ひと夏の思い出が教えてくれたこと
2005年8月17日の「@IT自分戦略研究所 Weekly」に掲載したコラムを紹介します。カセットからCDやMDへ、そしてiPodへと移り変わった音楽メディアですが、ライブやフェスの「リアルの熱さ」は変わらないですね。
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こんにちは、ITmedia エンタープライズで編集をしている怒賀です。
とにかく暑くて暑くて、という決まり文句しか口をついて出てこないような8月14日に、千葉県の幕張メッセで開催された野外音楽ライブ「サマーソニック '05」に行ってきました。
東京駅で京葉線の電車に座って発車を待っていると、20歳前後の若い男たちが続々と乗り込んできます。Tシャツをラフに着て、あり余る力が噴き出してきそうな彼らの多くが、ポケットにキラリと光る白い金属製の箱「iPod」をお守りのように忍ばせています。彼らは白いコードで両耳の穴を漏れなくふさぎ、お守りのパワーを摂取するかのごとく、iPodの世界に浸ってリズムに乗っているのです。
という自分も、目下の夢は「すべての音楽をmp3化すること」という、ああ、夢のない人間だったりして……。CDの変換は割と楽でしたが、問題はMDやカセットの音源の取り込みです。MDで250枚、カセットも300本はあるでしょうか。演奏時間まるまるプラスアルファの時間がかかるため、実質的にはライフワークに近いくらいの一大プロジェクトになってしまいます。
それはさておき、このライブのメインバンドは、現代のThe Beatlesとも呼ばれる英国のOASISです。千葉マリンスタジアムで行われるOASISのライブ開始予定は19時半。それを見越して、その前に登場するバンドの演奏中には、ステージに一番近い場所を確保するための激しいもみ合いが繰り広げられるのです。明大ラグビー部の「前へ」というキャッチフレーズさながらの光景を、いつもならスタンド辺りから客観的に見てしまうのですが、今回はちょっとした事情により何と当事者として加わりました。
ひどい満員電車をさらに悪くしたような状況で、携帯のストラップを切られたり、つまずいて大勢の下敷きになりそうだったりと大変なシチュエーション。主催者は少しでも参加者を暑さから解放するために、ステージ前に無差別の放水を行っています。結局、一番前の柵から数えて5番目くらいのところまではい上がり、ファンとしてOASISを堪能したのでした。正直いって、三十路を過ぎてやることではありません。
しかし、こういう非日常な体験をするとやはり感じることがありました。「なーんだそんなこと」といわれてしまいそうですが、それは「リアル」の強みです。リアルという1点に向かって膨大なエネルギーが集まる光景を目の当たりにしたとき、バーチャルではどうやってもそれを再現できないことが分かったのです。
音楽に限らず何をするにしても、「本物がそこにある」ことの尊さを認識しておかなくては、人の心をとらえることもできないということを、この日、全身の痛みと引き換えに再認識することになったのです。
(ITmedia エンタープライズ編集担当 怒賀新也)