事をされていただけなのかもしれません。しかし、これこそがサービスの本質なのだろうと感じました。
これは私たちの仕事にも当てはまります。
- 相手にとって利のあることは何か?
- 相手の為になることは何か?
仕事の中心に「相手」を添えて考えることで、私たちは感動を与える仕事ができるのかもしれません。
最終日、私はこの給仕さんにこれまでのお礼を告げ、また機会があればぜひこの旅館に寄せていただくことをお伝えしました。そうすると、その給仕さんは深々と頭を下げられ、「ぜひ、心よりお待ちしております! 」とおっしゃられました。私にはその給仕さんの姿が、本物のプロフェッショナルにみえました。