Windows Serverを中心に、ITプロ向け教育コースを担当

世界征服

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 月刊「Windows Server World」の連載コラム「IT嫌いはまだ早い」の編集前原稿です。もし、このコラムを読んで面白いと思ったら、ぜひバックナンバー(2008年1月号)をお求めください。もっと面白いはずです。なお、本文中の情報は原則として連載当時のものですのでご了承ください。

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 IT管理者は、システム管理上の特別な権利を持つ。この権利は非常に強力なので、「世界征服」も夢ではない。今月は、支配者として見た場合のIT管理者のタイプを紹介する。

●IT管理者の目標

 IT管理者の目標は「世界平和」、つまり、みんなが快適で安全なITシステムを使えるような環境を整備することである。そのために、IT管理者には強力な権限(特権)が与えられる。

 あまりにも強力な権限なので、IT管理者はその権限を悪用する誘惑に駆られることがある。映画「スター・ウォーズ」では、私利私欲のためにフォース(映画に登場する架空の力)を利用することを「ダークサイド」と呼ぶ。

 現在では、ダークサイドの誘惑に負けた管理者がいても大きな問題にならないような工夫も提案されている。

 例えば、管理者の行為はすべて監査ログに記録されるとともに、監査ログの改ざんや削除の権限は監査ログ管理者にだけ与えられる。逆に、監査ログ管理者は通常の管理権限を持たない。不正行為があっても記録が残るし、記録を消せる人は不正行為ができないというわけだ。

 しかし、こうした分業体制は運用が面倒になるため、小規模な組織ではほとんど行われていない。そのため、多くの組織でシステム管理者は強力な権限を、誰の監視も受けずに行使できるようになっている。

 オタキング(オタクの王様)ことオタク評論家の岡田斗司夫氏の著書『「世界征服」は可能か?』によると、支配者には4つのパターンがあるという。

 筆者はこれがIT管理者のパターンと極めて似通っていることに気付いた。現在IT管理を担当している方は自分の状況を、これからIT管理を担当する方は自分の将来を考えてみてほしい。

1.魔王……正しい価値観を強制

 このタイプの管理者は「正しい」価値観を強制したがる。パスワードの最低長は12文字、毎月必ず変更し、1度使ったパスワードは24回変更するまでは使えない。こうした必要以上に厳しい(しかし方針としては間違っていない)規則を強制し、違反者にはコンピュータの利用停止などのペナルティを与える。もちろんパスワードを紙に書いて目立つところに放置することなど許さない。時々社内を見回って禁止行為を摘発する。

 魔王型の管理者は、利用者の反発を買う。しかし、表面上は正しいことを言っているので、表だって反論ができない。そこで管理者に見つからないようにさまざまな工夫が行われるようになる。たとえば、12月に使うパスワードは「December-1」という具合だ。このような単純な規則はすぐ見破られるだろう。

 魔王型の問題は、利用者の意見を無視していることである。魔王が恐ろしいので、利用者は意見を表明することもない。その結果、場合によっては、不自由な社内システムを捨てて、勝手に持ち込みPCで業務を行うようになってしまうかもしれない。支配者に逆らうレジスタンスの登場だ。

 汎用機時代の管理者は魔王が多く、自由に使えるPCが普及する要因の1つとなった。現在でも、汎用機的な発想から抜けていない人は魔王型が多い。自分の方針が絶対正しいと思い込まず、利用者の意見にも十分気を配ってほしい。またどうしても必要な規則は利用者に説明し、納得してもらうようにしたい。

2独裁者……責任感が強い働き者

 このタイプの管理者は、とにかく働き者である。何でも自分でやらないと気が済まない。しかも、利用者の意見もよく聞く。

 「独裁」というと自分勝手なイメージがあるかもしれないが、独裁を継続させるには一般利用者の意見を十分に取り入れる必要がある。独裁者は魔王ではない。決して万能ではないのだ。

 独裁者型の管理者は「支配者」というより「世話係」である。利用者の評判も良い。ここで、もっとも注意しないといけないのは過労死だ。すべてを独りで裁く「独裁」者は気の休まるときがない。大まかな方針だけを立て、個別の作業は他の人に依頼するように心がけたい。

 たとえば、我が家のネコにとって筆者は「独裁者」であるが、実態は単なる「世話係」である。独裁者は、なんとか負荷を分散させる方法を見つけたい。我が家のネコの世話は妻と分担している。

 なお「パソコンに詳しいから」というだけの理由で、部門のシステム管理を任された場合も「独裁者」タイプに分類される。この場合、実際には「独裁」ではなく、先輩や上司の「傀儡(かいらい)」である。利用者と上司の板挟みになって苦しむことも多い。

3王様……自分勝手で贅沢好き

 独裁者と似ているが、私利私欲で動くのが王様型である。実際の利益ではなく、周囲から単純に賞賛されることが目的の場合もある。このタイプは、政治家には多いようだが(*1)、現実のIT管理者には少ない。IT管理をしていても、誰も尊敬してくれないし、感謝もしてくれないからだろう。最近「システム管理者感謝の日」(*2)ができたようだが、そんな日ができたこと自体、普段感謝されていないことの証拠である。

 ただし、王様型の管理者がまったくいないわけではない。たとえば、不正に入手した情報をブラックマーケットに売りつける。会社の利益の一部を自分の口座に転送する。こんな管理者は王様型だ。もちろん、これらの行為は犯罪であり、IT管理者以前に人として問題がある。絶対になってはいけない。

