ふつーのプログラマです。主に企業内Webシステムの要件定義から保守まで何でもやってる、ふつーのプログラマです。

夜の翼 (8) Web

»

 「Web アプリケーション......ですか」シュンは訊き返した。「あの、すいません、作ったことないんです」
 「知っています」佐藤管理官は、心配しなくていい、とでも言うように微笑んだ。「君が作ったのは、スタンドアロンのゲームやツールでしたね」
 私たちがいるのは多目的会議室だった。佐藤管理官がシュンに仕事の概要を説明するために確保した場所だ。私とサチも同席している。その予定ではなかったが、ナナミも一緒だ。
 驚くほどのスピードで行政関係の様々な手続きがクリアされ、加々見シュンの氏名が、アーカム・テクノロジー・パートナーズの給与台帳データに登録されたのは、7 月11 日のスカウトから7 日後、7 月18 日だった。私とサチは、早速シュンに連絡し、学校帰りに待ち合わせすることを決めた。待ち合わせ場所に指定されたコンビニの駐車場には、なぜかナナミも立っていて、同行を強く主張したので、佐藤管理官の許可を取った上で、一緒に横浜ディレクトレートに連れてきたのだ。
 こういう場合、まずは勤務形態、給与体系などの説明から入るのが一般的だろうが、ATP はいろいろな意味で一般企業とかけ離れている。佐藤管理官が最初に話したのは、シュンが一番知りたがっているであろうこと、つまり、仕事の内容だった。加々見シュンくん、君の主な仕事はWeb アプリケーションの構築とメンテナンスになります。
 その言葉を聞いたとき、シュンの顔に疑問と困惑、そして不安が浮かぶのが見えた。自分のスキルがATP で重宝されるようなものではないのかもしれない、とでも考えたのだろう。
 手続きの過程で、ヨネヤマ児童ホームを訪れる機会があり、シュンの部屋を見せてもらった。二段ベッドの他、二つのデスクと本棚、クローゼットぐらいしか置かれていない狭い部屋だ。中学生の場合は二人部屋が基本ルールだが、シュンはそこを一人で使っている。その理由を、案内してくれた中年の男性職員は明かさなかったが、大体の想像はついた。何らかのトラブルによって誰も同室になることを了承しなかった、といったところだろう。
 本棚には、ブックオフで購入したらしい10 冊ほどの技術系雑誌の他、プログラミング関連の書籍が並んでいた。ショゴスに遭遇した公園でシュンが読んでいた技術書の他は、Python の入門書がほとんどだ。中学生の男子が読んでいそうなマンガや小説はない。
 「シンプルな部屋でしょう」疲れた顔をした中年の男性職員は、私の心を読んだように言った、「他の子とコミュニケーションを取るキッカケになるものがあまりないんです」
 「エッチな雑誌とか隠してたりしないんですかね」
 場を和ませようと口にした言葉に、一緒にいたサチは冷たい視線を送り込んできたが、職員の方は苦笑しながらも真面目に答えてくれた。
 「確かにその手の雑誌はたまに持ち込まれて隠されますが、だいたい発見します。不定期に室内の検査をやってますから。でもシュンの部屋から発見されたことはありませんね。興味がないのか、よほど巧妙に隠しているのか。その手のバカ話でも、他人との接点になるんですが、シュンがナナミ以外の誰かと談笑している姿を見たことがありません」
 使われていないデスクには、何年も前に流通ルートから姿を消した17 インチのノートPC が置かれていた。最新機種と比べると分厚く重そうだ。元は区役所で事務用に使われていたもので、廃棄される際、手を回して入手したのだという。
 「本来、個人にPC を与えたりしないんです」職員は小さくため息をついた。「そもそも今どきの子は、スマホやタブレットの方を欲しがりますしね」
 「シュンは違った?」
 「ご存じかと思いますが、シュンは突発的に、その、手を出すところがあって、私たちも少し手を焼いていたんです。でも、PC の前に座らせておけば、ずっとおとなしくしていてくれるので」
 サチが微量の非難をこめて職員を見たが、口に出しては何も言わなかった。児童養護施設に対する国からの予算は先進国の中では最低レベルだ。当然、職員も人手不足状態が恒常化している。一人の職員がケアする子供の平均数は10 を超えているらしく、特定の子供ばかり気をかけていられない、というのが偽らざる現状なのだろう。
 「ネット環境は?」
 「Wi-Fi を解放しています。高校生だとフィルタリング機能を有効にしたスマホを持たせているので。このノートPC はWi-Fi 付いてないんですが、安いアダプタを買ってきました。2.4GHz しか対応してないので遅いですがね」
 そのとき私は、一人でPC の前に座り、黙々とキーを叩く14 歳の男の子の姿を想像した。シュンはこの中古PC と、高速とは言えないネット環境を使って、プログラミングを独学で勉強し、U-18 原石発掘プログラミング大会でグランプリを獲得したゲームを作成したのだ。無意味な仮定だとわかってはいたが、自分がもし同じ立場だったら、果たしてシュンと同じことができただろうか、と考えずにはいられなかった。
