絵のチカラ~ぐにゃぐにゃピカソの傍にいて良かったこと
2009年7月31日の「@IT自分戦略研究所 Weekly」に掲載したコラムを紹介します。ピカソの絵は、年を重ねるごとに好きな時代が変わっていく気がします。昔は「青の時代」が好きでした。いまは晩年の絵とラフ画に興味があります。
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わたしは大学卒業までの約半年、美術館でピカソの絵や版画を売るという、少し変わった仕事をしていました。そこで働いていてよかったと思うことが2つあります。
1つはピカソが好きになったこと。
実はわたし、ピカソが大の苦手だったんです。「目がここにあって、鼻があっちを向いていて、口がぐにゃりと曲がっていて、顔の色が所々違う」。そんなの、ありえないじゃないですか。ピカソの代名詞にもなっているキュビズム(多視点から描かれる手法)とエネルギッシュな原色が苦手で、ピカソを感じるアートな心を持っていなかったのです。つまりは食わず嫌いです。
しかし、本物の作品に囲まれているうちに少しずつ自分の気持ちが変わってきました。「ピカソって素敵!!」
それまでは知らなかったのですが、ピカソの作品には抽象画から具象画、落書きから発表作品、展覧会用のポスターまでさまざまなものがあります。最初から最後まで全部ぐにゃぐにゃな絵という、わたしの認識は間違いでした。どの絵にも共通していえることは、落書きから本格的な作品まで、すべてが素敵だということです。きっとピカソが天才といわれるゆえんでしょう。
2つ目は、いい人間観察ができたこと。
いかにもお金持ちそうな人、部屋をおしゃれに彩る絵を探している若い人、ピカソのありがたいうんちく話をしてくれる知識豊富な人、などなど……。即決で決める方は皆無だったので、お客様との対話の中でいろいろな人生勉強ができました。
家族団らんの場に飾る絵を探しているお客さまが一番多かったのですが、ご主人と奥さん、お子さんの趣味が合わずに悩まれるケースが多々ありました。この道何十年のプロの画商によると「絵画などのインテリアは、奥さんの趣味を優先して選んだ方が家庭はうまくいく」らしいです。
それまで、絵はわたしにとって「美術館で見るもの」でした。この仕事をしたことで、自分の空間に絵を飾ることがもたらしてくれるさまざまな力を感じました。今は、買われた作品が大切に飾られていることを願っています。