エンジニアとしての矜恃
もしもエンジニアに必要なものをひとつだけ挙げろと云われたならば、わたしは迷わずに「矜恃(きょうじ)」と答える。矜恃とは、自信やプライドと考えれば大きなズレはない。
もっとも、最初から矜恃を持つことはまずありえない。これはエンジニアに限らず、どのような職業にも共通することだが、通常は経験を積む中で芽生えていくものだ。
■矜恃に生き...
矜恃は自分なりの理想像の上に構築される。美学と言い換えてもいいかも知れない。始めは、実力の伴わない自尊心に過ぎない。まさに薄氷を履むが如き状態だ。
しかし現場での経験を積むにしたがって、それは自分の中で大きくなり、いつしか確固たるものとなっていく。つまり、矜恃とは成長の証ということができるだろう。
■矜恃に倒れる
このようにエンジニアとして成長する過程において、矜恃が果たす役割は非常に大きなものだといえる。ところが。ところが、だ。
エンジニアはこの矜恃によって成長するが、その同じ矜恃によって滅びることもある。成長の原動力ともなっていた矜恃がある日突然、成長を阻害する要因となってしまうのだ。
そのひとつの例として、現場で自分の矜恃に反する対応を迫られるという状況がある。矜恃に反することは苦痛だ。それは自分を律する道であり、法でもある。しかし、プロジェクトを円滑に進めるために、上司や他のメンバーから強要されることも多い。
もうひとつの例としては、自分の矜恃を守るために「守りに入る」という状況だ。この業界の変化は激しい。そして人はある程度成長すると、自分の持つ矜恃に縛られて保守的になり、身軽に動くことができなくなりがちなのだ。
■正しい矜恃とは
正しい矜恃というものがあるのかどうかは実のところわたしにはわからないが、エンジニアとして滅びに至る矜恃と天寿を全うする矜恃があることは確かだ。
例えば、特定の技術に対する過度な傾倒は危険な兆候といえる。下手をすると、その技術と共に玉砕することになる。偶像崇拝は滅びに至る道だ。上で挙げた例のように、矜恃に反する対応を迫られたときに破綻してしまうし、傾倒する技術が廃れればもう守りに入るしかなくなる。
太く短く疾駆するならそれもいいだろう。しかし、生涯現役を目指すなら、特定のなにかに執着するのではなく、変化し続けること、探求し続けること、そういった概念的なものをよりどころとするのが正解だ。
矜恃というものは一旦固まってしまうとほとんど書き換えが効かない。まさに人生を左右するかも知れない重要なファクターのひとつだ。だからこそ、若いうちにちゃんと考えることをお勧めする。