 今、目の前に座っている少年には、単にデジタルネイティブ、というだけでは説明ができない、何らかの才能があると考えた方がいいのかもしれない。セクションD の四人のPO のスカウトは、ミスカトニックの推薦によって行われたが、佐藤管理官によると、シュンだけは推薦ではなく、命令に近い要請だったとのことだ。ミスカトニック――正式にはミスカトニック・インフォマティクス・インスティテュート――は、アーカム・オーダー内では機密度の高い研究機関のような位置付けで、しばしば詳細な説明なしで意味不明な要請を出してくるため現場責任者の間では評判がよろしくない。それでも、私の知る限り、ミスカトニックからの情報が間違っていたことは一度もないから、シュンのスカウトには重要な意味があるのだろう。
 「でも、Web アプリって」シュンは当惑しながら言った。「ホームページ的な何かってことですよね」
 佐藤管理官は微笑んだ。
 「先日、ショゴスやナイト・ゴーンツなんかに対する攻撃オペレーションばかり見せたので、誤解させてしまったかもしれませんが、ATP は基本的にSPU からの侵入に対する防衛を行う組織です。日々の業務は多岐にわたりますが、そのほとんどは防壁の構築とメンテナンスになります」
 「防壁」シュンは繰り返した。
 「そう。SPU からの侵入を防ぐための防壁です。正式には、didicop と言います」
 「でぃーでぃーこっぷ?」
 「Defense-in-Depth Intrusion Countermeasure Protective Wall です。日本語にするなら多層防御侵入対抗防壁ですかね。長くて憶えづらいので、職員の間では単に防壁、と呼んでいます」
 「ICE みたいなもの?」SF オタクのナナミが訊いた。
 「機能としては似てますね」
 「その防壁が」シュンが訊いた。「Web アプリというのはどういうことなんですか。どこかにサーバがあるってことですか?」
 「まず背景の説明が必要ですね」
 詳しく話すと時間がかかるので簡単な概略にとどめますが、と前置きして、佐藤管理官は説明を始めた。私とサチがATP にスカウトされたとき聞かされた話と同じ内容だ。
 有史以前、今は<旧支配者>と呼ばれる種族が地球を支配していたが、彼らは何らかの理由で<旧神>と呼ばれる上位種族の怒りを買うことになった。最終的に、<旧支配者>は、この宇宙から追放されることになったのだが、その追放の方法が尋常ではなかった。<旧神>は、この宇宙から<旧支配者>が含まれる部分だけを「分離」させたのだ。物理的には一つの宇宙のままだが、重なり合うようにSPU が誕生したことになる。もはや科学技術などという言葉の範疇を完全に超越している。
 ただ「分離」処理の際、うっかりしたのか、意図的にか、本来は完全に関係が絶たれるはずの二つの世界の間に、無数のつながりが残ってしまった。量子もつれポイントと呼ばれるものだ。
 「量子もつれって」ナナミが身を乗り出した。「EPR パラドックスのあれですか」
 「そう。長くなるから詳細は別の機会に譲りますが、重要なのはこの世界――RU とSPU との間に量子レベルの接続が存在している、ということです」
 <旧支配者>は、人類が文字を発明するより早く、量子もつれポイントの存在に気付き、それを利用して、RU への侵略行為を行ってきた。多くの場合、それらは魔術や呪術、怪物や異形の存在、といったオカルト的要素としてRU に根付いた。やがて人類の小数の賢者たちがその侵略行為に気付き、防衛組織を結成し、対抗する能力を発達させてきた。古来、魔法使いや魔女、エスパーなどと呼ばれた存在だ。二つの世界の戦いは、人類が科学技術文明を発達させるにつれて激化してきたが、世紀が変わる頃になると、その様式を一変させることになった。
 「20 世紀までは、<旧支配者>や<従者>の実体を送り込む戦術でした。<従者>については何度か成功しましたが、その都度、アーカム・オーダーが排除してきました。<従者>は強大な力を持っていますが、物理的な対処が可能だったからです。それを悟ったのか、21 世紀になると、SPU は戦術を変えてきました。実体を送り込むのは、成功すれば効果は大きいのですが、膨大なエネルギーを必要とする割に成功率がそもそも低い。それなのに、我々の対抗技術の発達によって排除されてしまう。そこで彼らは、実体ではなく情報を送り込む戦術に変更してきたんです。情報を送り込む戦術は低コストで実施可能です」
 「ちょっと待ってください」ナナミが手を挙げた。「量子もつれを利用するってことは、量子化された粒子を離れた場所に置いて、片方を観測するってことじゃ......」
 「基本はそうですよ」佐藤管理官はナナミに頷いた。「ただ、それは我々の量子論による理論でしかない。残念ながら、SPU の量子論、量子力学は相当、先に進んでいるようです」
 「でも......」
 「ナナミさん」サチが遮った。「興味深い話だと思うけど、そこを話していると何時間もかかるから。今は、シュンくんの仕事の話を先にした方がいいでしょ」
