いろいろな仕事を渡り歩き、今はインフラ系エンジニアをやっている。いろんな業種からの視点も交えてコラムを綴らせていただきます。

やっぱり四万人のボランティアは必要だよ!

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■事の発端

 何やら、一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(CSAJ)会長の荻原紀男氏(豆蔵ホールディングス代表取締役社長)の発言が注目を集めているようだ。事の発端は、「5年間で4万人のエンジニアが必要--IT分野の新業界団体『日本IT団体連盟』発足」という記事での発言だ。IT業界のブラックっぷりを際立たせる発言だと物議を醸し出した。

 「これはもっと深い真意があるのでは?」ということで、「五輪にはボランティアで働けるエンジニアが必要」発言の真意を聞くという記事が掲載された。しかし、さらに炎上を加速する発言を連発。ツイッターを見ていると、この記事の話題でもちきりだった。

 ただここで一つ、気にかかることがあった。大半の人が「ボランティア」、「四万人」という単語だけに反応して、「無償労働 でゴリゴリ四万人を働かすだと?けしからん!!」という短絡思考になっているように思えた。

■さぁ、誤解を紐解いていこう

 そもそもボランティアとは、「自主的に社会活動などに参加し、奉仕活動をする人のこと。」だそうだ。ここで、この記事を読んだ人の解釈、「単に無償で働く人」という意味とは異なる。その時点で、大半の人が誤読している。

 荻原紀男氏の真意は、四万人が会社を休んででもボランティアをしたくなるくらいに、IT業界を素晴らしい業界にしよう!ということだ。「なぜIT産業のエンジニア育成に予算をつけなくてはならないのか。」という発言も、わざわざITに予算をかけるのではなく、教育自体に取り込んでしまおうという意図がうかがえる。「1カ月間のボランティア活動で恩返しをするというのもひとつの方法。」と荻原紀男氏は発言しているが、逆をとれば、ふたつめ、みっつめの方法も用意していることだろう。

 では、なぜオリンピックでボランティアなのだろうか。それは、荻原紀男氏の「あるいは、企業が給与を支払いながら、一定期間ボランティアを働くということも考えられる。」という発言にも真意があると考える。

 まず、一定期間IT担当のいなくなった現場はどうなるだろうか。現場のエンジニアが優秀であれば、現場は阿鼻叫喚の地獄絵図だろう、現場のエンジニアが怠慢なら、何も変わらない。むしろ邪魔な人なら、かえって仕事は捗る。いなくなることで分かる事実。これを知らしめることが重要と考えているのではないだろうか。

 しかも、「企業が給与を支払いながら」とある。エンジニアを無償でということではないのだ。そしてオリンピックという案件についても、失敗しても成功しても企業には金が転がり込むシステムは確立している。つまり、失敗しようが成功しようがどうでもいい案件なのだ。そういう案件で、普段緊張に張り詰めたエンジニアたちに、好きなように自分の技術を試していただく。そして、毎日定時に帰って健康を取り戻していただく。そういう意図も汲み取れる。

 つまり、構想が広大過ぎて、私たちがパッと見たくらいでは理解できないということじゃなかろうか。

■ということで、このコラムで訴えたい本題

 時空の歪みが生じそうなレベルで曲解した解釈を書いてみたがどうだろう?世の中には頭のネジが2、3本ふっとんでるような人なんていくらでもいる。こういう人たちを非難するだけでは何も始まらないと思う。

 荻原紀男氏の発言にしても、暴言を通り越してギャグだ。しかし、暴言に暴言を返して何が解決するだろうか? 単にこの人がたまたま目立つところで発言しただけのことだ。頭のイカれた経営者や組織のトップなんて履いて捨てるほどいる。今更騒ぐことでもなかろう。

 そして重要なのは、こういう人を許容しているのは自分たちだということだ。実際、ここまで炎上しても豆蔵は健在だ。潰れたり、多くの仕事を失ったりということは無い。あったとしても、なんらかのミラクルでも起こして三ヶ月後には元どおりだろう。

■個人的な見解

 今回コラムを書くにあたり、荻原紀男氏に関する記事を読んでみた。しかし、さっぱり意味が分からんかった。

 個人的な見解を言うなら、人を育てるという前に、日本の IT技術はまだ確立していないと思う。荻原紀男氏が想定しているレベルにすら、日本のIT業界は達していないように見える。また、現時点で四万人必要で、これから教育する。しかも予算がでない等、その時点で終わっている。条件が総崩れなので、話が破綻している。

