今、話題の人工知能(AI)などで人気のPython。初心者に優しいとか言われていますが、全然優しくない! という事を、つらつら、愚痴っていきます

P35.新組織(3) [小説:CIA京都支店2]

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初回:2020/05/06

登場人物

これまでのあらすじ

 CIA京都支店のP子は、東京本店での長期間のシステム開発案件とスパイ任務が終わりCIA京都支店に戻って来ていた。一方、Mi7滋賀営業所の矢沢所長は山村クレハに新規事業の調査を依頼した。P子はCIA京都支店長から、Mi7滋賀営業所の新規事業を横取りするように指示を受けたのだった。

6.P子の戦略

 CIA京都支店長からMi7滋賀営業所が行おうとしている新規顧客の獲得を横取りするという案件を受けたP子だったが、そもそもMi7滋賀営業所の状況も、新規顧客のターゲットも判らなかったので、まずは現状調査から始める必要があった。
 支店長との話を終えたP子は、来客用会議室を出るとすぐにデバイス開発室に向かった。

「お邪魔します」

 P子は、デバイス開発室の小部屋に入っていった。小部屋といってもフロアを間仕切りしているだけの簡易なつくりの部屋だった。

「川伊主任、おはようございます」

 デバイス開発室には、室長代理の早坂が一人でいた。元室長のミスターQは、委託契約社員として残ってはいたが、今日は出勤日ではなかった。

「おはようございます。所で佐倉部長は居られますか?」

『いつでも居るわよ』

「あ、やっぱり居られましたか」

 P子は早坂さんがいる前で、先ほどの京都支店長からの話は出来ないと思い、佐倉部長を連れ出そうと考え、インターフェースであるラズベリーパイを探した。

『ここでいいわよ』

「え?」

 佐倉部長は、まるでP子が考えていることが判ったように答えた。

「いや、でも...」

 そういうと、チラリと早坂の方を見た。当の早坂は、自分の机でパソコンを操作していたので、P子の視線には気づかなかったようだ。

『今回の支店長の依頼内容なら、早坂さんにも聞いてもらっても問題ないと思うわよ』

「盗聴してたんですか?」

『人聞きの悪い...』

「まあ、支店長もあの来客用会議室での会話はすべて佐倉部長は把握しているという事はご存知ですから」

 パソコンを操作しながら、早坂が答えた。

「なら、説明は不要ね。佐倉部長にお願いしようと思ったのは、Mi7滋賀営業所の浅倉南さんの行動を追いかけてもらおうと思って」

『...』

「え、フリーズしちゃった?」

『すでにある程度の情報は掴んでるの。Mi7の矢沢所長は、浅倉さんじゃなくって山村さんに仕事を依頼したのよ』

「山村さんって、山村クレハさんですか?」

『だから、追いかけるなら山村さんの方ね』

「そこまで判ってるなら、私じゃなくって佐倉部長に依頼すればよかったのに...」

『やきもち焼いてるの? ネットやパソコンから情報収集できても動き回れないから限界があるのよ』

「川伊主任。このGPS発信機を使います?」

 先ほどまで机でパソコンのキーボードを叩いていた早坂が、棚の方に歩いていったかと思うと、何か小さな部品を取り出してきた。

「これを、山村さんに取り付けることが出来れば、移動先を追跡できますよ」

(「早坂さんはスパイではなかったはずなのに...」)とP子は思った。

『私に内緒で、また、そういうの作ってたの?』

 佐倉部長が、楽しそうな声で問いかけた。ミスターQと一緒にいた頃よりも高性能なスピーカーを使っているようだ。

「これ、GPS機能と別にWifi接続機能もあるから、室内に入った後はWifiで追跡できますよ。もちろんネットワークへの侵入は、佐倉部長だよりですけど」

「じゃあ、とりあえずその道具を何とかしてクレハさんに取り付けてみるわね」

 P子はそういうと、その小型発信機を受け取った。

7.矢沢所長の戦略

「後は...」

 クレハはそう言いかけて止めた。

 矢沢所長は、諜報活動がゼロになった時の事を考えて、クレハに新規事業の開拓を依頼していた。

「後は...なんだね」

 矢沢所長は、やさしい声音でクレハに問いかけた。

「普通に派遣や常駐の新規顧客を集めても、現場の諜報員の仕事がなくなっちゃうから、やっぱり諜報活動の新規顧客を取る必要があります。つまり日本政府と契約する必要があると思います」

「つまり...」

「つまり、滋賀営業所が完全にMi7日本法人から独立した後なら、滋賀営業所としてMi7日本法人の顧客を奪うという事も出来るかもしれませんが、単独で奪うことは出来ないでしょう」

 クレハは続けた。

「方法は3つ考えられます。1つ目は、CAIやKGBの顧客を奪って手土産にMi7日本法人に引き渡して延命を願い出る。2つ目は、Mi7の顧客を手土産に、CAIやKGBと同盟関係を結ぶ。3つ目は、滋賀営業所そのものを手土産にCAIの傘下に入る」

 クレハは笑顔を崩さずに3つの案を説明した。もちろん、冗談には聞こえなかったので、矢沢所長は真剣に聞いていた。

「どれも過激だね」

 クレハは、少し照れたようなそぶりを見せて、矢沢所長のコメントを受け入れた。

「所長は、3つの案の内、どれがお好きですか」

 クレハは茶目っ気たっぷりに聞き返した。

「まあ、その3つのアイデア以外で、考えて欲しいというのが今回の依頼なんだがね。どれが好きかは答えられんけど、どれが嫌いかは答えられるよ」

 所長は、少しだけ笑顔で答えた。

「切られそうだからって、Mi7に延命をお願いって、僕はあり得ないね。ましてや他の組織の傘下に入る位なら、解散して個人が好きな組織に再就職するのを斡旋するだろうね」

「じゃあ、私はどこにしよっかな~」

「これこれ、まだ解散するって決まってないだろ」

 クレハはペロッと舌を出して茶目っ気たっぷりに笑った。矢沢所長もつられて笑顔になっていた。

「ここからは依頼になるが、Mi7の顧客を手土産に、CAIやKGBと同盟関係を結ぶには、Mi7に切られた時の案だから極秘に進めないと完全につぶされてしまう。もう一つの案としては、既存顧客ではなく新規顧客として政府と単独の契約を結ぶ。この2案で検討して欲しいんだ」

 クレハは判ったという風にうなずいた。

8.クレハの戦略

 クレハは矢沢所長との会議が終わると、真っ先に浅倉南を探した。

「南先輩!」

 クレハは浅倉南を見つけると、手を引っ張るようにして、人気のない場所まで浅倉南を誘導した。

「どうしたの。矢沢所長に呼び出されてたようだけど」

「そうなんですよ。南先輩の読みが当たってたって、早く伝えたくって」

「で、なんておっしゃってた」

「Mi7日本法人に泣きつくのは嫌だし、他の組織の傘下に入るのも嫌だって」

「まあ、所長ならそういうでしょうね」

「だから、Mi7の顧客を奪う案と、政府と新規に契約を結ぶ案で検討しろって」

「で、あなたはどちらの案で進めるの?」

「もちろん、両方とも進める気です」

 クレハは、さわやかな笑顔で、さらっと言ってのけた。

 この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありませんが、あなたの知らない世界でこのような事が起こっているかもしれません。

======= ≪つづく≫ =======

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