 ナナミが納得して頷くと、心なしかシュンがホッとした顔になったようだった。佐藤管理官が話を進める。
 「要するに、先日見たようなクリーチャーの他、SPU は様々な情報を送り込むことで、RU におけるSPU 要素の現実度を上昇させようとしているわけです。量子もつれポイントを通して転送できる情報量には制限があるようなので、成果を出すにはそれなりの時間がかかるとは思われますが、成功率が高いので結果的にコストパフォーマンスがいいということなんでしょうね」
 「Web アプリはどこで出てくるんでしょうか」
 シュンの質問を受けて、佐藤管理官は私に目顔で話を託した。私は頷いて説明を引き継いだ。
 「Web アプリケーションにはいろいろな技術やプロトコルがあるが、その基本は単純だ。何らかのリクエストを受け、レスポンスを返す。それだけだ。この場合、リクエストにあたるのが、SPU からの侵入になる。アーカムがやろうとしているのは、RU 全体を覆うような防衛網の構築だ。SPU からの侵入に、自動的に対抗手段が作動する防壁だ」
 「でも、Web アプリにはWeb サーバが必要ですよね」シュンが首を傾げた。「防壁サーバみたいなのがあるんですか」
 「そういうものはない。Web アプリケーションというのは、まあ比喩だ。そのバックグラウンドにある技術は、私も知らないよ。この人が教えてくれないんでね」
 私が親指で示した佐藤管理官は肩をすくめただけで何も答えなかった。
 「先日のような突発的な侵入対応を除けば、私たちの仕事はルーチン業務となる」
 防衛本部の下に、防衛分析部があり、ここで防壁全体の分析を戦略的に決定する。ATP の他の支部と相互に補完しあいながら、全体最適化を進める部門だ。分析部が決定した防壁構築要件に従って、防壁設計部が詳細設計を行う。防壁設計部は全体のマネジメントを行う防壁構築計画室と、設計一課から設計三課で構成されている。二課と三課はスポット対応が主業務なので、通常、一課の設計に基づいて防衛戦術部がプログラミングを実施する。
 「防衛戦術部は管理業務を行う戦術管理室と、実際のプログラミングを行うPO 課に分かれる。PO 課には現在のところ五つのセクションがあって、それぞれ5 名から10 名のPO、プログラミングオペレータが所属している。君が所属するのはセクションD だ。ちなみにセクションの後のアルファベットは、それぞれチーフのイニシャルになっている。私の名前が台場だから、セクションD になるわけだな」
 「もし同じ名字の人がチーフになったらどうするの?」ナナミがもっともな疑問を口にしたが、佐藤管理官が「そのとき考えます」と答えて解決した。
 「詳細設計というのは何ですか?」シュンが実務的な質問をした。
 「PO が作るプログラムの設計書だよ。防壁を構成する最小単位はクラスで、決まったメソッドを実装することになっているんだ。それぞれのメソッドで、どんなロジックを実現するかということが指示してある。ペアのPO で一つのクラスを組み上げることになるな」
 「その設計書通りに作るだけですか」
 「つまらないと思う?」サチが面白そうに訊いた。
 「まあ少し」シュンは正直に答えた。「なんて言うか、自分で考えて自分でプログラミングするのかと思ってたんで」
 「安心していいよ」私は言った。「メソッドの中は、ルールから逸脱しなきゃ、どんなコーディングをしても自由だ。むしろ、そのプログラミング次第で効果が変わってくる。PO の腕の見せ所だ」
 半分ほど納得したような顔でシュンは頷くと、別のことを訊いた。
 「プログラミングした後はどうなるんですか?」
 「QM 部が中をチェックする。QM というのは、Quality Management、品質管理のことだ。条件に適合してなかったり、ロジックが曖昧だったりすると突っ返してくる。いずれわかると思うから、今のうちに言っておくけど、ケンカをするなよ」
 「え?」シュンは少し強張った顔で笑った。「ケンカって」
 「品質不適合、で戻してくるとき、かなりキツイ言葉で理由を書いてくる奴がいるんだよ。人によるんだが。セクションD は知っての通り、未成年者ばかりだから、頭からバカにしてる奴もいる。そういう奴と言葉の応酬をするような時間のムダを避けろってことだ」
 「大丈夫です。ぼくはいつも冷静ですから」
 「......冷静ねえ」
 「シュンはいつもは冷静なんです」慌てた様子のナナミが口を挟んだ。「そりゃ多少、トラブることもありますけど、そういうときは大抵、相手が悪いんだから」
 「ナナねえ、いいから」シュンが苛立ったように言った。「わかりました。QM 課には気をつけることにします。その後はどうなるんですか」
 「まあ、あまりPO 課には関わりがないが、QM 課がOK を出せば、DO 課に回る。DO はDeployment Operation で、作ったクラスを実際の防壁にデプロイする、つまり組み込む処理を行う部署だ。デプロイが完了すると防壁の一部として効力を発揮することになる」
 「そのデプロイ、がよくわからないんですが」シュンはまた首を傾げた。「サーバがないなら、どこにデプロイを行うんですか」
