認定試験を立ち上げようと思った時に知っておいた方がいいこと【第224回】
ノベルというネットワークOS「NetWare」のマーケティングを25年前にやっていて、オラクルがOracleマスターを立ち上げるので、先行者のノベル(当時、CNEというかなり普及した試験をやっていた)に意見を欲しいと打診があった。
マーケティング部の最ペーペーの私が資格がよくわからないのに参加することになり、Oracleマスターの立ち上げの意見交換会議に何回か参加した。
この会議で「資格ってこうやって立ち上げるんだ」ということを体験したのが私にとってとても大きい。この時、私でもうまく作れるかもと思ってしまった。
サラリーマン時代、本業はプロダクトマーケティングやチャネルマーケティングだったのだが、このミッションを実現するためには、技術者の育成が必要で、売り上げ目標達成のために、ターボリナックスのTurboCE、XMLマスターを立ち上げた。
この二つがうまくいったこともあり、その後、PHP試験、Rails試験、Python試験、徳丸試験、ヤマハルーター認定試験を立ち上げるにいたった。
まるで試験屋さんだ。ただ、はっきり言っておくが、私の本業はマーケティングアウトソーシングであり、私の収益の大半は本業から上がっていて、試験の運営は実費工数のみいただく程度だ。しかも安い。安いが私を含む理事のみんなで決めたので文句もない。例えば、PHP試験の場合、一回登壇すると500円+交通費だ。(試験団体によってまちまちで、PHP試験が一番安いw)本業でお金に困らない状況になっている私にとってみると、試験の運営作業は赤字作業である。試験を運営したことがある人は知っていると思うが、試験は年間数万人規模にならないと儲からないのだ。私が本業と同じ単価で試験の収益からお金を頂けば、たちまち資金ショートしてしまう。それくらい試験は薄利なのだ。
なぜ試験は薄利なのか。
試験にはPBT(ペーパーベーステスト)、WBT(Webベーステスト)、CBT(コンピューターベーステスト)の3種類がある。
PBTは会場や試験管代、採点代などのコストがかかるため、漢検の様な超大規模でないとペイできない。PBTは試験日が決まってしまうため、大きな会場を大量に借りないと、受験者数が増えないので、試験が盛り上がらないのだ。ただ、PBTは運用コストが安い。日本には民間のIT試験が80個ほどあり、累計受験者数が1千名を超えた試験は10%ちょっとしかないのは、大半が小規模でPBTをやるしか試験を運営できないので、受験者数が増えずに、盛り上がらず、細々とやっている状態なのだ。
WBT、CBTにすればいいじゃん。と思う人もいるだろう。WBTはどこでもブラウザで試験が受けられるため、問題の漏洩とカンニングの問題が残る。カンニングできるので、試験合格者のスキル評定にならなく、試験としてはやはり普及しなくなる。
CBTは1年中オープンしている試験会場で試験管がいて、カメラで監視されている個室または半個室で受験する環境なので、受験しやすく、カンニングもできないため、試験が良ければ大量の受験者数を獲得できる。受験者が増えれば、試験は盛り上がるのだ。CBTがスタートアップ時期は一番良いのだ。ただ、とても高い。CBTの試験の受験料金のほとんどが1万円から2万円だ。それはCBTのコストが大半だからである。全国200か所以上の試験会場を一年中オープンさせれば、それはコストはかかる。高いと言ったが適正だと個人的に思う。試験の運営料金も高いが初期料金も高い。試験センターの会社によってまちまちだが、100万円から500万円くらいだ。これに試験問題・教材作成のコストなどなどを入れると、600万円から1000万円というのが初期コストの総額だ。(工夫をすると、相当削減はできる)この費用が用意できるかどうかで、CBTを採用できるかどうかが決まり、受験者数が累計千名を超えるかどうかが決まるといっても過言でない。このコラムで言いたいのは、試験を立ち上げ、受験者数を増やすにはCBT一択だと私が思っていることだ。ただ、CBTは試験センターに受験者数をコミットしなければいけないので、受験者数が増えないと、デコミット分の請求が届く。そうなると試験運営団体はあっという間に資金ショートしてしまう。CBTは試験運営団体のリスクも大きい。
