知的エンジニアライフの方法 (6)演じ方
役者にとって「演技がうまい」は褒め言葉以外のなにものでもないが、我々一般人が「お前は演技がうまいな」と言う場合、そこには非難めいた響きが込められていることが多い。言外に「だまされた」あるいは「だまそうとしているな」という意味が含まれているのだ。
しかし、我々一般人にとっても演技というものが重要なスキルであることは間違いない。なぜなら、人生とは演じることなのだから。
■初めに演技ありき
我々は誰でも、物心がつくとすぐに演技を始める。皆さんも覚えがあるだろう。おやつや小遣いや誕生日のプレゼント欲しさに、親の喜ぶ行動をしたあの日のことを。
親の前では良い子供を演じ、先生の前では良い生徒を演じ、友達の前では良い友達を演じる。いつしかそれは良い恋人、良い部下、良い同僚、良い上司、良い親へと進んでいく。
「いや、自分はそういうのが嫌で、いつも人とは距離を置いていた」という人もいるに違いない。もちろん、「良い○○」が常にベストなソリューションとは限らない。自分にとって最適と思われるキャラクターを選択して、それを演じていたわけだ。
演じるキャラクターは千差万別。しかし、とにかく我々は無意識のうちにさまざまな役割を演じ分けて生きている。
■演じることはまねること、学ぶこと
人は影響を受けやすい生きものだ。映画館から出てくる観客の中には、今観たばかりの映画のヒーローやヒロインが宿っている。特に子供時代には、さまざまなものごとから影響を受け、見たり聞いたりした憧れのヒト、尊敬するヒトに近づこうとして、その言動やファッションなどをまねる。
「学ぶ」の語源は「まねぶ」といわれるが、演じることもまねることに他ならない。ということは、演じることは学ぶことでもあるのではないだろうか。
ぶれない生き方をしている人は、自分が演じるべき役割を熟知している人だ。それはつまり、ペルソナの定義がしっかりしていて、どういう局面でどう行動するかというシナリオも明確化されているということだ。もちろん「ペルソナ定義書」のような形で文書化されているわけではなく、繰り返し演じている内に条件反射的に動けるようになっているのだ。
■我々は演じることによって成長する
つまり、成長とは新しい役柄の演技を覚えることだ。そこにエンジニアとしての成長の秘けつが隠されている。
「あの人のようになりたい」という目標を見つけよう。そして、その人の行動パターンをまねしよう。仕事の進め方をまねしよう。プライベートの過ごし方、通勤時間の過ごし方もさりげなく聞き出して、それもまねしよう。
何人もの尊敬すべきヒトの、尊敬する部分を集めて理想像を作ろう。そして、ペルソナとして定義し、そこからもっと妄想を広げて、そのペルソナの朝起きてから夜寝るまでのシナリオも作ってしまおう。それが新しいあなたの役柄だ。
■エンジニアライフの終焉とは
ある程度の歳になると性格や行動パターンなどは変えられなくなると思っているヒトが多い。しかしそんなことはない。俳優は歳を重ねるに従ってさまざまな役の演じ分けにも磨きがかかるものだ。
その役に共感し、のめり込めるなら、我々も何歳になっても新しい自分の役柄を手に入れられるだろう。自分がなりたいエンジニア像を思い描いて、そういうエンジニアになり切ろう。
理想とする行動パターンを繰り返すのだ。思うだけではなく、行動し、話すのだ。そうすれば、それがエンジニアとしてのあなたのペルソナとして定着するだろう。
もしも、自分の理想とするエンジニア像を描けなくなったなら、そのときが、その人のエンジニアライフの終焉だ。
それはおそらく、年齢とは関係ない。