 私は心の中で唸った。これまでスカウトした四人の中で、ここまで突っ込んだ質問をしてきたPO はいない。
 「一般的なWeb アプリケーションの場合だと、モジュールファイルをサーバ上に配置するわけだが、防壁の場合は違うんだ」
 「どう違うんですか?」
 「申し訳ないが、私にはそれを明確に答えることができないんだ」
 「この人に」シュンは佐藤管理官を見た。「教えてもらってないからですか?」
 「いや」私は首を横に振った。「自分の無知をさらけ出すようだが、説明されたけど理解ができなかった」
 シュンとナナミはサチに目を向け、否定的な反応を見出すと、佐藤管理官に期待のこもった視線を向けた。
 「おっと。私に来ましたか」佐藤管理官は苦笑した。「残念ですが、今、ここで詳しい説明はできません。簡単に説明するなら、物理的なネット空間ではなく、量子情報で満たされた論理的な空間があり、デプロイすることで情報の一部を交換することができる、ということになりますが、わかりますか?」
 シュンは首を横に振ったが、ナナミは少し考えた後、自信なさそうな声で訊いた。
 「それって、塵理論みたいなもの?」
 佐藤管理官は感心したように笑い声を上げた。
 「違いますが、いい線行ってますよ。さすがSF に詳しいですね」
 「その、塵理論とはなんですか」
 私は訊いたが、佐藤管理官は時計を見て立ち上がった。
 「すいませんが時間切れです。とにかく、シュンくん、ATP へようこそ。活躍を期待しています。それから、ナナミさん」
 「はい?」
 「残念ですが、ATP にはあなたの居場所はありません。ここに出入りできるのは正式に採用された職員だけですから。ナナミさんには、ATP で働いてもらえるスキルはありません。ただし」
 ナナミが抗議の声を上げようとする寸前に、佐藤管理官は手で制して続けた。
 「極めて異例なことですが、ナナミさんはシュンくんの保護者代わり、ということで、任意の時間に面会することを許可するパスを発行します。施設内への立ち入りはできませんが、プラットホーム近くの部屋でシュンくんに会うことができます。シュンくんの仕事が終わるまで待っていて、一緒に帰ることもできますよ」
 「でも......」
 「ナナミさん」サチが言った。「普通、子供の就職先に、親が出入りしたりしないでしょう?」
 「シュンはまだ中学生です」
 「それでも、シュンくんがここで働くと決めた以上、もう年齢は関係ないの。ナナミさんの気持ちはわかるけど、シュンくんの意志を尊重すると決めたんでしょ」
 「......」
 ナナミはシュンとサチを交互に見て黙り込んだ。その顔には、寂しさと誇らしさが同時に浮かんでいる。私は、ヨネヤマの職員の言葉を思い出した。私がヨネヤマを辞するとき、今のナナミと同じような表情を浮かべながら言ったのだ。
 「シュンは、いわゆる問題児に分類されるのかもしれません。でも、ここで暮らす子供たちは、大なり小なり問題を抱えています。特に、18 歳でここを出てからの進路は、常に大きな問題になります。大学への進学は、経済的な理由でまず不可能だし、就職だって普通の家庭の子と比べると不利になるのは否めません。私たちの支援の手も、ここを出た後ではなかなか行き届かないんです。だから、シュンが自分の居場所を、こんなに早く見つけられたことを、私たち職員はみんな心から喜んでいるんです」
 シュンの細い顔には若干の不安が浮かんでいるが、先への期待感の方が勝っているようだった。ナナミはそんなシュンを見て、諦めたように言った。
 「わかりました。それで我慢します」
 「それから、すでにシュンくんには手配していますが」佐藤管理官は付け加えた。「ナナミさんにも護衛を付けます」
 「はあ? 護衛? え、シュンにも付いてるの?」
 「PO には全員付いていますよ。護衛といっても、24 時間つきまとうようなことはないし、学校の中に入るようなこともありません。普段は気付きもしないはずです。PO は替えの効かない貴重な資産です。万が一にも、先日のようなトラブルに巻き込まれないように、目立たないように警護しています。通常、家族は対象外ですが、ナナミさんの場合は、すでにある程度の事情を知ってしまっているので。敵がナナミさんを利用しないとも限りません。可能性は低いと思いますが、護衛は必要なんです」
 ナナミは不満そうだったが、自分が特別扱いされていることに気付いてはいないようだ。通常ならATP と関わった場合、記憶を書き換えられ、地理的にも遠い場所へ移されるのが常だ。おそらく、シュンへの影響度の大きさを考慮しての措置だろう。
 「しばらくは何もないと思いますがね。では」
 佐藤管理官は急ぎ足で会議室を出て行った。最後の言葉の意味を問いただされることを避けたのかもしれない。シュンがATP で働くことを決めたときから、何日も続いていた関東近辺のSPU からの侵入はピタリと止んでいた。その理由と背景について、佐藤管理官からは何の説明もない。シュンに関して、私やサチが知らされていないことは、まだたくさんありそうだった。

