ここ数年でiPhoneを中心にワイヤレス充電に対応したスマートフォンが普及してきて、店頭でもワイヤレス充電器を見かけるようになりました。
第9回のターゲットは、ついに100円ショップにも登場した「急速充電対応ワイヤレスチャージャー」です。
今回のターゲット
今回のターゲットであるダイソーの「ワイヤレスチャージャー」は「9V急速充電対応(10W)」で価格は500円(税別)、2020年8月初旬から店頭で見かけるようになりました。
パッケージの外観
本体に付属する同梱のUSBケーブルは全ピンが接続された「充電・通信対応」です。
本体と付属のUSBケーブル
パッケージの仕様によると、ワイヤレス充電規格「Qi(https://bit.ly/3cyOOWc)」の10W出力に対応し、入力電圧は9V/5Vです。
USB充電規格の「Quick Charge3.0/2.0(https://bit.ly/3i3Qh82、以降QC)」に対応した充電器を使用することで9V入力での高速充電ができます。
分解してみる
本体は底面のゴム足下にある4本のビスを精密ドライバで外すと簡単に開封できます。中身はメインボードと無線送電用のコイル、LEDで本体周囲を光らせるための導光版です。
開封した本体
プリント基板
メインボードはカラスエポキシ(FR-4)の両面基板、部品は全て基板表面に実装されています。
無線送電用のコイルはメインボードに直接半田付け、直列に共振用フィルムコンデンサが入っています。
基板上にはコントローラICと2種類のドライバIC、温度検出用のNTC(負特性)サーミスタ、電流検出抵抗等の部品が実装されています。
メインボード
回路動作
基板パターンから回路を追いかけて、回路動作を推定してみます。
無線給電用チップセット
コントローラICと2個のドライバICは、Qiによる無線送電用に組み合わせて使うチップセットのようです。
ドライバICは型番違いで2個実装されていて共振用コンデンサを経由して無線送電用コイルの両端に接続されています。
本製品の回路から推定したコントローラICの主な機能は以下です。
給電電流制御機能
無線送電コイルの電流を電流検出抵抗で検出して給電電流を制御します。
VBUS電圧制御機能
入力に急速充電規格である「QC2.0/3.0」に対応したUSB充電器を使用したときに、ICの制御ピンのL/HでUSBのD+・D-の電圧を変更することでVBUS電圧を5V/9Vに切り替えます。USB充電器からVBUS電圧は抵抗分割でICに接続されて、電圧が切り替わるかどうかでQC対応充電器かどうかを判別します。
温度上昇保護機能
5V電源から抵抗とサーミスタ(NTC)で分圧された電圧値をICへ入力、温度異常上昇時の保護を行います。
Qi規格のコマンド受信機能
ワイヤレス充電規格「Qi」では受電側(スマートフォン)の負荷を変動させることで送電側(ワイヤレスチャージャー)にパケットを送信する「後方散乱変調」という単方向通信方式を使っています。
受電側が定期的にパケットを送電側に送ることで、送電側は充電面上にあるものがQi対応機器なのかそれ以外の異物なのかを判断できます。
本製品では、受電側の負荷変動を「ピークホールド回路」で検出し、ICのピンに入力してデコードしています。
LEDによるStatus表示
2個のLED制御出力ピンがそれぞれ青色LED・赤色LEDに接続されていて、作状態をLEDの点滅の組み合わせで表示します。
主要部品
コントローラIC PFS173-S16
表面にはマーキングがないため、基板から剥がして確認したところ裏面に「XDF02A」という型番らしき表示がありました。
これは台湾の應廣科技股份有限公司(PADAUK Technology, http://www.padauk.com.tw/) の8bit マイコン「PFS173-S16」です。
データシートは以下から入手できます。
http://www.padauk.com.tw/upload/doc/PFS173%20datasheet_v105_EN_20200619.pdf
ドライバIC 4707A(詳細不明)
ドライバIC 4707A
表面のマーキング「4707A」「XP2X7F」で検索したのですが該当する部品は見つかりませんでした。
(このロゴマークがわかる方がいたら情報をいただけると助かります。)
回路的には無線送電用のコイルのドライブに加えて内蔵LDOによりコントローラIC用の5V電源を生成しています。
ドライバIC(U3) 7706A(詳細不明)
ドライバIC 7706A
これも表面のマーキングである「7706A」「XP324A」で検索したのですが該当する部品は見つかりませんでした。
4704Aと比較すると無線送電用のコイルへ接続するピンが増えていますので、高速充電時の大電流対応の為にドライバを複数使用しているものと思われます。
高速充電対応動作の確認
次に実機を使って高速充電動作の確認しました。
USB充電器はQC3.0対応の「Anker PowerPort+1(https://amzn.to/3mT3hAP)」を、USB充電器の出力電圧の確認にはVBUS及びD+/D-の電圧を測定できる「UD18 USB 3.0 18in1 USB tester(https://bit.ly/346yfgu)」を使用しました。
通常充電モードの動作
まずはQiの高速充電に対応していない受電モジュールで確認した結果です。
高速充電未対応の受電モジュールを乗せた場合
USB充電器のVBUS出力は約5Vで通常充電モードで動作しています。D+/D-端子はそれぞれ約0.7V/約0.1V(コントローラICの制御ピンはL)となっています。
高速充電モードの動作
次にQiの高速充電対応のスマートフォンで確認した結果です。
高速充電対応のスマートフォンを乗せた場合
USB充電器のVBUS出力は約9Vで高速充電モードになっているのがわかります。D+/D-端子はそれぞれ約3.3V/約0.7V(コントローラICの制御ピンはH)となっています。
ちなみに、QCではUSBデバイス側(本製品)がQCの初期化処理(詳細は省略)を行った後にD+/D-電圧を以下にする事でUSB充電器の出力電圧を設定できます。上記の確認でのD+/D-の電圧も以下の表と一致しています。
QC規格の出力電圧設定
出力特性の確認
出力電流-電圧特性
マイクロUSBタイプの単体のQi充電レシーバー(https://amzn.to/343uxns)を使用し、出力コネクタのVBUSラインに電子負荷を接続して出力電流-電圧特性を測定してみました。負荷電流の制御には電子負荷装置(https://bit.ly/33X3f0w)を使用しました。
測定に使用した環境
Qi充電レシーバーは高速充電対応のものが手元になかったため、通常充電モード(VBUS=5V)のみの測定結果となります。
出力電流-電圧特性
出力電圧はUSB充電規格(BC1.2、500mAまでは4.75V以上)を満たしています。出力電流が600mAを越えたところで過電流保護で出力が停止しました。
充電効率
無負荷(上に何も載せない状態)でのUSB入力は実測で230mAとかなり大きめです。充電電流500mA出力時の充電効率の実測値は約45%(出力2.5Wに対して入力5.43W)でした。
まとめ
分解してみると専用チップセットによるシンプルな構成でした。
実機での確認でも、Quick Charge対応のQiワイヤレス充電器という仕様に対して機能的にきちんと動作していました。
過電流・温度上昇に対する保護機能や、異種金属による誤動作防止機能も実装されていて、きちんとした設計の製品という印象です。
次回更新は2週間後の5/10(火)の予定です。