使い方
「電子メモパッド」はボタン電池(CR2016)1個で動作します。書き消し回数は約5万回、付属の専用ペンで絵画エリアに書き込みを行い、削除ボタンを押すと消去できます。裏面のスイッチで削除機能をロックすることもできます。
使用方法の記載
この商品はタブレットとは異なり、部分的な消去やデータのPCへの保存といった機能はありません。
実際に文字を書いてみたのですが、筆圧により線の太さが変わるので、「はね」や「はらい」も表現することができます。
実際に書いた文字
分解してみる
本体の開封
本体に貼り付けられた絵画エリア裏面の両面テープを剥がすことでプリント基板と液晶シートを分離することができます。
液晶シートの電極はテープで制御基板の電極用ランドに貼り付けられています。液晶シートの電極の横には削除ボタン用電極があり、金属製のボタンを押すことでパターンがショートされる構造になっています。
液晶シートと制御基板
プリント基板
制御基板はガラスエポキシ(FR-4)の両面基板です。部品は全て面実装部品で基板表面に実装されています。コントローラはワンチップの専用ICで、周辺には電源昇圧用コイルと整流ダイオードがあります。ロックスイッチとボタン電池用電極も実装されています。
制御基板(表面)
制御基板の裏面には液晶シート電極用ランドと削除ボタン用のパターンがあります。
制御基板(裏面)
液晶シートは「コレステリック液晶(ChLCD)」と呼ばれるもので、通常は電圧を印加されていない状態で使用します。削除ボタンが押されると、液晶シートの電極間に電圧が印加されて液晶シートの内容が消去される仕組みです。
使用されている主な部品
コレステリック液晶(ChLCD)
絵画エリアの液晶シートを分離するとシート間に液晶材料が挟まれています。シートの両面にそれぞれ1個づつの電極がついています。
液晶シートを分離した状態
使用されている液晶シートは「コレステリック液晶(cholesteric liquid crystal display, 以下ChLCD)」です。
ChLCDでは電圧を印可しない状態では安定した2つの状態(双安定性)が存在します。
• 特定波長の光を反射する「Planar state」
• 弱い散乱で光を反射しない「Focal conic state」
ペンで加圧した部分は「Planar state」に変化し光を反射するので黄緑色に見えるようになります。電圧を印可すると液晶の配向が揃う「Homeotropic state」となり、背面の黒を透過する状態=描画が削除できます。
電力が必要なのは描画削除のときだけですので、ボタン電池で低消費電力動作ができます。
コレステリック液晶の状態
コントローラIC 「KX360A」
コントローラIC
「コントローラIC」は中国の「合肥宽芯电子技术有限公司(BROADSEMI)」の液晶メモパッド専用ICである「KX360A」です。
ICの簡単な説明資料(用途とピン情報)は文書共有サイトの「道客巴巴(doc88)」から入手できます。
・コントローラIC
http://www.doc88.com/p-1082901621286.html
「合肥宽芯电子技术有限公司(BROADSEMI)」は中国語・英語の両方で検索したのですが公式のホームページは存在しない様です。
動作波形の確認
昇圧チョッパ回路の動作
削除ボタンが押された時のコントローラICの「昇圧電源出力(HV端子)」の波形は以下のようになっています。
KX360A HV端子の波形
通常はボタン電池の電圧(3V)が出力されていますが、削除ボタンが押されるとICの内部の「昇圧チョッパ回路」が動作して、消去に必要な電圧(約15V)が生成されます。
波形が揺れている部分は消去動作期間(約1.6秒)で、消去動作が終了すると動作が停止し、出力が徐々に下がっています。
コレステリック液晶の消去動作
消去動作を行っている期間のコレステリック液晶の電極間の波形は以下のようになっています。
消去動作時のコレステリック液晶の電極間の波形
消去動作が開始すると「昇圧チョッパ回路」で生成した電圧を使って、コレステリック液晶の電極間に消去電圧(±15V)が交互に印加されます。
これによって液晶の配向が揃う「Homeotropic state」となり、背面の黒を透過する状態=描画が削除されます。
まとめ
分解してみると専用ICによる最小の部品点数で、コストダウンを実現していることもわかりました。
動作原理もシンプルで、使用目的を絞ってよく考えられた製品という印象です。
コレステリック液晶を使用した電子メモパッドは数年前までは数千円で販売されていました。
実際に本製品をしばらく使って見たのですが、時間が経つと徐々に液晶の保持能力が落ちていく印象がありますが、価格とのバランスで消耗品として割り切れば使える商品だと思います。
画面をスマートフォンのカメラで撮影して、書き込んだ内容を抽出して画像として保存できるアプリもありますので、これらを組み合わせて使ってみるのも良いと思います。