(続)

 この物語はフィクションです。実在する団体名、個人とは一切関係ありません。また、特定の技術や製品の優位性などを主張するものではありません。本文中に登場する技術や製品は実在しないことがあります。

Comment(12)

コメント

yupika

>加々見シュンの氏名が

四名が

yupika

あ、こちらの読み間違えだった!!もうしわけないです。
先ほどのは適当に破棄しといてください…。

yupika

>「防壁サーバみたいなのがあるんですか」
から続くところは大事な伏線なんだろうけど、気になるところ。
普通に考えるといわゆる「向こう側の技術」を使って作られた同様の物があって、そこで変換しているような気がするけど…
明らかにオーバーテクノジーだし、向こう側の神話生物は今のところ知性もないのでそれ以上の生物が関わってくるのか気になる。

急展開

物語の伏線がヤバいw。

ナナミは何者???
もしかしてシュンを守るためのインスマウス人?
それともナナミ自身が…。

匿名

>ミスカトニック
読み間違えないぞ、と注意深く読んでも「ミニスカ」って一旦読み間違えちゃう

Dai

> Quarity Management
Quality Management

> トラブルことも
トラブることも

リーベルG

Dai さん、ありがとうございました。

SF好き

元ネタ


ICE → ニューロマンサー
塵理論 → 順列都市


どっちもSF古典の名作です

急展開

(仮想空間にアクセスできる?)シャイニングTは
どこにあるのか、そもそもシュンは…。


>その理由と背景について、佐藤管理官からは何の説明もない。

「シュンをATP で働かせないため」
「シュンをATP で働かせるため」

→どちらなのかが分かりません(>

とおりすがり

伏線回収がものすごく大変そう。。。
そして、この展開だと軽くクリスマス突破。2人(本編)+2人(スポット)は遭遇するのか。。

なんなんし

星の智慧派まだー?(・∀・)

やっぱり

ナナミはインスマス人でナナミとATPは
初めからグルだったとしか思えないんですが、
考えすぎですか、そうですか。

コメントを投稿する