ワイヤレスマウスもここ数年で一気にやすくなりました。
第10回のターゲットは、そんなワイヤレスマウスの価格破壊のきっかけを作ったダイソーの「330円ワイヤレスマウス」です。
今回のターゲット
2019年2月頃の発売以降、ダイソーでも何種類かワイヤレスが発売されましたが、この商品は現在も店頭で販売されています。
スタンダードな3ボタンタイプで、BluetoothではなくPCのUSBポートにドングルを挿して使う2.4GHz帯の専用方式です。
パッケージの写真
製品の裏面の電池ケースの蓋には技適番号のシールが貼ってあります。
本体裏面の技適マーク
本体の分解
マウスを裏返すと底面に1個、電池ケースの中に1個の計2個のビスがあるのでこれらを外すとマウス上部を簡単に開けることが出来ます。
内部は基板と導光用の透明な成形品、ホイール部のみと大変シンプルな構成、電池ケースは底板と一体です。
電池ボックスと基板との接続部はコネクタになっています。
分解したマウス本体
プリント基板
ブリント基板は紙フェノール製のベース基板に、無線部分の両面ガラスエポキシ基板(FR-4)を差し込んで、直接半田付けしています。
無線通信用のチップは黒い樹脂モールドで覆われたベアチップ実装(シリコンのダイを直接基板に実装)です。
無線基板の取付部分
主要部品の仕様
光学マウスセンサー
光学マウスセンサー
台湾の義隆電子股份有限公司(ELAN Microelectronics Corp. http://www.emc.com.tw/emc/tw)のOptical Mouse IC "OM15"です。
データシートは中国の文書共有サイトである道客巴巴(https://www.doc88.com)から入手することができます。
https://www.doc88.com/p-580704063930.html
データシートにはレジスタマップとRead/Writeコマンドシーケンスも載っていますので、マイコンボードに接続してオリジナルのマウスを作る事もできそうです。
ピン配置と機能
レジスタマップ
Write Command
Read Command
ワイヤレスマウス用無線チップセット
無線用のチップセットの素性を調べるために、USBレシーバ(ドングル)をPCに接続してUSB接続情報を確認してみます。
USB接続情報はMicrosoftのWindows SDKに含まれている"USBView"を使用しました。
USBView
https://docs.microsoft.com/ja-jp/windows-hardware/drivers/debugger/usbview
USB Viewによる接続情報
デバイス情報部分の抜粋
"Device descriptor"の"idVendor"より"泰凌微电子(上海)有限公司 (TeLink Semiconductor (Shanghai) Co., Ltd. https://www.telink-semi.com/)" 製のチップだということがわかります。
USB-IF(USBの規格標準化団体、https://www.usb.org/)がIntegrators Listを会員以外に一般公開しなくなってしまい、"idProduct"で検索できないのですが、TeLink Semiconductorの製品ラインアップより、該当するチップセットは"TLSR8510&TLSR8513"だと推定しました。DICE(ベアチップ)でも提供してるので、可能性は高そうです。
※2022年5月時点で再確認したらTLS851xシリーズは終了のようで製品ラインアップから消えていましたが、データシートは以下よりまだ入手できます。
TELINK TLSR8510&TLSR8513 datasheet
http://wiki.telink-semi.cn/doc/ds/DS_TLSR8510&TLSR8513-E_Datasheet for Telink TLSR8510&TLSR8513.pdf
ブロック図
ブロック図よりマウス側(I2C有)がTLSR8510、ドングル側(USB有)がTLSR8313だという事がわかります。
シリコンチップで素性を特定する
マーキング等のないベアチップ実装なので、モールドを削ってチップ自体を顕微鏡で観察してみました。
マウス側:TLSR8510
無線のチップらしく、右の方にコイルが3個あるのがわかります。顕微鏡写真をdatasheetのReference Bonding Diagramに重ねてみると、Pad位置が完全に一致していますので、TLSR8510で間違いないことがわかりました。
端子配置よりブロック配置を推定すると、右半分の部品(モジュール)大きいのが無線・電源のブロック、左半分のパターン密度の高い部分がマイコン等のロジック回路ブロックのようです。
TLSR8510のダイ写真とワイヤボンディング
USBレシーバ側:TLSR8513
こちらもTLSR8510と同じくコイルが3個あるのがわかります。ブロック構成も一部が異なりますがかなり共通する部分があります。
顕微鏡写真写真を同様にdatasheetのReference Bonding Diagramに重ねてみると、こちらもPad位置が完全に一致しました。
TSLR8510にあった左上のGPIO系のPadが無く、左下のロジック回路ブロックの近くにUSBのDP/DMがあります。
USBは"Full Speed Mode(12Mbps)"までのサポートなので専用のアナログ回路(USB PHY)ではなくロジック回路で構成されているようです。
TLSR8513のダイ写真とワイヤボンディング
まとめ
光学マウスセンサと無線チップセットは汎用品、両面ガラスエポキシ基板が最低限にしてコストダウンをしています。
現物をみると、無線(2.4GHz)のアンテナ部分のパターンもそれなりに配慮されていて、電子回路設計としては良い意味で「普通のワイヤレスマウス」です。
それにしても、半導体はチップを露出させて顕微鏡(数千円のUSB顕微鏡でも十分)で観察することで色々なことがわかるので、分解するときはぜひ試してください。
次回更新は2週間後の5/24(火)の予定です。