今、話題の人工知能(AI)などで人気のPython。初心者に優しいとか言われていますが、全然優しくない! という事を、つらつら、愚痴っていきます

034.ブラクラコメント祭りに便乗する

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初回:2019/03/27

1.ブラクラコメント祭り

 2019/03/18のリーベルGさんのブログ「高村ミスズの事件簿 ブラクラ篇 (終)」のコメントが熱いです。

P子「最近、パクリネタが日常化してない?」(※1

 興味のある方は、「高村ミスズの事件簿 ブラクラ篇 (1)」から順に読み進めて、最終回のコメントまでたどり着いてください。

 作者の意図や主張は判らないので、あくまで個人的な感想を述べたいと思います。
 本作のネタは意図的に非常に判りやすくされているので、議論しやすいと思います。

  1.女子中学生には、無限アラートを仕込む意図は全くなかった。
  2.HSS ジャパンの須加野氏(製品売り込みの暴走)が完全に悪役
  3.警察が(ホントはそんなことないけど)全くの無能

 これはコメント欄でも何度か出てきた『法律とその運用の問題』だと思います。

2.運用の問題?

 ちょっと別の架空の話をします。

 一般道路で制限速度を5km/h オーバーして走っていたところ、白バイに止められました。

 白バイ「速度超過で罰金です」
 運転手「えーこれくらい見逃してよー」
 白バイ「逃げるつもりですか?逃亡の恐れがありますので逮捕します」
 運転手「ちょっとまってよ。あなたおかしいって」
 白バイ「私の公務を妨害しましたね。公務執行妨害で緊急逮捕します」

 さて、法律的には5km/h オーバーでもスピード違反です(通常は見逃してもらえますけど)。問題は逃亡の恐れと公務執行妨害で本当に逮捕までする必要があったのか、という『運用の問題』になります。

 『運用の問題』とは、社会一般の通例というか合意形成と言うか、法律そのものは万能ではないのである程度の幅を持たせて運用しているので、その幅が社会一般の常識と乖離しているかどうかで判断されることになるでしょう。スピード違反の場合、運転者も警察官もほぼ同一の一般常識を持っているので逮捕される程のもめ事は少ないのではないでしょうか?

 先にも書きましたが、今回の小説は出来るだけあいまいな部分をクリーンにして、この運用の問題=社会一般の常識=IT技術者と一般人(警察)の常識の違い=専門家と言われる人たちの意見を盲目的に信用するな=その人たちの私欲に利用されるぞ、という流れが判りやすく書かれていると思います。

 なので、議論すべき『運用の問題』は、IT関係の場合の一般常識が、ITに強い人たちと弱い人たちによる差が激しいのではないか、というあたりがキーポイントではないかと考えています。

 一方、社会一般の常識=ネット上の多数意見となった場合、その多数意見がどちらに転ぶかで情勢が一変する可能性がある、という事も肝に銘じておく必要があると思います。

3.クリーンな部分をグレーにしてみる

 前提条件がクリーンだったので、逆にグレーにしてみようと思います。

P子 「引っ掻き回すのが得意だもんね」

  1.逮捕された男子高校生は、有限アラート(20クリックで解除)をおふざけでワザと仕組んだ。この高校生は昔アルバイト先の冷蔵庫に入ってSNSに写真をアップしたことがある人物である。このアラートのおかげでAKB48のコンサートのチケットが購入できなかった人がいた。
  2.ITやセキュリティの専門家と法律家で構成された有識者会議があり、今回の件はグレーと判断。チケットが購入できなかった人も、訴訟までは起こしておらず、ツイッターで愚痴っていただけ。世論はおふざけなので擁護する意見も多かったが、冷蔵庫の事件がツイートされると一気に犯罪者扱いされだしたが、妹さんがその件でイジメを受けて学校を辞める事態になったことを受けて、再び擁護論が盛んになったが、学校からお見舞金が渡されていることを知ると妹さんまでも再び税金ドロボーと犯罪者扱いされだした。(要するにネタが提供される都度、揺れ動いた)さらに、有識者会議の意見に世論も右往左往させられた。
  3.警察は2020年のオリンピックに向けてIT犯罪撲滅強化に乗り出しており、見せしめとして逮捕した。検察も当然過去の事件の事も把握しており拘留期限ぎりぎりまでワザと留め置き、不起訴にした。