 インタビューに対する返答も、何か自分の言いたいことを言ってるだけのようにも見える。これはインタビューの記事として読んだら理解できない。荻原紀男氏が思いを綴った独白と捉えれば、かろうじて意味が通じるものはある。

 読むだけ読んでみて、荻原紀男氏には何らかの志っぽいものはあったのか、それともあるように思えた。そこは汲み取るべきかと思ったが、汲み取れた自信は無い。そんなことで、もし自分が、荻原紀男氏を擁護しなければいけない立場だったらという想定で、それっぽいことを書いてみた。

Comment(12)

コメント

moromori31

「本題」の部分と「見解」部分の内容は私も同じ事を思いました。

インタビュー記事の纏め方の問題なのか、やり取りされた内容の問題なのか、もしかしたら私の読解力の問題なのか、何か議論や意見を持てるようなところまで理解出来ませんでした。。。

非現実性AR

氏の中には「ボランティア≒オープンソース」のような『常識』があって、それは説明するまでもなく自明のことだと思っている節が。

我々凡人はボランティア活動にスポンサーがつくなどという発想は理の外にあるわけで。
そこらの異次元的齟齬が真空地獄車的空回り感あふれる炎上の根っこではないかと思う次第。

オプソ関係者=ボランティアと解釈すれば、掘れば4万人くらいいるって話にもある程度説得力が出るのではないでしょうか。
コミッタレベルがそんないてたまるかってのは氏もわかっているでしょうから教育って話が出てきてると。

まあこの前提自体が現実と1nもマッチしてないので破綻してることには変わりないのですがねー。

Anubis

> moromori31 さん
コメントありがとうございます。
ただ、荻原紀男氏のコメントを読んで一つピンときたものがあった。

記事の中に荻原紀男氏から
「だが、「これをやれ」と言われたら、「はい、わかりました」といって、業界のために役に立つことをしたい。」
という発言があった。

たとえば、AさんとBさんという重要人物がいたとしよう。
この二人が全く反対の意見を言ったとする。何でも「Yes」と答えたがる人は、
両方に「Yes」と答えて、自分の中に矛盾を抱えて論理的な破綻をしてしまう。

荻原紀男氏って、そういうタイプのように思えた。

> 非現実性AR さん

> 氏の中には「ボランティア≒オープンソース」のような『常識』があって、それは説明するまでもなく自明のことだと思っている節が。

この記事に関しては、オープンソースのオの字も考えてなかった。
コメントを読んでいて、そういう考え方もあるのだなと思った。

荻原紀男氏くらいの立場になると、
どんな無茶ぶりされても何らか結果を求められる。
無理やり「可能」という方向に持っていこうとしたので、彼しか理解できない
超理論が組みあがっちゃったのかなぁ。

そういう思いで記事を読んでた。あえて「四万人」とか「ボランティア」というキーワードは追求しなかった。

夢夢

うん?簡単な内容だったけど・・・
要するに、IT業界の人材育成のためにお金が必要だが、そのために国のお金を狙う。
政府がお金を出すのには理由が必要。
だったら、東京オリンピックやインフラに貢献し、予算を分捕るという事だ。
ただし、直接その人にお金が払われる保証はなく、「団体」に予算が回るという点に注意が必要。
建築業や電機会社のように、税金を回してもらえるような既得権益体制を作りたいという大人の世界の話しだ。
俺個人としては関わりたくない類の話しだ。

Anubis

>夢夢 さん
そういう簡単な見方もありますよね。
状況は分かるが、インタビュー記事で何を伝えたいのかが分からんという話だ。

夢夢 さんの話を更に突っ込んで考えると、既に既得権っぽいものを得たので
発言がまとまらないような状態になったというのも考えられる。

夢夢

インタビュー記事で伝えたいのは、「日本の未来のために教育費が必要」だという事だと思う。
ただ、我々IT業界の現場の人間にとって、信じられないよな。
権力と金が欲しい人がいて、それをそのまま記事にしているという風に俺は受け取れた。
そういう胡散臭い所を感じて腑に落ちないんだと思う。

夢夢

ちなみに、元の記事は論理構成がおかしい。
発言者の論理の流れは・・・
IT業界をよくしたい→教育が必要だ→お金が必要→政府から予算を貰う→そのためにボランティアで実績を→3Kで時間がない→そのうち業界がよくなるから大丈夫
これを見てわかると思うけど、IT業界は時間がたてばよくなるといっている論理が正しければ、そもそも前提が成り立たないわけで・・・
結局残るのは、「団体にお金が欲しい」というところだけ。
お金は手段にすぎないが、手段が目的となっているから俺ら技術者は拒否反応を起こすと見た。
論理がおかしいと気持ち悪いよな。

Anubis

>夢夢 さん
端的に言えばその通りだ。
そういう意味で言えば、
分からないというより納得いかないの方が正しいかもしれない。

夢夢さんの出した「お金を出すのには理由が必要。」これをキーワードに読むと、
なるほど分かりやすい。よく営業のやるプレゼンみたいなものだ。
私たちではなく、金を出す国に向けての発言と見れば、
ドン引きするが納得がいく。ついでに話の筋も通る。

・・・という事なのかな?

