煽動せよ、絆の名のもとに
「絆(きずな)」の語源は、動物や他人を束縛する、呪縛するといった意味だ。縛られるのがキライなわたしにとって、それはこの上なく不吉な響きを持つ言葉のひとつといえる。したがって、この言葉が世間でクローズアップされているここ数年、わたしはとても居心地の悪い気分を味わい続けているのだ。
とはいえ、ここでわたしは絆という言葉を連呼する人々をdisろうというつもりは毛頭ない。むしろその逆だ。彼らは自分の理想とする目標や目的を達するために、人をまとめ、同じ方向を向かせ、煽動し、動かし続けることのできる有能なプロマネだ。絆を制するものはプロジェクトを制する。そのようにわたしは考えている。
■絆とはなにか
子どもの頃からわたしは絆というものがキライだったのだが、そんなわたしの周囲にも、絆を大切にする人はたくさんいた。例えば不良。それからツッパリ。そしてヤンキー。
彼らは本当に絆を大切にする。自分たちのLove&Peaceのために、彼らは戦い、血を流し、そして絆をより深める。ヤンキーの進化系というか、最近のトレンドとして「マイルドヤンキー」なるものも存在するが、彼らもやはり絆を大切にするようだ。
絆とは仲間意識であり、それは例えば困難な目的や目標、危機的な状況、あるいは敵の存在により強化される。そういう意味では、絆とは闘争心を煽り、好戦的、閉鎖的な感情を呼び起こしやすい状態にするものでもある。それこそが、わたしが絆を嫌う理由なのだが、とにかくこの点に関しては取り扱いに注意が必要となる。
■「絆」がプロジェクトの成否を左右する
さて、我々エンジニアも絆と無縁ではいられない。なぜなら、プロジェクトに困難な目的や目標は付き物だし、危機的状況は日常茶飯事であり、組織やステークホルダー間には常に敵対心がくすぶっている。否が応でも絆が深まるというものだ。皆さんもデスマーチの中で、傷つき疲れ果てた現場の戦友同士で妙な連帯感を感じることがあるだろう。
逆にプロマネは、プロジェクトメンバーの中に湧き上がるこのような絆に翻弄されてしまいがちだ。しかし、それはPMが悪い。絆をコントロールするのもプロマネの役割なのだから。
実はプロジェクト管理において、絆をコントロールすることはとても重要な意味を持つ。もう一度、絆とはなにかを振り返ろう。
絆とは仲間意識だ。
したがって、プロジェクトにとってプラスとなるような仲間意識をメンバーの中に植え付け、育てていかなければならない。プロマネがそれを怠ると、メンバーは真の目的も目標もわからないまま自分たちを危機的な状況に追い込んでいるプロマネその人を敵と見なすことになる。当然のことながら、そのような絆はプロジェクトの円滑な進行を阻害する。
そうならないために大切なのは、プロジェクトのスタート時点で目的や目標を共有し、プロジェクトの進むべき道を指し示すことだ。プロジェクト定義書は、そういった意味で非常に重要なドキュメントとなる。決しておろそかにしてはならない。
そしてプロマネは自らの意思を具現化したプロジェクト定義書に沿って、メンバーをアジテーション(煽動)し続けるのだ。
プロマネはよきアジテーター(扇動者)となるべし。そして煽動せよ、絆の名のもとに!