今、話題の人工知能(AI)などで人気のPython。初心者に優しいとか言われていますが、全然優しくない! という事を、つらつら、愚痴っていきます

173.【小説】ブラ転19

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初回:2021/8/18

 ブラ転とは...
 『ブラック企業で働く平社員が過労死したら、その会社の二代目に転生していた件』の略

1.人事部

 私(山本ユウコ)と二代目が、営業部との打ち合わせを終え、技術部建屋の最上階にあるカフェで時間つぶしをしていた。この後は、人事部の申請者と打ち合わせする予定になっていた。

「二代目、そろそろ次の人事部の方との打ち合わせのお時間です」

「そうだったな。えーと場所は...」

「秘書部の上の階の会議室です」

「じゃあ、出かけようか」

 紙コップやマドラーなどを分別してゴミ箱に捨てると、二代目はすでにカフェの外でエレベーターボタンを押して待っていてくれた。
 そこから歩いて、100Mほど離れたところに、本社機構の入っている建屋があった。会議室は4階部分だが、ここは2代目も階段を使ったので、私も階段で上がった。
 二人で会議室に入ると、すでに面談者が座っていた。予定の時間の 5分前だった。

「木之元です。本日はよろしくお願いいたします」

 人事部の木之元と名乗る青年は、二代目が会議室に入ってくると、立ち上がって顔を見ながらそう言ってから一礼した。※1

「まあまあ、そんなに硬くならないでください」

 二代目は元気な青年に座るように促した。青年は元気よく「はい」と答えると笑顔を向けてきた。第一印象は非常に良かった。二代目も同じように感じたようだった。人事部といっても社内の人事を取りまとめる仕事もあれば、リクルート活動を行う部署もある。彼は各大学に行って学生に自社を紹介したり、就職セミナーで学生の相手を行ったりするのだろう。

「今日はありがとう。ざっくばらんに言うと、専属エージェント契約した目的を聞かせてもらおうと思ってね」

「はい、大体の趣旨は伺っております」

 そういうと私に軽く会釈した。

「普段、新卒の学生募集とかをメインに行っているんですが、今のままじゃ社員の均質化がますます進むと思うんです。もっと広くから募集を掛けないと...」

「それなら、人事課長や人事部長に相談すればいいんじゃないかな」

「もちろん、相談しましたが、今の方法が一番良いという理由で話も聞いていただけません」

「じゃあ、君の作戦は?」

「はい。まず在宅勤務の比率をもっと上げることができれば、地方の学生でも我が社に来ていただけます。それに一律のマニュアル的な面談ではなく、もっと採用担当者の権限で採用できるような仕組みを作りたいと思っています」

「なるほど。でも在宅勤務の比率を上げるって、100%にすることは出来ないだろ」

「なら、とりあえず100%に出来る部署から始めるという事でもいいですし、サテライトオフィース的な場所を地方に用意しても良いと思います」

「採用担当者の権限で好き勝手に採用すれば、それこそ採用担当者の好みの人材ばかりにならないの」

 私が質問した。

「何もしなければ、そうなるでしょう。当然、採用担当者に対する教育も必要だと思います。しかし、マニュアルに沿ってよく似た学生ばかりを採用する今の方法より、採用担当者ごとに好みの学生を採用する方が、まだ、色々なタイプの学生が集まると思います」

「なるほど。手段はともかく、色々な学生を採用するというのは良い考えかもしれないね」

「もう一つは、企業が学生を選ぶって変でしょ。学生も企業を選べるようにしたいと思っています」

「学生は自分で行きたい会社を選んでから、面接を受けに来てると思うんだけど」

「ですが、表面的な噂やカタログで選んだ企業ですから。企業側は実際に学生を手に取って...面接して...選べるわけですから、対等とは言えないですよね」

「ん~じゃあ、インターンみたいな制度を採用するとか、アルバイトをもっと活用するとかそういう事かね」

「それも、もちろんあるんですけど、もっと実業務にしっかりと入り込みたいと思っています」

「具体的には?」

「社内派遣業的なシステムを構築したいと思っています」

「社内派遣業?」

 私と二代目が同時に反復した。

「基本的には自社の各部署に派遣するんです。もちろん、他社にも派遣できますが、自社なら自分の希望部署や希望職種を選べるようにします。そして気に入れば何年でもそこで働けますし、純粋な派遣社員とは異なり元々が自社の社員ですから、昇給や昇格もあります。まあ、部課長制度が廃止されていますから、個人事業主的な年収アップという事になるんでしょうけど...」

「なかなか、面白いね」

「はい。うまくいくかどうか判りませんが、まずやってみたいと思いました」

 その後も和やかな雰囲気で打合せは終了した。

2.感想戦

 私(二代目)は、人事部の木之元さんとの面談が終わり、彼が退出するのを待って、山本さんを呼び止めた。すぐ下の階が秘書部の私たちの職場だったので、このまま、この会議室を利用して先ほどの話をしておくことにした。

「どう感じた?」

「どうって...ん~きちんとした危機感としっかりした考えを持っていたと思います。自分に自信があるんでしょうね」

「なんといっても爽やかな好青年だったよね」

「はい」

「気に入った?」

「はい...って、セクハラ気味のご質問ですよ。それに多分年下だと思いますし」

「あれ、それこそエイジハラにならないかな」

「もう、話を戻しましょう。社内派遣業というか、現行制度を利用するなら、専属エージェント契約の新入社員を集めて、各組織に派遣するって、一種の社内フリーランスみたいな感じですかね」

