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第19回: ローエンドBluetooth Audio SoCのエコシステムをしらべてみた(後編)

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まずはお詫び

予定していた10/11(火)の更新ですが、時間がとれず報告なしにスキップしてしまいました。申し訳ございません。
今週から再開しますので、よろしければまたお付き合いください。

はじめに

今回も前回に引き続きこれまで分解したローエンドBluetooth Audio機器の話です。

前回紹介した格安BT Audio ICの代表格である「珠海市杰理科技股份有限公司(zh-JieLi)」と「深圳市中科蓝讯科技股份有限公司(bluetrum)」の両社の共通のルーツとも言える建荣集成电路科技(珠海)有限公司」について調べた結果と、ローエンドBluetooth Audioの製品設計を裏で支えている「方案公司(デザインハウス)」についてまとめてみます。

※本内容は2022年7月17日の「分解のススメ」というイベントで発表した内容をダイジェストにまとめたものです。

SoCメーカーについて調べてみる(続き)

建荣集成电路科技(珠海)有限公司(Buildwin)

建荣集成电路科技(珠海)有限公司(Buildwin)は香港の卓榮集成電路科技有限公司(Appo Tech)の子会社として2003年に設立されました。単独でのオフィシャルサイトは存在しないようで、中国の「珠海市软件行业协会」のサイトに企業情報が掲載されているのを見つけたのみでした。

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「珠海市软件行业协会」の企業情報より抜粋

親会社の「卓榮集成電路科技有限公司(AppoTech)は米国シリコンバレー出身の鄭灼榮により2003年に香港で設立された、半導体の設計・製造と関連アプリケーション開発を行う半導体設計会社(ファブレス)です。

AppoTech USA Inc.の本社は米国シリコンバレーで、香港、珠海、深圳に研究開発施設と100%出資の子会社を設立しています。

製品情報のページをみると、Wi-Fi/Bluetoothといった無線デバイスとオーディオ関連を得意とする会社のようです。

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「卓榮集成電路科技」の製品情報(産品中心)より抜粋

米国系の半導体企業の幹部社員が自社の技術者を引き抜いて同じ業界で独立起業するという構図で、半導体産業の発展が継続している中国らしいという感想です。

方案公司について調べてみる

ローエンドBluetooth Audio SoCを分解・調査するにあたっては、製品情報・データシートを検索する必要があります。

この過程で、SoCの開発元ではない特定のサイトに多く掲載されていることがわかりました。これは「法案公司」と呼ばれるSoCを使った商品設計を担当するデザインハウスです。

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筆者が作成したローエンドBluetooth Audio SoC の仕様入手先の一覧

今回は上記の赤枠で囲んだ「lenzetech」と「kepuhaodianzekeji」について調べてみました。

深圳市伦茨科技有限公司(LENZE TECHNOLOGY)

深圳市伦茨科技有限公司(LENZE TECH)は2010年設立のデザインハウス(方案公司)です。本社は深圳の福田区にあり、米国、台湾、香港に研究開発センターとカスタマーサービスセンターがあります。

中国の企業情報サイトによると従業員数は51〜100人と中規模の独立系設計会社のようです。

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「伦茨科技」の会社紹介(关于我们)より抜粋

伦茨科技はBluetooth BLEとIoTの製品開発・設計に特化したデザインハウスで、研究開発・設計・ソリューション・テスト・事前認証・技術サポートを一体で行っています。

会社紹介によると、Apple Find My・Alexa Direct Connect・Mi Home・HongmengなどのIoT分野を中心としたチップやソリューションを提供していて、顧客の製品分野としては、Apple MFi・新エネルギー自動車用アクセサリー・ライフサイエンス・スマートハードウェア・インダストリー4.0・コンシューマーエレクトロニクスなどだそうです。

「珠海市杰理科技股份有限公司(zh-JieLi)」のBluetooth Audio SoCの代表的な型番である「AD69」で検索すると、各種型番のデータシートやリファレンス回路図が多数公開されていて、ダウンロードすることができます。

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検索マークからの"AD69"での検索結果

深圳科普豪电子科技有限公司(kepuhaodianzi)

深圳市科普豪电子科技有限公司(kepuhaodianzi)は2010年設立のデザインハウス(方案公司)です。本社は深圳市宝安区西乡街道にあり、会社紹介によると現在の従業員数は約100人と中規模の設計会社です。研究開発スタッフは20人以上、その50%以上が学士号以上の学歴を持つ人材で占められているとのことです。

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「科普豪电子」のトップページより抜粋

科普豪电子は、主にRFオーディオ・ビデオのインテリジェント端末用SoCの開発・販売を行っている会社で、製品もAIスマートスピーカー・Bluetoothスピーカー・TWS ANC/ENC Bluetoothヘッドセット・スマートウェアと多岐にわたっています。

サイトの会社情報によると、現在はBaidu Xiaodu(百度小度)プラットフォームのソリューションプロバイダーとして、様々なピュアBluetooth AIスマートプロダクトを開発しているそうです。

また会社紹介には、「珠海市杰理科技股份有限公司(zh-JieLi)」のBluetoothオーディオの中核代理店およびソリューションプロバイダとして、Bluetoothスピーカー・Bluetoothヘッドフォン・MP3スピーカーなどのBluetoothオーディオ製品の設計および開発に専念しているとの記載があります。

こちらの会社も「产品资料」から「珠海市杰理科技股份有限公司(zh-JieLi)」のBluetooth Audio SoCの代表的な型番である「AD69」で検索すると、各種型番のデータシートやリファレンス回路図をダウンロードすることができます。

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「产品资料」の"AD69"での検索結果

中国の半導体設計会社のエコシステム

以下にローコストBluetooth Audioデバイスを分解してみてわかったことを書き出してみます。

  • ローエンドではZh-JieLiのSoCの採用が圧倒的に多い
    • Bluetooth Audio普及のキープレイヤーであることは間違いない
  • もう1社のbluetrumは中国大手のRedmi(Xiaomi)が採用
    • "RISC-V"を採用していることもあり今後に注目していきたい
  • Zh-JieLi, bluetrum共にルーツはAppoTech(建荣集成电路科技(珠海)有限公司)
    • 米国系の半導体設計会社→幹部社員が技術者を連れて独立 という流れの典型例に見える
  • Zh-JieLiは方案公司がソリューション提供をしているのが、強さのポイントに見える
    • bluetrumの方案公司らしい会社は見つからなかった

また、会社情報を調べてわかったのですが「珠海市杰理」「深圳市伦茨科技」「科普豪电子」の会社設立が同じ2010年です。
2010年といえばリーマンショック(2008年)の影響で米国のハイテク企業のリストラが行われた時期(2009年)と重なります。

イベントでも「米国でリストラされた中国人のエンジニアが中国に戻って起業したのかな」という感想がありました。

最近の米中経済摩擦でも「米国籍の中国人の中国での就業禁止」のような方策が出ています。これを機に中国でも新しいハイテク起業が出てくるかもしれないと感じています。


次回更新は2週間後の12/8(火)の予定です。

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