非現実性AR

まあオプソと言いますか成果物が要求される勉強会といいますか。
氏の目指しているところはそんなところじゃないかと。

成果物先に作っちゃって元を取る算段は後付でやろう、そういう『実例』はオプソであるじゃないか。
上手くやれれば参加者にこの上ない実績も憑くしいいことづくめ。やらない理由はないぞ乗るしかないこのビックウェーブに!!

まあこんなような考えなんじゃないですかね。
じゃあどうやって実現すんだよ? はノープランに近いんちゃいますか。
オプソ界隈で成功した人引っ張ってきて同じようにやらせれば上手くいくでしょ実績あるんだし。きっとこんなの。
そんで言い出しっぺの責任については「兵隊働きで取る」
「言われれば何でもやる」発言の真意はこれなんじゃないですか。

まあ誰かが「いやいや言い出しっぺの責任はリーダー仕事でしか取れないんだからあんたが考えてよ」とツッコんであげれば議論も噛み合ってくるんじゃないですかね。

とここまで書いて、誰ぞがおっしゃっていた「スタートアップの失敗例」そのものやんこれ、と気がついた。

戦略に具体性がないところが特に。

夢夢

Anubis さんその通り。
発言主の論理は非常に破綻しており、「IT技術者不足」という命題を解決するために、4万人もの技術者が必要な解決案を提示している。
おまけに、設立目的の「IT業界をよくする」ことについて、ご本人が「放置しておいてもよくなる」って言っているんだから片腹痛い。
俺が国の担当者だったら、「それは朗報です。お金を出さなくてもいずれよくなるんですね。私は忙しいのでこれにて失礼します。」っていうぞwww
明らかに矛盾することを言っており、「予算を採りたい人」の屁理屈にしか見えない。
こういう奴隷聖人的な人が蔓延っているからIT業界はブラックだという良い照明になったので良かったと俺は思う。

Anubis

> 非現実性AR さん
確かに、具体性無いよね。
ビジョンは悪く無いが、実現するための手段は誰かにぶん投げてる感がある。

そもそも、4万人の人を動かすだけでもどれだけ統率力が要るやら。
そういう計算の部分もすっぽ抜けてる感がある。

> 夢夢 さん
夢夢さんのコメントから考えると、
予算とるためのプレゼンと考えても破綻してますね。
同時に、協力者を募る為の発言としても大失敗している。

コラムを書いた時点ではもやっとしてましたが、
本当に指摘したい部分がハッキリした。

ここまでキッチリ問題点を明確化したことに感服です。
私も「ボランティア」とか「四万人」に視点が行き過ぎてたと思う。

非現実性AR

元記事を10回ほど読み返してですね、やっぱり氏にとっての「自明の理」がすこーんと抜け落ちてるのが諸悪の根源ではないかと思う次第。

件の「自然と(待遇が)良くなる」にしても、前提として「組織が完全に機能して業界がフラットになる」があって、そうなるためにはスタートアップが成功してないといけない。
そして離陸を成功させるには五輪ボランティアで一発ドカンと実績を作るのが一番の近道。

抜け落ちてるのは「現状のカースト制度じゃ中抜されて終わり。ブラックからは抜けだせませんよ」のセンテンス。
なので氏的には主張は一貫してるんですよ。多分。

まあ質問者も悪いんですけどね。現状がブラックであることは否定していないのに「このデータ見て下さいよブラックじゃないですか」とか言ってきている。
氏にしてみれば「(組織が立ち上がれば)解消するっつってんだろ」て気分じゃないでしょうか。
もっとも氏もあんま深くもの考えないで喋ってるフシありありですが。「また」で接続しちゃダメでしょ。ここまでの話と同格の「ブラックを解消する要素」と読まれるよ。

氏に必要なのは「プレゼンしたいんなら真っ当に筋道たった資料持っておととい来やがれ」と言ってくれる優しい担当者じゃないでしょうか。
添削もしてくれたりするとベストですが、メルヘンやファンタジーじゃありませんので、まあいないでしょうねえ。

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