第1回 直接的なメリットを享受しない企業のIFRSとは
「製造業の業務改革とITの役割」にて、生産管理システム構築のヒントを連載しておりました、廣野良則です。
新たなコラムにて再登場します。コラム企画の要旨は下記のとおりです。ご愛読のほど、よろしくお願いいたします。また不明な点やご質問などなど、ご遠慮なくご指摘いただければ幸いです。
なお、会計知識またIFRS基準を説明したハウツーものではないことをご承知願います。
■新企画の要旨
昨今のIT関連記事は、「IFRS=国際会計基準」関連のものがアクセスランキングの上位を占めている。
IFRSは、IT不況を盛り返す起爆材とも言われ、数千億の市場とも報道されている。
ここで、独善的であるかもしれないが、私なりの切り口でIFRSを切ってみたい。いずれにせよ、会計関連のお仕事をしていない多くのエンジニアも、いずれ関わりを持つことになるからだ。今のうちに違和感を少なくし、身近なものとしたい。また、IFRSについて、皆さまのフレームワーク構築へのお役立てができれば幸いである。
お題は少々堅めの表現になっているが、このシリーズにてしばらく続けてみようと思う。
■第1回:直接的なメリットを享受しない企業のIFRSとは
昨今、「IFRS」という言葉がIT企業や上場企業の興味を席巻しているような空気(なぜか気持ち悪く、のどが詰まる感じがする)が漂っている。
そもそも、導入メリットを受ける企業とそうでない企業がある。その辺りの具体論は、別の情報を見ていただくことにして、本コラムでは『直接的なメリットを享受しない企業のIFRSとは』を考えたい(IFRSの本来の目的は「海外投資家からの資本を受け入れやすくする」ことだ)。変な言い方かもしれないが、そこから本質論を語ることができる予感がする。
そもそも投資家は、現在の財務状態や今後の将来性をにらんで投資をするわけで、開示される財務状態がどの程度の健全性を持つかを評価できる指標があれば、非常に分かりやすい。
一言で言うと、業種業態に適応した管理会計基準であれば、投資家は一番分かりやすいことになる。
ただ、そのような管理会計基準をグローバルに標準化すること自体が、ナンセンスである。会計基準は時代時代の背景に基づいて変化するものであり、見たい視点によって集約するセグメントは異なる。集約するセグメントが各仕訳に付与されているか? また、仕訳がドンブリになっていないか? など精査する必要がある。
要は、どの時代背景になっても客観的な数値が得られる仕組みになっているか、各企業の営みが「見える化」される仕組みが作られているのかが問われていると感じる。それは、各企業の誠実性のあるIR力(※1)によるものと考えられる。
話は変わるが、製造業の管理会計を検討する中で、「TOC理論」、スループット会計(※2)を持ち込むこともある。IFRS基準を参考にしながら、納得性のある「自社のあるべきマネジメント基準」を構築することが道理であり、役立つ仕組みになる。その中で、TOCは検討に値すると思う。
そして、社外的なアピールのみのために、構築コスト・運用コストを掛けることにならないかを経営者は考えるべきであり、チェックポイントとしなければならない。
運用者に対してメリットのない仕組みは、失敗した仕組みになるのは明白である。J-SOX法、内部統制の仕組みを構築後、その統制と非効率化の狭間に悩んでいる企業は多い。
IFRSをキッカケに、自社におけるマネジメントとは何か、標準化すべき業務プロセスと評価セグメントとは何かを検討しなければ、運用者にとって「押し付けだけの仕組み=面倒くさいルール」になり、最後は息切れしてしまうだろう。
財務管理の前にある各業務システムは本当に機能しているのかどうか。IFRSの基準ばかりに目を向けるのではなく、各業務を可視化できる数値データが得られているのかを、問い直すべきである。次に、参考となるマネジメント力を支えるあるべきKPI例を示す。
※1 IR(Investor Relations)
IRとは、企業が株主や投資家に対し、投資判断に必要な情報を適宜、公平に継続して提供していく活動全般を示す。企業は、IR活動を通じて投資家等と意見交換することでお互いの理解を深め、信頼関係を構築し、資本市場での正当な評価を得られる。また、逆に外部からの厳しい評価を受けることで、経営の質を高められる。
※2 スループット会計
TOC(制約条件の理論)で利用する管理会計手法。時間当たりのキャッシュを最大化するのに適した考え方を取り入れている。製品別の採算性評価などに用いる。また、グローバル最適生産を検討する1つの指標として有効である。