これから試験を立ち上げたいと思う人はCBTで採算が取れるどうかを見積を問って試算してみることをお勧めする。企画が良いとコミットのハードルも下がるのでリスクも減る。
運営団体の法人格をどうするのか
個人的な意見をズバッと書く。
株式会社で運営した場合:利益は株式会社に組み込まれるため、利益は100%株式会社のものになるが、法人格なのである程度の信頼がある。
NPO法人で運営した場合:官庁管轄になるので、かなり厳しく、試験団体としてNPO法人が認可されないことも多い。予算も官庁の指導があり、厳しい。大きな利益が突発的にでても役員や運営者の懐に利益を入れられない。信頼も高く、健全だ。受験料などのお金を取らないNPO法人は簡単に作れるが、受験料をとるようなお金が動くNPO法人はかなり大変なのだ。
社団法人・財団法人で運営した場合:営利か非営利か選択できる。非営利だとなので、利益が突発的にでても役員や運営者の懐に利益を入れられない。税務署のチェックが厳しい(厳しくなった)。営利だと利益が突発的にでても役員や運営者の懐に利益を入れる(間違っていたらごめんなさい)が、業界団体の法人としては信用がなくなると思う。税務署のチェックが厳しい。ちなみに私がかかわっている全ての社団法人は非営利社団法人として登記して運営している。
社団法人も受験料金みたいなお金の流れがない社団法人はかなりゆるゆるだ。お金がの流れがあるかどうかで相当違う。
さて、一番どうにでもなってしまうのが、非法人の業界団体だ。税金を納めているのか、収益がどう処理されているのかも見えない。全ては運営者次第だ。
試験はリスクもあって、法人処理など面倒なのに何でやるのか。
かなり試験を立ち上げているが、長年IT業界で仕事をしてきて、お陰様で本業のマーケティングアウトソーシングが軌道に乗ったので、業界への恩返しとしてPHP試験・徳丸試験を立ち上げている。(Rails試験、Python試験、ヤマハルーター認定試験はクライアントからの依頼で立ち上げている)Rails試験とPython試験はクライアントの本業契約が切れたので、私が引き取ったり、団体の自己資金で運営していたりしている。試験は合格した人のために、辞めるということは絶対に避けたいのだ。だから万が一の時は私の会社で引き取るつもりだ。
試験はすべての技術者には必要ではないと思っている。
ただ、この試験が勉強するきっかけになったり、気が付かなかったことを学んだり、学ぶメジャメントが見えた人にとっては必要な仕組みだと思っている。また、業界が普及するときにいろいろな人がその業界に入ってくるので、ここまでは知識として抑えたほうがよいよというメジャメントはあった方が良いと思っている。これが私の大義である。
ちなみにビジネス的な理由としては少ない予算で成功させると私のマーケティング力が証明され、その成功事例を見て、本業のマーケティングコンサルティングに依頼が来るからだ。
儲かったらどうするの?
私が主催している試験の多くは成功して軌道に乗っているので、毎年収益が出ている。当たり前だが全ての法人で税理士さんに入ってもらって納税している。一方で、業界イベントにスポンサーしたり、書籍を無料でばらまいたりしている。あとは、喜ばれているかわからないが、マスコットやマグカップ、LINEスタンプなどを作ったりしている。それなりに人気なので、喜んでくれている人もいるような気がする。
ちなみに、こんな感じで、あちこちで試験はもうおからないよって書いているのに試験が普及しているニュースを見た人が「儲かってるんでしょ?」と言ってくる人がいるのは面白い。私がもうかっているのは本業で儲かっているのだ。(←蛇足だなぁ)
若い人で試験を立ち上げのノウハウを教えてほしい人は、昼ごはんでも食べに来くるとよいかな。(Facebookか何かで問い合わせてほしい。コメント欄に書きこんでもコメント欄を見ないで気が付かないのであしからず)同年代や年配者は対象外。試験を作れる人が日本のIT業界には数人しかいなくて、後輩を育成したいのだ。
それでは今日はこの辺で。