今、話題の人工知能(AI)などで人気のPython。初心者に優しいとか言われていますが、全然優しくない! という事を、つらつら、愚痴っていきます

P01.P子の秘密 [小説:CIA京都支店]

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初回:2019/04/03

1.P子の秘密

 P子は米国バージニア州マクレーンに本社のある Communication Intelligence Applications(通信情報アプリケーションズ株式会社 略してCIA)の日本支部の京都支店に勤務するSEだった。この会社はシステムエンジニアの能力を契約の対象とする業務委託契約、つまり、今なにかと話題のSESが主な業務だった。(※1

 ここまでなら『普通にSESの客先常駐SEとして活動していました』で終わるのだが、P子には秘密があった。そう彼女は本物のCIA(中央情報局)職員(※2)であり、日本国内で諜報活動しているスパイだったのだ。

 その昔、P子が京都支店長(通称"M")に聞いたことがあった。

「日本国内にCIAの拠点って、何ヵ所くらいあるんですか?」

 支店長は少しにやけた感じで答えた。

「それは秘密だよ。まあ政令指定都市の中でも外国人観光客(※3)や外国人ビジネスマンが多くいる所にはあるんじゃないかな」

(ほとんど言ってるようなものね)

 P子はこんなに口の軽いスパイがボスで大丈夫かしらと思いながら、もう一つの疑問をぶつけてみた。

「でも CIA(通信情報アプリケーションズ株式会社)京都支店って日本にはこの1社だけでしょ。他の拠点はそれぞれ別の名称を使ってると思うんですけど、どうして、ここだけCIAみたいな会社名にしたのですか?」

「それはね、犯罪組織に拉致されたときに拷問を受けて『お前はCIA職員か?』って尋問されたときに、『はい、そうです』と答えても嘘発見器に引っ掛からないだろうって、初代支店長が決めたそうだよ」

「でも CIAじゃなく日本語で『中央情報局の者か?』って聞かれたらバレるでしょ」

「なかなか鋭い指摘だね。今度敵国のスパイを捕まえたらP子ちゃんにも尋問させてあげるね。いや、拷問の方が好きかな」

(それってサドハラ(※4)じゃない?)

 P子は代々ミスター"M"と名乗る歴代支店長って、みんな軽かったのかしらと不安感が増すのを感じた。

2.P子の任務

 P子に課せられた任務は大きく2つあった。1つは主に関西の企業にSEを紹介して、客先常駐の注文を取ってくる、いわば SESの営業活動だった。P子もSEなので自身が客先常駐することもあるが、そういう場合は目ぼしい人物を見つけた場合に、情報提供者(エージェントと呼んでいる)になってもらう為に交渉する場合がほとんどだった。諜報活動といっても企業情報を盗むというより、米国の安全にかかわる情報の流出を防ぐ方が主な任務だ。

 もう1つの任務は、派遣する社員の教育担当だった。スパイとしての心得は本国でみっちり研修しているので問題ないが、SEとして客先常駐する前に、それなりのプログラミング知識やコミュニケーションスキルが必要だった。

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「P子ちゃんに紹介しておくよ。今度うちに入った新人の"J"君だ。君に教育担当を任せたから、OJT(※5)で鍛えてくれたまえ」

 P子はSES課課長の"K"こと川島課長に呼び出されると、一方的に"J"と呼ばれた城島丈太郎(※6)を紹介された。

「先輩、よろしくお願いします」

 城島丈太郎は一見さわやかな好青年に見えるが、本国での精神的・肉体的な極限状態に追い込まれる研修を見事にパスしただけあって、目の奥に野心のようなものが感じられる、とP子は直感した。

「私の方こそ、よろしくね」

 ところで、このSES課には普通の社員もいた。つまり CIA京都支店は通常の会社としても機能しており、一般社員も雇用していた。そして社員同士も誰がスパイで誰が一般社員か一切知らされていなかった。そもそも客先派遣されているため、同僚の名前も正確な社員数もはっきりわからない状態だった。

 P子は教育担当という任務を結構気に入っていた。というのは SES課に配属される社員は、とりあえず教育担当のP子の元に送られる。誰がどういう性格かも理解できるし、誰がスパイなのかを知ることができた。教育自体はスパイ候補生も一般社員も同じだったが、先ほど川島課長が『新人の"J"君だ』という表現を使ったが、それが隠語で彼女にスパイ候補生ということを暗に伝えていた。

 支店長も課長もP子ちゃんと呼ぶが『Python使いのProgrammerだから、PPちゃんか?』と支店長が言い出したので『P子でいいです』と自ら宣言したため、二人とも彼女を『P子ちゃん』と呼ぶようになっていた。

3.ミスター"Q"

「P子先輩、おはようございます」

 通称"J"こと城島丈太郎は朝から少しご機嫌な様子だった。今日が客先常駐の初日だったからだ。普通の人間ならちょっとくらい緊張したり不安がよぎることもあるかも知れないが、さすがにスパイ候補生だけあって並みの心臓ではなかった。

「あら丈太郎君、おはよう。あのね、お客様の所に挨拶に行く前にちょっと寄ってもらいたい所があるの」

 P子は SESの営業活動もしており、今回の丈太郎の派遣先もP子が取ってきた案件だった。派遣先が諜報活動に有効そうな場合は、スパイを優先的に紹介する。今回は Javaの保守案件だったので、4時間ばかり教育を行って後はOJTで何とかするというのがお決まりだった。もちろん履歴書には『Javaでの開発経験が豊富で優秀な人材です』と書かれていた。

