Windows Serverを中心に、ITプロ向け教育コースを担当

見かけ重視社会

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 月刊「Windows Server World」の連載コラム「IT嫌いはまだ早い」の編集前原稿です。もし、このコラムを読んで面白いと思ったら、ぜひバックナンバー(2008年2月号)をお求めください。もっと面白いはずです。なお、本文中の情報は原則として連載当時のものですのでご了承ください。

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 「人は見かけよりも中身」と言うが、実際のところそれはウソである。「人は見かけだけではない」は正しいが「見かけは関係ない」とは言えない。

 IT業界に限らず、エンジニアの中には身なりに無頓着な人が多いが、それで損をしていることも多い。今月は「見かけ」について考える。

●「見かけ重視社会」の到来

 筆者の知人から聞いた話である。某雑誌の編集者(決してIDGジャパンではない)が、編集長に

オレ、ちょっとおしゃれしてみようと思うんですけど、今着ているそのシャツいくらしましたか?

と聞いたらしい。編集長は「えーと、8000円くらいかな」と言うと「エー!」と驚いたらしい。念のため書いておくと、8000円のシャツは決して高くない。よく見ると、その編集者はメーカーから販促用にもらったTシャツを着ていたそうである。「おしゃれしたいなら、自分の金で洋服を買え」というのがその編集長の言葉だったとか。

 岡田斗司夫は、著書『いつまでもデブと思うなよ』で、現代は「見かけ重視社会」であると主張している。岡田斗司夫といえば、アニメやSF関係では有名な評論家である。彼の名を一躍有名にしたのは第3回大阪SF大会「DAICON III」(1981年)および、第4回大阪SF大会「DAICON IV」(1983年)のオープニングアニメだ(*1)。以来、約25年にわたってオタク業界の第一線で活躍している。

 SF大会というのは、SFファンが集まって開催する文化祭みたいなものである。ただし、著名なSF作家も参加する大規模なものだ。

 筆者が、岡田斗司夫のダイエットを知ったのは、かつてとは別人のような彼の写真を偶然見つけてからである。そして、その後、それまで読もうともしなかった岡田斗司夫の著書を手に取るようになった。

 最初に読んだのは、前回紹介した『「世界征服」は可能か』だ。続いて、彼のブログを読み、GyaOでやっているインターネットテレビを見た(注: 現在はYahoo! 内で「岡田斗司夫のひとり夜話」として配信中)。

 『いつまでもデブと思うなよ』を読んだのはその後である。ダイエットには興味がなかったが、導入部は一種の文化論になっており面白かった。

 デブはデブなだけで不利である。いくら面白いことを言っても「デブの割にはいいこと言う」くらいにしか思ってもらえなかったという。

 そこでふと気付いた。筆者が、岡田斗司夫の活動を25年間も見ていて、またNHK BSのTV番組「BSマンガ夜話」で「面白いことを言う」と思っていたのに、今まで1冊の著書も読んでいなかったのは、もしかしたら彼がデブだったからではないか。

 最近、立て続けに彼の本を買い、トークショーのチケットを買いに並んだのは、彼がやせたせいではないか。自分では見かけで人を差別していたつもりはなかったが、無意識に避けていたのではないだろうか。

●「人は見た目が9割」?

 ところで「見た目社会」といえば、竹内一郎の『人は見た目が9割』という本も有名だ。この本、タイトルがあざとい感じがして避けていたが、今回の原稿を書くために購入した。冒頭にマレービアン(メラビアン)博士の有名な法則が引用されている。

 人が他人から受け取る情報の割合は、表情が55%、声の調子が38%、言葉が7%だというのだ。しかし、この引用には大事な前提条件が抜けている。それは「見かけと言語が矛盾する内容を含んでいる場合」ということだ。

 つまり、よそ見しながら「愛しているよ」と言っても信用できないという話だ(その場合、言葉ではなく態度を信じるのは当然だ)。また、感情や態度について語っていないときは成り立たないと、マレービアン博士自身が述べている。たとえばビジネスや技術の話をしているときは、感情の入り込む余地が少ないので、マレービアン博士の法則は成り立たない。

 しかしマレービアン博士は「論理的な話には言語のみが影響する」とも言っていない。単に実験していないだけだ。岡田斗司夫は「論理的な話でも、見かけが影響する」と主張している。実験結果はなく、岡田斗司夫という実例が1つあるだけだが、何となく本当らしいと思うのは、筆者がやせた岡田斗司夫を見て著書を読み始めたためである。

●ファッションセンス

 「デブが不利」というのは岡田斗司夫の主張だが、さらに「ファッションも大事である」というのが『いつまでもデブと思うな』のプロデューサである木原浩勝の主張である。

 木原浩勝は、岡田斗司夫にスタイリストまで付けたらしい。ただし、ダイエットと違って、ファッションに関する岡田斗司夫の反応は微妙だ。目指すのは「オタクファッションの創造」だそうだ。

 言われてみると、ジャケットを着ておしゃれにしているが、中に着ているTシャツにはジオン公国(*2)のマークがプリントしてあったり、食玩を改造してピンで留めたりしている。

