地方エンジニアが感じる地方・中小企業での悩み

今の中小企業で人を育てられるか?(2)

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 ツールの発展による新人達への影響というのは前回書いた面があるかと思います。便利すぎるがために逆に成長を阻害しているのではないか、という点です。もちろんそれだけではない、というのもご承知の通りです。そうでなければ昨今のニュースで「基本力」などの話題が取り上げられることもないと思います。個人的にもこのあたりはぜひとも兼ね備えている人材が欲しいな……と常々思いますが、希望が叶うのは難しいですよね、余程人を見る目が人事担当に備わっていなければ。

 中小企業において求める新人像というのは、やはり「即戦力になりやすいか」というところに重きを置くところが多いのではないでしょうか。裏返すと「大企業の様に人財育成に時間もお金も割くほど余力はない」という事と、「教育担当となる先輩社員の時間をあまり割きたくない」という事になります。事実、専任の教育担当が存在する企業は余程の大手に限定されることと思います。ほとんどの企業は教育と通常業務を「兼任しながら」という形で行っているため、教育担当に選ばれた方への負荷は当然増大してしまうでしょう。

 もちろん教育担当に指名されたからといって日常業務を減らしてくれるかと言えば、そんなことはありません。上から言われるのは、日常業務を今までと同様にこなしつつ教育を行ってくれ、という追加要望なのです。

 そのような企業の背景もある中で、最近の技術進歩というのは更に教育を行なう側に負荷をかけています。「自分達が習ってきたことが今使えるとは限らない」。この業界で働く以上、常につきまとう話です。普通に仕事をしていてもついていくのは中々に難しい状況というのに、教育をするとなるとさらに考えなければならない事が増えてしまいます。

 例えばOffice2003までとOffice2007とで大きく操作性が変更になっていたり、VisualStudioも「~6.0世代」「.Net1.x世代」「.Net2.x世代」「.Net3.0以降世代」と時には細かく、時には大規模に変更になっていたりします。教えようにも利用する環境自体が変わっていることも多々あるのです。そのために、教える側としては、最低でもある程度利用したことがなければ教育すること自体が難しくなってしまうので、少ない時間を割いてツールに触れているのではないでしょうか。

 ここまではどこにでもある問題だと思います。しかしここからの話が本当に問題となる点です。

 進歩に伴い覚えるための負担が増えた「教える側」。そうして通常業務に支障が出始めるころに取る方向は、大きくわけて2つになるかと思われます。

  • 時間の使い方を考え直し、可能な限り世の中についていこうとする
  • ついていく事自体を放棄し、既存の状態を維持する

 今のご時勢で増えているのは後者です。「新しいモノがいいモノとは限らない~」という理由を盾に、今の自分達のやり方を維持継続していこうとしてしまっているのです。前回Visual Basic 6.0の話題を少しだけ出しましたが、業界として今になってもVisual Basic 6.0での新規開発が大量に残っている背景として、このような理由も絡んでいるのは十二分にあることだと思います。言い方をきつくすると、教える側が技術者としての義務を放棄している状態だからです。そのような風土である企業が.Netに移行する、などということを選択するわけがありません。色々な理由をつけて可能な限り先延ばしにし、どうしようもない状態になるまで触ることはないでしょう。

 もちろん既存案件のアドオン・改修など、レガシーと扱われる開発を行う必要はあります。それを主業務としているなら、あえて世の中の潮流についていこうとせずに今の状態を維持するのも必要だと理解できます。ですが、そうではないのにVisual Basic 6.0環境での開発にこだわり続ける理由として、どのようなものがあるのでしょうか?

 中小企業の多くはWindowsプラットフォームを土台として、ユーザー向けのアプリケーションやソリューションの提供を行なうことを主業務としているのが(恐らくは)多いと思われます。ここで考えて欲しいのは、

 「Windowsというプラットフォーム上で商売をする以上、技術動向を見極め、新しい流れについていく努力を常に行なう必要がある

 という点です。私個人としては、新しい技術を使う義務はないが知る義務はある、と思っています。この点に不満を感じるならば、自分達で扱うプラットフォームを変えればいいのです。ですがきっと「それでは商売にならない!」ということを理由として挙げられるでしょう。ならばWindowsで商売をするために必要なことはやるのが当然だと思います。必要なことを行わずに、自分達の都合だけでサポートが切れているようなものを提供しつづけるというのはユーザーに対しても大変失礼じゃないですか? Visual Basic 6.0だけで作成したアプリケーションであればまだサポート対象なのでいいのですが、サードパーティのコントロールを利用していたりして、それらがサポート終了していたケースなどはけっこうあると思います。それは自分達がやられたらイヤじゃないですか? 食品で言えば賞味期限切れですよ?

 このような状態が教える側にはあると思います。教える側があまり褒められた状態ではないのですから、そのような環境で育つ新人達というのもあまり褒められた状態にはなりづらいのではないでしょうか。

 教える側がもっと責任感を持ち、「今の自分達の技術を教える」のではなく「今の世の中の技術を教える」ほどの気概を持って教育にあたらなければならないと思います。知識や経験は定期的に棚卸しを行っていく事が大事ではないでしょうか。いつまでも昔の知識と経験だけではこれから先、IT業界で業務を行っていくにはもう難しい時代だと思えます。

 教わる側も教える側も、どちらも変わっていかなくては、この先は厳しくなるばかりではないでしょうか。

Comment(2)

コメント

JULY

> 使う義務はないが知る義務はある

その通りだと思います。ただ、現状は...私のところも同じです(^^;。で、実際の開発が「下」に合わせることになる...。

基本的には、開発ソフトが使いやすくなって、ソフト開発の裾野が広がっているんだけど、裾野が広がると、開発ソフトの使い方は知っていても、技術的背景は知らない、という人は増える。数年前に「プログラムはなぜ動くのか」という本が売れたことがありましたが、この本が売れたということは、逆に、技術的な背景を知らなくても動くプログラムが書けてしまう、という所にたどり着いたのかな、と思います。

ただ、この先に問題があって、そういう技術的な背景を知らなくても済むのが、実は非常に短い期間で、ゆえに、賞味期限が過ぎた技術でも、そこに固執してしまう。この「賞味期限の短さ」が、似たような業界構造と言われる、土木・建築業とは違うところかなぁ、と。

プログラムを書く人間が、工事現場の作業員だと考えると、ずいぶん作業員に対する要求水準が高いなぁ、と。じゃぁ、プログラマが工事現場の作業員より優遇されているかというと...。

開発プロセスに「工事進行基準」なんて話がありますが、この傾向に拍車をかけることにならないかと、個人的には思っています。

Ahf

コメントありがとうございます。

似た業界構造であるはずの建築業界などと比較して、私達IT業界では非常に時間的制約というか、JULYさんの仰るように「賞味期限」という点が大きく異なるところであると私も思います。恐らくは他の業種と比較しても、群を抜いて期限の短い技術・知識になってしまっているのだと。

「工事進行基準」についてはこれから先、かなりの確率でお目に掛かることになるでしょうからますます上も下も含めて、この業界に関わる人全てにおいて負担が増えてくるのではないかと個人的には危惧しています。
ただ、それを機会に今までの体質を改めることが出来れば「人を育てる」ことも含めて、色々な問題点が(解決するまでいかないとしても)より良い方向へと向かうことができるのではないかな、と期待もしています。

難しいですけどね。

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