第7回: 用途次第で十分使える。ダイソーの110円USB Hubを分解してみよう
こんにちは。「100円ショップのガジェット」を中心に電子機器を色々と分解をしているThousanDIYです。
このコラムでは、ガジェットを分解する中での発見や感想をつらつらと書いていきます。
ちょっと前に売っていたダイソーで110円の「4ポートUSB Hub」ですが、色々と細かいところを調べると、ダイソーらしくない怪しさでした。今回は、そんな「USB Hub」をこんな感じで解析したよ、という記録です。
今回のターゲット
今回のターゲットは、ダイソーでブリスターパックで販売されている、ダイソーブランドの「USBハブ4ポート」です。
手軽にキーボードやマウスの接続用のUSBポートを簡単に拡張できるので、けっこう便利に使っていたのですが、最近はあまり店頭で見かけなくなりました。
商品パッケージの外観
パッケージの記載を確認してみる
台紙の表面には「ver 2.0対応」と記載があります。「使用上の注意」は4か国語で記載されているのですが、「USB Hub」の機能や仕様についての記載はありません。
パッケージの表示
本体を開封してみる
外装はプラスチック成型品のはめ込み式なので、すきまにマイナスドライバを差し込めば簡単に分解できます。外装を外すと中は片面紙フェノールの基板1枚の構成でコネクタ以外の部品は裏面に実装されています。
開封した本体
ブリント基板の裏面には樹脂モールドされたコントローラと抵抗・コンデンサが各1個実装されているだけです。
USBコネクタのシェル(外側の金属)は5か所とも全て基板パターンへの半田付けがされていないという、「ある意味で」ワクワクする仕上がりになっています。
コントローラの素性を調べてみる
USB情報の確認
まずは、USBHubをPCに接続して"USBView"でUSB descriptorの情報を確認しました。
USB descriptorの"idVendor"では"0x0A05(University of Kansas)"となっています。
USBデバイス情報(抜粋)
Webサイトで検索したのですが該当するチップが見つからないため、linuxのUSB IDリスト(http://www.linux-usb.org/usb.ids)を確認したところ、Vender ID: 0x0A05は「Unknown Manufacturer」となっていました。
もうひとつ気になったのが、"Connection Status"です。"Device Bus Speed"が"Full"(12Mbps)となっており、USB2.0でサポートされた"High-Speed"(480Mbps)では動いていません。
Connection Status
実際にこのUSB HubにUSBメモリを接続してベンチマークをしてみたのですが最大1MB/S(約8Mbps)程度となっており、USBのオーバーヘッドを考えると"Full-Speed "で間違いがないようです。
類似商品からコントローラを推定する
Web上の類似商品やチップ情報を調査した結果、使用されているチップは中国の「迈科微电子(深圳)有限公司」(MICOV)からシリコンチップで提供されている「MW7211」ではないかと推定しました。データシートは以下から入手できます。
http://web.archive.org/web/20170613120608/http:/www.usbdev.ru/?wpfb_dl=2700
「2. 产品特点」には、「内嵌 USB 2.0 全速 PHY」と記載されていて、USB2.0ですが"Full-Speed"までのサポートです。USB2.0の規格上は"Full-Speed"までしかサポートしないデバイスも許容されていますので規格違反ではありません。
以下はデータシートに載っているブロック図です。コントローラ(RISCプロセッサ)とクロック発生器、3.3V LDOを内蔵しており、外部回路はほぼなし(電源のフィルタ用のコンデンサ)だけで動作します。
MW7211のブロック図(データシートより引用)
シリコンチップからコントローラを特定する
シリコンチップを露出させるとデータシートのPad位置を重ねてみる
ベアチップ実装なので、モールドをダイヤモンドヤスリとカッターで削ってシリコンチップを露出させ、これを顕微鏡で拡大しデータシートに記載されているPad情報と重ね合わせてみます。
PAD配置及びPAD座標(データシートより引用)
実際のシリコンチップのPAD位置がデータシートときれいに一致しており、このチップが「MW7211」であることが確認できました。
MW7211の顕微鏡写真と仕様書のPAD座標
ベアチップ実装の場合、シリコンチップのPADからプリント基板へは極細のワイヤーで接続(ワイヤボンディング)されています。モールドの断面を見ると、プリント基板へ接続するワイヤーの断面の痕跡が残っていますので、これをプリント基板のパターンの接続先と比べると、基板パターンとワイヤの位置が一致しているのがわかります。
ワイヤボンディングと基板パターンへの接続
まとめ
このUSB Hubは色々と怪しいところが多く、中国から調達した格安製品の見本のような結果となりました。既に枯れた古いチップを使って最低限のコストで作ったという感じがします。
「110円」という価格であれば仕方がないかもしれないのですが「"High-Speed"をサポートしない」という記述はどこかに入れておいたほうが良かったと思います。
ただ、「マウスやキーボード」等のHID(Human Interface Device)や、マイコンへの書き込みを行う「USB-Serial変換」のようなCDC(Communication Device Class)の機器を接続するのであれば機能的には十分ですので、必要な用途に合わせれば、安くて使える商品と言えるでしょう。
次回更新は2週間後の4/12(火)の予定です。