P子 「前提が複雑すぎ」

 もう、論点、争点が山盛りでおなか一杯と言ったところでしょう。

 有限アラート(20クリックで解除)と書きましたが、例えば10クリックならセーフなのか、アウトなのか?という議論が入ると非常にややこしくなります。お金なら 1円でも取れば犯罪になりますが、アラート 3回でも悪意があれば犯罪になるのか?とか。

P子 「ループにせずに、onClickする度に出すとか?」

 この前提の場合は、世間一般の意見が時とともに変化するという事がテーマになるかもしれません。つまり一般常識は時とともに変化しますが、人々の感情も状況次第で変化します。
 サブテーマは、警察が見せしめ逮捕なんかしてもよいのか、という話でしょうか。

4.バグは不正指令電磁的記録?

P子 「まだ、引っ掻き回すの?」

 私は法律家でもなければ法律に詳しい訳ではありませんが、警視庁の『不正指令電磁的記録に関する罪』というページに書かれている概要で言うと、
「不正指令電磁的記録に関する罪(いわゆるコンピュータ・ウイルスに関する罪」)」
この法律では、以下の電磁的記録、その他の記録を処罰の対象としています。

 ・人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録
 ・上記に掲げるもののほか、上記の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録

 何を言いたいかと言うと、『いわゆるコンピュータ・ウイルスに関する罪』であって、明確にコンピュータ・ウイルスという文言は書かれていません。

 つまり、法律の解釈でいう所の、ウイルスであろうとなかろうと『その意図に沿うべき動作をさせず』という事は、システムバグも当然意図に沿うべき動作をさせていない事になります。
 もちろん、ワザと仕組んだ場合は犯罪行為ですが、テストが不十分だったり予期しないタイミングやデータが原因だったりした場合、バグをつぶしきれていないこともあります。その場合も逮捕されるのでしょうか?

P子 「システムにバグは付き物という一般常識?があるから大丈夫じゃない」

 よかったよかった...って、ほんとによかったのかな?

 ただし、システムバグで振り込みが出来なくて不渡りを出したとか、多くの人がシステムバグで多大な損害を被った場合、原因究明の世論が巻き起こればこの法律で逮捕者が出るかもしれません。
 その場合、プログラムの作成者が逮捕されるのか品質管理(テスト部門)がバグを見逃したとして逮捕されるのか判りませんが、そんなことになれば怖くてシステム開発なんてやってられません。

P子 「だいぶ話がそれて来た気がするけど」

5.技術者に何ができるのか?

 そろそろまとめましょうか。

 やはり、ITに関する一般常識を、一般の人にもきちんと理解してもらう為の努力が必要だと思います。

P子 「このエンジニアライフみたいな」

 いいこと言うねえ。

 やはり何が危険で何が危険でないとか、常日頃どういう風にITに接すればよいのかとか、これだけITが身の回りにあふれているのですから、ある程度の知識は一般人と言っても必要だと思います。

 『法律とその運用の問題』とは一般常識で運用してもらうという事であり、運用に問題がある場合は声を上げて議論を巻き起こす必要があると思います。

 逮捕するーしないの判断や、起訴するーしないの判断は、法律の運用の問題なのでここできちんと判断しておかないと裁判で判断する...というのは非常に危険だと思います。

 5km/h のスピードオーバーで公務執行妨害で逮捕、起訴された場合、法律に照らせば有罪になる可能性が極めて高くなります。(裁判所も法律の運用を一般常識で判断してるのかな?)

