夏の暑さに「リアル」を感じたい
2007年7月27日の「@IT自分戦略研究所 Weekly」に掲載したコラムを紹介します。バックナンバーなので、季節がずれているのはご容赦ください。北風の寒さにリアルを感じる毎日です。
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こんにちは、ITmedia +D LifeStyleと+D Styleで編集記者を担当する山田です。
最近四季の移ろいがぼんやりとしている気がしませんか? 今年の夏も「ああ~来た来た夏がっ!」と太陽を見上げる機会がいまのところありません。もっと暑くなるはずですよね……。何でも地球温暖化のせいにするのはよくないとは思いますが、やはり勘ぐってしまいます。とはいえ天気は気まぐれですから、数日後には、焼け付くような日差しにうんざりしているかもしれません。
先日、東京・上野にある国立科学博物館の「インカ・マヤ・アステカ展」を見に行きました。古代文明の中でもひときわミステリアスでいかめしい考古学品が見られる展覧会です。
エジプトの形式的でカチコチな壁画も面白いですが、曲線に支配されたグロテスクで自由なマヤの装飾からは、命の力強さをひしひしと感じます。「額には大きな鏡を……。片足はヘビに……」などと説明文に書かれていても、正直なところ「どこが顔でどこが体?」とよく分からないものもありました。ジャガーの顔が描かれたチョウを口に添えている人物像や、腹から臓器をぶら下げて不気味な笑みを見せる死神の像など、かなりインパクトがあるので、お子さまと一緒の際はお気を付けください。
誰もが驚くのは、いけにえや放血の文化です。体を傷付ける儀式が描かれた装飾や、黒く変色した供物台を見るとぞっとしますが、神々の自己犠牲で太陽が生まれたと考える彼らにとって、「血」を流すことは神々に対する感謝と誠意の表れだったようです。どうも昔の人というのは“痛い”ことをしますよね。日本でも、縄文時代には抜歯の文化があったと聞きます。
自分は痛いことが苦手なのですが、痛みによって喚起される「リアル」な感覚があるのは確かです。以前、おなかを壊し、脂汗を流しながらのたうち回ったことがあったのですが、痛みが引いた際に、ものすごく静かで濃密な時間が流れました。「ああ、生きてるって素晴らしい」と真剣に感じました。
現代では、「リアル」と遮断された世界に身を置きがちです。快適だけれど、命が緩慢に消費されていくのはもったいない。そう考えると、暑くない夏に物足りなさを感じるのも納得できます。暑いのはしんどいですが、日中のうだるような猛暑を乗り切って、夜風に当たりながらごろごろする幸せは、暑さあってのものですし。しんどい分だけ、いろんな喜びに敏感になれる――そんなことを考えながら、社会人1年目に挑む今日このごろです。
(ライフスタイル・メディア編集部 山田祐介)