 P子は『デバイス開発室』と書かれた小さな小部屋に丈太郎を案内した。小部屋といってもフロアを間仕切りしているだけの簡易なつくりだった。

「おう若いの。よう来たね。初出勤の記念に、このペンを差し上げよう」

「室長ありがとうございます。大切に使わせていただきます」

 このデバイス開発室の室長、通称"Q"(※7)と言われている人物は、P子が毎回新人を連れてくるので顔なじみだった。P子はこの初老の人物を気に入っていたし、"Q"もP子がお気に入りだった。

「おう、SDカードは入れておいたからな。バッテリは1時間持たんから気いつけや」

「え?」

 丈太郎には意味が分からなかったが、すぐに気が付いた。

「これってボイスレコーダーですか?」

 P子が答えた。

「それは盗撮カメラ(※8)よ」

 丈太郎が今受け取ったばかりのペンをじっくり見直していた。

 デバイス開発室はスパイ御用達の秘密道具を取り扱う部署だ。メンバーはこの室長のみで予算も本国より圧倒的に少ないので、こうやってAmazonで目ぼしいスパイ道具を購入してカスタマイズしているのだった。

「室長、こないだお願いしておいたファイバースコープ(※9)は出来てる?」

 P子はそういいながら、机の上に置いてあった箱のような物を手に取ろうとした。

「P子ちゃん待った!それは高性能小型爆弾だよ」

「え?」

「うっそぴょーん」(※10

 P子が慌てて手を引っ込めるのを見ながら、室長はにこにこしながらそう言った。

(あ、またやられたわ。ほんっと食えないジイさんね)

「P子ちゃん、こっちの箱だよ。一応 LEDは赤外線に交換しておいたし、レンズも赤外線フィルターを取り外して置いたよ。ご希望通りだろ」

 ミスター"Q"は好々爺然とした笑顔を見せていた。

4.Jの任務

 P子は丈太郎と一緒にCIA京都支店の入っている雑居ビルを出た。そもそも訪ねてくる顧客も取引先もほとんどないため、こんな場所にオフィスを構えていても何の問題もないらしい。

「P子先輩。さっき室長から受け取った物って何ですか?」

「ああ、ファイバースコープね。実はこれをあなたに使ってほしいの」

 P子は紙袋に入ったままのファイバースコープを丈太郎に渡した。

「これで今から行くお客様の社長室を徹底的に調べて欲しいの。エアコンのダクト、机や本棚の後ろなどね。あと、あそこはフリーアクセスの二重床なので、そのあたりもすべてね」

「それで、何を探すんですか?」

「何か...よ」

「え? 何を探すのかすら判んないんですか?」

 丈太郎は外国人が良くする"shrug"のポーズ(※11)を軽くとった。ビジネスバッグと先ほど受け取った紙袋を両手に持っていたため、ほんのかすかな動作だったが P子にはそれだけで十分だった。

「一応あなたの席は社長室のすぐ横にしてもらったから、床下の捜索は自分の席からいつでも出来るわよ」

「お気遣い、ありがとうございます」

 丈太郎はそう言うと、にっこり微笑んで見せた。

(食えない奴ね)

 P子はそう思いながら、にっこり微笑み返した。

(食えない女だ)

 丈太郎はこの優秀な女スパイについて、もっと知りたいと思った。


======= <<注釈>>=======

※1 SES
 ウィキペディア(Wikipedia)より
 https://ja.wikipedia.org/wiki/SES

※2 CIA(中央情報局)
 中央情報局 Central Intelligence Agency
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%A4%AE%E6%83%85%E5%A0%B1%E5%B1%80

※3 外国人観光客
 2017年 都道府県別訪問率ランキング(全体・全体)
 https://statistics.jnto.go.jp/graph/#graph--inbound--prefecture--ranking

※4 サドハラ
 サディスティック・ハラスメント...一般企業ではないですよね。

※5 OJT
 On-the-Job Training
 職場で実務をさせることで行う従業員の職業教育のこと
 『026.私の嫌いなもの』の⑥OJTで教育しているつもりの上司
 http://el.jibun.atmarkit.co.jp/pythonlove/2019/01/026.html

※6 城島丈太郎
 通称、ジョジョです。スタンドは出せません。
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%81%AE%E5%A5%87%E5%A6%99%E3%81%AA%E5%86%92%E9%99%BA

※7 通称"Q"
 Q (ジェームズ・ボンド)
 https://ja.wikipedia.org/wiki/Q_(%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%82%BA%E3%83%BB%E3%83%9C%E3%83%B3%E3%83%89)

※8 盗撮カメラ
 隠しスパイカメラ, ペン型カメラ
 https://www.amazon.co.jp/dp/B07G34JP6K/

※9 ファイバースコープ
 15m超長内視鏡 スネークカメラ マイクロスコープ
 https://www.amazon.co.jp/dp/B07FCB3PWL/

※10 「うっそぴょーん」
 どこかで聞いたセリフです。
 https://el.jibun.atmarkit.co.jp/pythonlove/2019/02/028_1.html
 028.「ネタについて考える」を考える
 https://el.jibun.atmarkit.co.jp/pythonlove/2019/02/029.html
 030.テニスと将棋とシステム開発

※11 "shrug"のポーズ
 https://ejje.weblio.jp/content/shrug
 (両方の手のひらを上に向けて)すくめる、肩をすくめる、肩をすくめること

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