 IT技術者から見れば一般的なシステムバグでも、ITに弱い人から見れば、『人に迷惑をかけた』とか『意図に沿うべき動作をしていない』とか言って告訴する...なんてことが起こらないように、エンジニアライフのブロガーの皆さん、頑張ってくださいね。

P子 「そこを他人任せにする?」

ほな、さいなら

======= <<注釈>>=======

※1 P子「最近、パクリネタが日常化してない?」
 P子とは、私があこがれているツンデレPythonの仮想女性の心の声です。

Comment(8)

コメント

議論してる匿名

向こうでこのコテハンにしたのでこちらでもこれで書きます。
『法律とその運用の問題』に賛同する内容のコラムがでて、自分だけがこう考えているのかという不安が少し和らぎました。
ありがとうございます。


>専門家と言われる人たちの意見を盲目的に信用するな=その人たちの私欲に利用されるぞ
この視点は持っていなかったので新しい発見でした。
物語の内容が腑に落ちた気がします、ありがとうございます。
(私自身が港で言われている警察の技術力が低いという論調に根拠が感じられていないので、反発でその視点が抜けてしまっていたのだと思います)


>システムバグも当然意図に沿うべき動作をさせていない事に
それは当時から言われていて、法務省から出ている「いわゆるコンピュータ・ウイルスに関する罪について」でもバグはこの法律の対象外と謳われているので、ちゃんと対応していれば心配しすぎる必要はないと思います。
一応その資料のURLも貼っておきます(PDFです)。
http://www.moj.go.jp/content/000076666.pdf


>裁判で判断する...というのは非常に危険だと思います
これは恐らく逮捕時点で犯罪者扱いされることを言われているのだと思いますが(向こうのコメント欄でもありましたね)、これは「推定無罪の原則」が「有名無実化している」(形骸化している)ことに起因する問題であって、今回の件とは分けて考えた方が良いかと思います。
少なくとも建前上は刑事手続の不正をなくすために警察、検察、裁判所が独立した組織になっているので、警察・検察が間違えたときに裁判で正すのは本来の流れのはずなので。

S

あちらで議論になっていたのは、
警察が5km/hオーバーであることを機械(技術)で測定せずに、
目視(感覚)で判断しているのでは?
という点と理解しています。
(感覚で判断しているが如き判断だ!という批判)

目視で5km/hオーバーなので罰金です、というのは、
A)運用の問題
B)技術力の問題
のどちらなのでしょうか?

目視で5km/hオーバーというやり方は無効ですよ、
と正せば良いので、「A)運用の問題」という理解で合ってますでしょうか?

「B)技術力の問題」としたい気持ちには同意したいところではありますが。。。

ちゃとらん

> ちなみに、そういう判断を裁判で決めるという考えには反対です。


結論だけじゃわかりにくいですね。


> 建前上は刑事手続の不正をなくすために警察、検察、裁判所が独立した組織になっているので

建前上です。 (^^)

それに、不正ではなく法律の解釈の問題なので、先のスピード違反の例でも、5km/hオーバーで逮捕されて、起訴、裁判になれば、負けます。(法律違反しているのですから)


逆にこれが技術の問題なら、裁判できちんと争うというのは理にかなっていると思います。
5km/hオーバーで、測定時の気温や湿度、前方にトラック等があってエコーが乱反射したとか、隣の車を測定していたとか、白バイで並走して計測したとか、5km/h という数字が正しいかどうかを争う場合です。


今回のは技術の問題ではないので、裁判に持ち込まれると負ける確率が非常に高くなると思います。さらに、合意形成ができていない現状ではなおさらです。

S

詳しく説明していただきありがとうございます。

5km/hオーバーであることが測定されている中での、判断基準(運用)がポイントということですね。

無限ループの件では、違反であるかの基準があいまいなため、技術的な話とは関係無く、解釈次第で◯×を決めることができてしまうというのは、裁判で勝るのが難しい現状も踏まえると、なんとも恐ろしい話ですね。。。