4黒幕……人目に触れず裏で操る

 自分では手を出さず、口だけ出して裏で操るタイプ。このタイプは、本人が意図せずなっていることが多い。普通、黒幕は自分の手を汚さずに利益を得るのが目的である。しかし、IT管理者には、犯罪に走らない限り、利益はあまりない。せいぜい、メールの盗み読みをするくらいだ(*3)。

 黒幕型の管理者は、かつて優れた管理者であったITマネージャに多い。

 自分では「そろそろ現場を離れて経営に専念しよう」と思い「これからは君がIT管理を担当してくれたまえ」などと言って部下にIT管理業務を譲る。

 しかし折に触れ「そのやり方じゃ駄目だ」と口を出し、正式なIT管理者のやり方に文句を付ける。一種の院政である。黒幕は、自分が考えた管理方針を、自分が手を下さずに実現されることを喜びに思う。表舞台に立たずに自分の思想が実現されることが黒幕の望みである。

 IT管理者として優れた実績を積んでいればいるほど、黒幕の発言には重みが増す。凡庸な管理者は黒幕になれない。

 黒幕型の問題点は、黒幕の手先となる実際のIT管理者が、黒幕とビジョンを共有できていないことである。ビジョンが共有できている場合の黒幕は「頼りになる先輩」となる。

 IT管理を後任者に任せた場合、しばらくは黒幕として活動することはやむを得ない。具体的な管理作業と違って、管理方針は明文化されていることが少ない。そのため、短期間での引き継ぎは難しい。後任者が慣れるまでは黒幕として活動することも必要だろう。

 ただし、いつまでも口を出されるのは迷惑だ。この場合はどうしたらよいだろう。効果的な方法はない。上司に対して直接交渉し、駄目なら上司の上司に状況を説明するしかない。

●世界平和を実現するには

 システム管理者の仕事は、利用者全員が、快適にITを使える環境を整備することであり、決して世界征服が目的ではない。にもかかわらず、優れたIT管理者が、王様型を除く3つのパターンのどれかにあてはまるのはなぜか。

 結局のところシステム管理者は、IT世界を征服している支配者なのである。悪役として登場する支配者は、限られた範囲での利益を追求する。

 しかし、全体の利益を考えるようになれば、その人は支配者ではなく優れた指導者となる。IT管理に携わる人は、自分たちだけの利益ではなく全体の利益を考え、権力の誘惑に負けず、世界平和のために頑張ってほしい。

 スター・ウォーズでは、「フォース」という力を正しく扱う騎士「ジェダイ」がこうあいさつをする。

May the Force be with you.(フォースと共にあらんことを)

*1 System Administrator's Day。毎年7月の最終金曜日。2000年から始まった。http://www.sysadminday.com/

*2 自分の銅像を建てたり国を挙げての誕生日祝いをしている某国のトップが典型的な王様である。

*3 業務メールの監視は合法だが、事前に監視されていることを通知しておくべきとされている。

■□■Web版のためのあとがき■□■

 インターネットが、まだそれほど一般的ではなかったころから、筆者の会社は電子メールが使えた。

 当時、日本ではインターネットの利用は研究目的に限られていた。当時、筆者の会社が実施していた教育コース「インターネット入門」のテキストには「インターネットは商用利用が禁止されている」と明記してあったくらいだ。

 ISPは存在せず、電子メールを交換するには、近くの大学や研究機関に中継をお願いするのが普通だった。この場合、高価な専用線を引けることは少なく、たいていは9600bps程度のモデム接続を利用した。

 ただし、米国ではもう少し規制が緩く、非商用利用であれば自由にメール交換ができた。ただ、これはインターネットの規制というより、ビジネス習慣と電話代の問題だったのだろう。

 米国では電子メールを私用に使うことはある程度認められていた(今は少し厳しくなっているかもしれない)。また、市内通話の電話料金は月額固定が普通で、電話による常時接続も一般的だった(米国でブロードバンドの普及が遅いのは電話料金が安いからだという説もある)。

 当時、筆者の会社は社内ネットワークを経由して米国のインターネットを経由して、日本のインターネット向けのメール交換が自由にできた。1990年ごろとしてはかなり恵まれた環境であった。

 前置きが長くなったが本題である。システム管理者が「支配者」だという証拠に、こんな例があった。後輩の女性が結婚することになった。相手は先輩社員である。意外に思ったが、当時メールシステムの管理をしていた同僚だけは驚かなかった。

メールの中身は見ていないけど、誰がどのドメイン宛にメールを出しているかは記録している。そのドメインは、先輩社員の出向先のものだったし、出向直後からメールの量が増えているのでだいたい予想していた。

 同僚が偉いのは、このことを結婚式が決まるまで、誰にも漏らさなかったことだ。その倫理観は管理者の鑑である(結局言ってしまったのだが)。

 しかし、最近のように、インターネットの私的利用が問題視されている状況では、メール本文というプライバシーを侵害せずに、その行動を監視できるということでもある。

 筆者は、電子メールの私的利用に寛容だが、皆さんの会社の上司はそう思っていないかもしれない。十分注意してほしい。

Comment(1)

コメント

みながわけんじ

このコラムのタイトル「世界征服」で思い出したのは「中華一番」というアニメ。
うまいものを権力者に食べさせることにより、権力者は料理人のいいなりになり、料理人が実権を握るという悪徳料理人の野望。中には麻薬効果のある食材を使う料理人もいる。

IT管理者が世界征服なんてできるわかないな。所詮ITなんて、食や性欲のように人間の欲望の根源とは関係ないからなあ。

人のメールの内容まで見ている、そんな暇なろくでもない、まったりSEなんているのか。とっても褒められてたもんじゃないね。他人の色恋事なんて興味ないね。色恋事は自分でトライしなくちゃダメ!

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