第8回 業務システムのリスクを「攻めの姿勢」でメリットに変質する
前回、業務システムはグループ全体で文化を統合して共有すべきと記した。ただ、「同一システムを各拠点で共有化しなければならない」と理解されたとしたら、それは誤解である。同じシステムをグループ内で統一する前提としては、同一のビジネスモデルである場合に限られる。得てして、あるERPシステムを単純に展開してしまうのは考えものだ。
IFRS対応してあるからという理由で、現場に何もかも押し付けられたら、本末転倒になってしまう。IFRSの前段階で、すでに業務が円滑に回ることが検証済みであるのが大前提であり、その場合、検証者は経理部門ではない。
購買管理、販売管理、生産管理などを運用する各部門長は「IFRSの本質」を理解しなければならない。問題が発生した後、「経理部門が主導して導入したからだ」と責任のなすりつけ合いになってしまうのは、大変不幸である。IFRSは対岸の問題ではないのだ。このことを意識し、腹をくくらなければならない。
「受け身の姿勢」はリスクであり、「攻めの姿勢」はメリットを呼ぶことになるのではないかと思う。
■内部統制課題をクリアした、業務プロセス革新ツールの標準化
日々の業務改革におけるPDCAで的確なデータを収集し、分析を行う仕組み基盤が確立されていることが重要である。IFRSに反映される元データは、管理会計や業務評価にも使用されるべきである。さらに、そのデータは内部統制上、正当性と正確性、そして網羅性があり、全体プロセスの整合性が担保されていなければならない。
つまり、データ発生起点や承認プロセスといった、データ生成の過程を可視化できる仕掛けが要求されている。業務プロセスを可視化し、そのプロセスを評価して改善を継続できるよう、仕組みを確立しなければならない。
業務プロセスそのものは、IFRSに限らず変化し、進化してゆくものである。業務要求に耐え切れず、多額のコストをかけて後追い対応するより、常々プロセスを評価して改善を積み重ね、業務要求にタイムリーに対応する方がベストである。
ITの運用課題として、下記のことがある。
- 業務プロセスの変化への対応
- 管理属性項目の増減への対応
- 変化へのフロントローディング対応
ITシステムとして運用する際、定型化できない情報から判断し、結果を情報登録する流れになる。ここでは、ワークフローツールによって人(役割)と扱う情報と流れを定義し、内部統制上の課題をクリアすることで対処することが考えられる。よくいうBPM(Business Process Management)の検討である。
以下、BPMに触れてみる。
BPMとは、業務のプロセスを分析/設計(Plan)、実行(Do)、運用監視(Check)、改善/構築(Action)の段階に分けて、目標(指標)を達成するために、「PDCAサイクル」を継続的に回す業務プロセス改善を管理する手法で、以下の手法とは一線を画している。
- TQM(Total Quality Management:総合品質管理):経営の品質向上をテーマにしている
- BPR(Business Process Reengineering):組織やビジネスルールの見直しを行いながらビジネスプロセスの改善に取り組む
ただ、TQMもBPRも、全体業務内にある特定のフェイズまたプロセスのみが対象であるなど、導入効果が限定的(機能変更に時間とコストがかかる)である。
BPM は、企業の業務プロセスを明確化して現状(As-Is)を把握し、新たな自ら目標を設定、あるべき姿(To-Be)の実現に向けた継続的な改善を繰り返すことに重点を置いたアプローチだ。
継続的な改善アプローチとして、先のPDCAサイクルを行うことが必須である。そして、業務を進化させる、また環境変化に即応し、プロセスに手を加えることになる。整理すると下図のイメージである。
また、次のイメージも参考にしてほしい。加速度のあるマネジメントサイクルを支援できるITであれば、進化するITとして定義できる。
次に、管理画面の変更がある。管理画面については、属性項目や区分の追加・変更などが日常と言っていいと思う。この変更は、情報システム部門にとって、後ろ向きな作業として捉えられがちである。
設計部門の設計変更は、前向きな作業として捉えられるのになぜか? 作業負荷が少なく、運用管理者が保守作業できるツールとして、SOA(service-oriented architecture)というシステムアーキテクチャがある。ここで、IT革新を期待したい。
話をIFRSに戻すが、業務プロセスに影響するケースとして、「固定資産プロセス」が分かりやすいと思う。資産取得プロセスや減損といった評価基準変更プロセスでは、定型化したドキュメントやルールでは対応できないことが明白である。従って、いかに抽象化・単純化するか、いくつかの標準化プロセスに落とし込むかが鍵になる。その中で、判断に利用した見積もり書や起案書などの各種ドキメントが保管され、かつ資産と紐付けられていなければならない。かつ、後日に承認プロセス履歴などが、容易に検索でき、印刷もできるといった仕掛けが必要である。
以上の仕組みは、他の業務プロセスも同様に展開することを強く意識しておきたい。多くのメリットが享受できる基盤を、IFRSを通じて構築すべきである。