議論してる匿名

今更ですが気づいたので返信です。


>Sさん
>警察が5km/hオーバーであることを機械(技術)で測定せずに、
>目視(感覚)で判断しているのでは?
今回の問題はそもそも制限速度も決まっていないし、速度の測り方さえも決まっていないという状態だと思います。
(危険な速度で走るとダメ、って言われているだけ)
警察の基準および測り方では速度オーバーだけど、別の基準・測り方をすれば速度オーバーでない、というような状態です。
(ただし速度のように基準や測り方を決められないものなのでそうせざるを得なくなっています)


>ちゃとらんさん
>> 建前上は刑事手続の不正をなくすために警察、検察、裁判所が独立した組織になっているので
>建前上です。 (^^)
仕組み上その歯止めがないと今回のような警察・検察の暴走を止めることができなくなります。
Coinhiveの件も一審で無罪になり、警察・検察の行為を糾弾するような判決文になったのもこの建前がちゃんと機能していることを表しています。


>5km/hオーバーで逮捕されて、起訴、裁判になれば、負けます。(法律違反しているのですから)
5km/hオーバーが裁判で負けるのはその法律の目的(交通安全)から考えて当然です。
逆に見逃された場合も警察がその状況では交通安全に影響がないと判断した、といえます。
(ちょっと調べてみると計測器の誤差の問題とかもあるみたいですね)


>今回のは技術の問題ではないので、裁判に持ち込まれると負ける確率が非常に高くなると思います。さらに、合意形成ができていない現状ではなおさらです。
法律の運用の問題だからこそ裁判で争うしかないのです。
そしてCoinhiveの件の一審では「合意形成ができていない」から不正とは言い切れないとして無罪になっています。
すなわち警察・検察が法律の趣旨に則った運用を出来ていなかったと裁判所が認めたということです。


裁判は非常に大変なことですし、できればそうならないことが一番なのは間違いありません。
でも警察や検察も人の運営する組織である以上、絶対にどこかで間違います。
プログラムからバグが無くならないのと同じようにです。
バグを減らすために様々なテストをするように、その間違いを間違いだと公に指摘し正す仕組み(裁判)はどうしても必要なのです。

ちゃとらん

> 警察や検察も人の運営する組織である以上、絶対にどこかで間違います。


その通りで、裁判官も間違いを犯すことがあります。
その為に、上告の権利があると言われるかも知れませんが、上に行くほど、権力よりの判決が出されていることもご存知だと思います。


つまり、極力、裁判で決めることを避けて、一般的な民意での合意形成を促してはいかがでしょうか、というのが、私の意見です。


たぶん、この話、どちらが正しいとかそういう話ではない気がします。
つまり、裁判でしか決着がつかないという事です。…議論してる匿名さんの考えでは。


これが、金銭が絡むとか、犯罪行為が絡むならそうせざるを得ないかもしれませんが、まずは、こういう場や、色々な人の意見を聞きながら、一般的な人々の考え方を共有していくというのはいかがでしょうか?


簡単に言うと、一般的な人が、いきなり逮捕されて裁判で無罪を勝ち取ればよい、という考えより、そもそも無罪なら逮捕されない方がよい、という考えの人が多いと思いますが、そこはどうでしょうか?

議論してる匿名

>つまり、極力、裁判で決めることを避けて、一般的な民意での合意形成を促してはいかがでしょうか、というのが、私の意見です。
これについては反論する気はありません。
むしろ大前提だと思います。
この刑法もその合意形成をもとにして判断するように法務省から解説されていますし。
ただ、今回の問題はその合意形成を待たずして警察が暴走する(運用を間違える)ことがある、ということだと考えているのでこのような書き方になりました。
そういう意味で仰られていることには同意します。

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