 岡田斗司夫の仕事は「オタクによるオタク評論」なので、あまり格好良くなるとかえって仕事に差し支えるのかも知れない。もっとも最近はオタク以外の仕事の方が多そうだが。

 木原浩勝によると「石塚英彦はあの体型で仕事をしているからやせてはいけないが、岡田斗司夫は体型で仕事をしていないのでやせた方が良い」ということだ。

●ファッションセンスも必要か

 ITエンジニアはどうだろう。世間では、ITエンジニアはオタクであり、オタクはデブだという図式があるらしい。実際にはオタクではないITエンジニアも多いし、デブが多いということもない。体型はあまり関係ないようだ。

 ファッションはどうだろう。仕事で会うIT関係者はふつうのファッションだが、コミュニティ活動に顔を出すと、ちょっとこれはどうかと思う人がまれにいる。休日に会うことが多いので、油断しているのだろうか。ファッションセンスがあるとはお世辞にも言えない、筆者から見てもちょっとひどい人がいる。

 普段の筆者の服装を知っている人からは「おまえに言われたくはない」と言われるだろうが、あえて書かせてもらう。まず、初めての人と会うときは襟のある服を着た方が良い。よほど強い自己主張がない限りTシャツは避けた方が無難だ。今の時代、ジーンズに対する拒否反応はなくなったが、破れているのはやめた方がいい。

 配色については一概に言えないが、一般的には同系色のグラデーションや明度や彩度の違う色でまとめるのが無難だ。補色(青と黄、赤と緑など)を扱うのは難易度が高いので、ワンポイントで使うのに留めた方が無難だと思う。一度、わざと赤と緑の組み合わせの服を着ていたら、友人から「なんていう(ひどい)配色ですか」と指摘された(厳密な補色関係ではないようだが)。補色の服は京劇の衣装みたいになってしまう(実は中国で買った服だ)。

●センスより理論

 おしゃれをするのに手っ取り早いのはデパートの利用である。今着ている服に合わせて何でもコーディネートしてくれるだろう。安売り店に比べれば値は張るが、コンサルティング料金だと思えば安い。

 このとき、なぜその組み合わせが良いのかを必ず尋ね、理由を記憶しておこう。デパートの店員は、コンサルティングはしてくれても、コンサルティング結果は成果物として提出してくれない。「なぜ」が分かれば応用が利く。本連載で何度も書いているとおりだ。

 ただ、多くのITエンジニアは、ファッションで強烈な自己主張をする必要はない。無難なファッションでいいなら、服のコーディネートはセンスではなく理論である。

 補色などの色相、そして明度と彩度が分かればある程度のコーディネートはできる。色相は原色の変化、明度は明るさ、彩度は鮮やかさである。色の知識は画面設計をするプログラマにとっても有益なので、一通りのことを勉強すると面白いと思う(たとえばマイクロソフトのWebサイトの「色相環」)。

 岡田斗司夫も言っている。

おしゃれはロジックなんですよ」(*3)。

(*1)DAICON IVのオープニングアニメは、TVドラマ「電車男」のオープニングアニメと酷似している。製作スタッフも重なっているようだ。また、同チームには庵野秀明(「新世紀エヴァンゲリオン」の監督)も所属していた。

(*2)アニメ「機動戦士ガンダム」に登場する敵方の国。

(*3)週刊アスキー「第7回え、それってどういうこと?」2007年12月4日号

■□■Web版のためのあとがき■□■

 「補色のコーディネート」は別に悪くないらしい。「初対面の人にTシャツ」も、許されるらしい。常識は常に変化するので実際の服装は自己責任でどうぞ。

 ところで、DAICON IVのオープニングアニメは、TVドラマ『電車男』のオープニングアニメと酷似している。製作スタッフも重なっているようだ。ちなみに、DAICON III/IVのアニメ制作チームには庵野秀明(「新世紀エヴァンゲリオン」の監督)も所属していた。

 ところで、岡田斗司夫がなぜ「機動戦士ガンダム」の主人公が所属する地球連邦ではなく、敵方のジオン公国のバッジを付けるのか。「連邦のマークは格好悪いんだもん」というのが本人の弁である。どっちにしても非アニメファンから見れば「格好悪い」だろうが、その辺のこだわりが「オタクファッション」なのだ。

 なお、ジオン公国は敵国ではあるが「悪役」ではない。ガンダムの監督である富野由悠季には、善悪の相対性を強調する作品が多い。たとえば「海のトリトン」「無敵超人ザンボット3」、ガンダムのすぐ後に制作された「伝説巨神イデオン」など、いずれも単純な善悪では語れない。

 もっとも「トリトン」と「ザンボット3」で善悪の相対性が語られるのは最終回近くになってからで、それまでは単なる伏線があっただけだった。しかも「善」とか「悪」とか正面切っての台詞にしらけた人も多かったようだ。

 しかし「ガンダム」と「イデオン」は、映像で描かれる事実から善悪の相対性が判断できるようになっている。現実を反映した大人の作品となっているが、絶対的な価値観を求める子どもに受けなかったのも当然だ。

 「鉄腕アトム」でスタートした日本のアニメは、「宇宙戦艦ヤマト」で作品として鑑賞するに耐える作品となり、「機動戦士ガンダム」で大人の娯楽作品となった。

 さて、その岡田斗司夫がちょっと不思議な会社「オタキングex」を始めた。「会社」というのはある種の言葉遊びで、実際は「私塾」に近い。社員の給与は年間マイナス12万円で仕事をする。つまり会社にお金を払って仕事をさせていただくわけだ。

 筆者は5月から参加しているが、なかなか面白い。オタキングex設立の経緯は「オタキングex創世記」として公開されているので、興味のある方は読んで欲しい。

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