「そうだね。健康保険や厚生年金、会社の福利厚生を利用しつつ、仕事は個人事業主的な働き方が出来、給料も職場も自分で選べるんだよね」

「しかも、派遣業なら、完全に他社でも働くことができますし」

「まあ、同業には無理だろうけどね。スパイ容疑がかけられるから」

「こちらも情報を持ち出されるかもしれないから、出す方も嫌がるかもですね」

「そういう場合は、独立系の派遣事業者に転職すればよいし、自社内での派遣業的な職場の選び方は、社内派遣業というメリットを生かす方が良いと思うよ」

「完全に対等とはいかないかもしれませんが、少なくとも学生が会社を選んで、企業が学生を選別して、また学生が職場を選んで...嫌なら、他社に派遣で働くことができるようになれば、対等に近づくことは出来るかもしれないですね」

「僕もそう思うよ」

「後は、在宅勤務の拡大ですね」

「完全に在宅勤務のみって言うのは難しいね。地方の学生が週一回通うにしても通常の通勤圏内の人より時間も費用もかかるからね。それに在宅といっても日本の住宅事情で言うと、なかなか仕事部屋を占有するって言うのはまだまだ少ないんじゃないかな」

「あら、あんなに大きなお屋敷にお住まいなのに、庶民の暮らしにお詳しいんですね」

(元々、小さな家で暮らしてからなぁ)

「そんなに世間知らずな人間だと思ってたのか?」

「いえ、そんなことはございません」

 山本さんが少しおどけて答えたので、つられて笑ってしまった。

「地方のサテライトオフィースは考えてたんだ。全国に存在しているサービスセンターに、もう少しネット回線とかを充実すれば、パソコンの持ち込みだけで仕事ができないかってね」

「いいですね」

「現在の社員が、今から地元に帰ったりしないだろうから、需要もそんなにないだろうと思ってたけど、地方出身者の新卒が利用できる環境なら、用意できそうだね」

「じゃあ、そのあたりも加味して、来週からの面談を行いましょう」

「来週からかね、サービスの3名との面談は」

「はい。一応メールしてましたが、3名とも別々のサービスセンターですから、2泊していただくことになります」

「山本さんと同室かね」

「完全にセクハラです」

 山本さんが笑顔で答えた。

======= <<つづく>>=======


※1 語先後礼
 「言葉による挨拶を先に行ってから、動作による挨拶を行う」という所作の流れ
 https://el.jibun.atmarkit.co.jp/korezama/2021/06/korezmaa0097.html
 生き様097. 語先後礼とお辞儀の射程

 登場人物
 主人公:クスノキ将司(マサシ)
     ソフト系技術者として、有名企業に入社するも、超絶ブラックで
     残業に次ぐ残業で、ついに過労死してしまう。そして...
 婚約者:杉野さくら
     クスノキ将司の婚約者兼同僚で、OEM製品事業部に所属。
 秘書部:山本ユウコ
     二代目の秘書で、杉野さくらのプロジェクトに週2で参加している。
 社史編纂室:早坂
     妖精さん。昔は技術部に在籍していたシステムエンジニア。
 社長兼会長:ヒイラギ冬彦
    1代でこのヒイラギ電機株式会社を大きくした創業社長。ただし超ブラック
 姉:ヒイラギハルコ
    ヒイラギ電機常務取締役。兄に代わり経営を握りたいが、父親の社長からは
    弟のサポートを依頼されている。もちろん気に入らない。
 二代目(弟):ヒイラギアキオ
    ヒイラギ電機専務取締役。父親の社長からも次期社長と期待されている。
    実はクスノキ将司(マサシ)の生まれ変わりの姿だった。

 ヒイラギ電機株式会社:
    従業員数 1000名、売上 300億円規模のちょっとした有名企業
    大手他社のOEMから、最近は自社商品を多く取り扱う様になった。
    社長一代で築き上げた会社だが、超ブラックで売り上げを伸ばしてきた。


スピンオフ:CIA京都支店『妖精の杜』

 ここはCIA京都支店のデバイス開発室。安らぎを求めて傷ついた戦士が立ち寄る憩いの場所、通称『妖精の杜』と呼ばれていた。
 P子:CIA京都支店の優秀なスパイ。早坂さんにはなぜか毒を吐く。
 早坂:デバイス開発室室長代理。みんなから『妖精さん』と呼ばれている。

 P子:「ついに二代目が本性を現して来たわね」
 早坂:「でも、軽口とセクハラの区別って難しいよ」
 P子:「そもそも軽口で親しくなろうと思うのが間違いじゃないの」
 早坂:「じゃあ、仕事の話だけしてればいいって言うのかい」
 P子:「そういう事じゃなくって、普通の会話で楽しませればいいよの」
 早坂:「難しいよ。そもそも共通点がないだろ」
 P子:「語先後礼の話とか、占いの話とか...」
 早坂:「もしかして、白栁さんのファン?」
 P子:「エンジニアライフネタなら、共通の話題になるでしょ」
 早坂:「普通の会話は、期待できないけどね」

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