IT化とは、単純なことを複雑にすることなのだろうか
■それは本当にシンプルか?
むかしはご近所さんが「あそこのお店でセールやってるわよ!」とクチコミすれば誰でもその場に行くだけで、その情報の恩恵にあずかることができた。しかし今は、ちょっとトクをしようと思うと、専用サイトにアクセスしたり専用アプリをダウンロードして、無料会員登録してクーポンをゲットしなければならなかったりする。
クーポンはプリントアウトして持参してくださいね。さもなくば、携帯端末でクーポンページを開いて店員に提示してくださいね。そうすれば割引きいたしましょう。なんですって、ポイントカードをお忘れになった?お客さん、それじゃ今日は割引きは致しかねますねぇ。
これをサービスの向上というのだろうか。
■恩恵にあずかれない人々
老朽化したニュータウン(なんて皮肉な響きだろう)の、エレベーターもない集合住宅の最上階に一人暮らしの高齢者が住んでいる。毎日、痛む足をかばいながら、重たい買い物袋を苦労して持って上がっている。一方、そのすぐ近所の新しいマンションでは、若い夫婦が日用品のほとんどをネットショッピングで済ませて、荷物はすべて玄関まで業者が届けてくれている。
とあるレストランの古くからの常連客である熟年の夫婦が月に一度の贅沢をと、コース料理を定価で注文している。隣の席では、若いカップルが同じコースをクーポンを使って半額で楽しんでいる。
こんな光景は、今では日常茶飯事ではないだろうか。
■それを情報格差という
どうも最近よく感じるのだが、年々サービスを受けるために必要なスキルが高度化しているのではないだろうか。チャネル自体が多様化しているし、多様化したチャネルの中で有益な情報を運よく得たとしても、その情報を活用するために、また登録の手間が必要だったりする。
チャネルの多様化というと、同じ情報をさまざまなチャネルで流すことのように思ってしまうが、実際にはそれぞれのチャネルで流れる情報は違う。だから、より多くのチャネルを注意深くチェックした者がよりトクをする。しかも、受け身でいては有益な情報はなかなか得られない。自ら積極的に探し求めなければならない。それが出来なければ、情報弱者となるしかないのだ。
■シンプルさを維持しよう
このように、便利さを追求しているはずのITシステムがモノゴトを逆に複雑にしてしまい、情報格差の元凶になっているとは皮肉なものだ。ネット上の買い物だけでなく、実店舗での買い物にも、客にデバイスの所有を要求しているのだ。世の中はクラウドが花盛りだが、サービス提供者をIT機器の所有から解放したクラウドが、同時にサービス利用者に対してはデバイスの所有を強要する。これも皮肉としかいいようがない。
とにかく、このような状況から脱却するためには、システム化に際して、モノゴトを複雑にせず、シンプルさを維持するしかない。では、それにはどうすればいいのだろうか。
たとえば、モノゴトがシンプルだった時代を知っている先達に訊いてみるというのはどうだろう。案外、そんなところから新しい発想が生まれてくるのかも知れない。これぞまさしく温故知新というヤツだ。
コメント
そもそも、クーポンとかポイントカードって、
客側の便利さを追求しているのでしたっけ?
ポイントカードは囲い込みのためだと思いますし。
クーポンは、お金のあまっている人からは値引きせず、
ひと手間かけてでも安くしてほしい、という人には値引きしたい、
という仕組みだったと思います。
そもそも、簡単に値引き価格で購入できるようにという目的のために、
お店が高いお金を出してシステム構築をするはずがない。
システムを発注する目的は別にあるのであって、
値引きはあくまでその目的のための手段です。
ということで、そもそもITシステムが便利さのみを追求している、
という前提が根本から間違っているような気がします。
などと私は思いましたが、どんなものでしょうか。
秋
はじめまして。
毎回楽しく拝見させて頂いております。
今回はコラムのテーマに沿っていて面白い内容だと感じました。
確かに、最近の世の中の風潮では、なぜだかIT技術を駆使して
「情報強者」にならなければ損をした気分にさせられる奇妙な
世の中になっていると感じます。
若者の間では「スマートフォン使ってないやつは情弱」とかいう
極端な話題もあるようで。
僕なんかはむしろ毎日PCとにらめっこしている生活しているので、
スマートフォンの必要性を未だに感じられません。
そういう意味では僕も「情弱」なんでしょうね(笑)
話が逸れましたが、この手の問題は、「システム化」=「IT化・
コンピュータ化」という短絡的な思考が生みだしている結果だと
考えてます。
そもそもシステムなんてものは、単なる組織だった一連のモノゴト
の流れであって、IT技術によって作られるシステムはそのシステム
内のサブシステムにすぎないと思うのですが、どうも世の中の
システム構築が「ITイチバン」になっているように感じられて、
僕自身もIT業界にいながら、どことなく軽いフラストレーションを
感じていたりします(笑)
onoTさんのおっしゃるように、システム化に際して、単なる
「システム化」=「IT化・コンピュータ化」ではなく、あくまで
IT化・コンピュータ化は一部のシステムの利便性を高めるための
ものと位置づけなければ、いいサービスは生まれてこないのでしょう。
いろいろと考えさせられるコラムでした。
ありがとうございました。
インドリ
この問題は経営戦略と情報システムの無理解による問題だと思います。
多チャネル化の時代だと言われていますが、電子サービスという一チャネルのみにかしサービスをしないのは多チャネル化だとは言えません。
これは下手にITかぶれした人が陥りやすい罠で、企業システムをよく考えていない人がやっているのでしょう。
知っていてやっているのであれば性質が悪すぎます。
企業には継続性の原則があり、既存のお客様であるご年配の方々を無視するようなサービス形態はよくありません。
システムを提案した会社/人が情報システムの本質を理解していないのかもしれませんね。
情報化社会を迎えた今、企業のシステムは情報システムと密着しなければならず、このコラムが提示した例の様な浮いたIT化は過ちです。
前から思っていましたがよいコラムです。
応援しています。
onoT
>まりもさん
コメントありがとうございます。
便利さ「のみ」を追求しているとはいえませんが、便利さ「も」追求しているのは間違いありません。ただ、ご指摘の通り、それが客側(エンドユーザー)の便利さなのか、システム発注側の便利さなのかの違いはありますよね。
とはいうものの、最終的には、客側の利便性の向上がサービス提供者に対する評価向上につながり、それが利益の向上にも貢献することになると私は考えています。
ここでは、モノゴトを複雑にして利用者の利便性を低下させるようなシステム構築が、本当に依頼者のためになるのかどうか、という疑問を提示したわけです。コトバ足らずな点はご容赦ください。
>秋さん
コメントありがとうございます。
「スマートフォン使ってないやつは情弱」ってスゴイですね。それを使って何をしてるかの方が重要だと思いますけどね(笑)
ご指摘の通り、「システム」なんて呼び方をするから本質を見逃すわけで、ようするにモノゴトの流れが肝心なわけです。その流れを阻害するようなコンピュータ化など、システムの退化に他なりませんよね。このような風潮に対しては、我々IT業界にいる人間が率先して変えていきたいですね!
>インドリさん
コメントありがとうございます。
>この問題は経営戦略と情報システムの無理解による問題だと思います。
まさしくそこなんですよね。企業が存続していくために必要不可欠なのは顧客なわけですから、その顧客に対してどう接していくべきかという点をないがしろにしては絶対にいけないと思います。
最近では、エンドユーザーと企業の間を結びつける仕組みを提供するサービスも色々と出てきていますけど、手軽さに乗せられて深く考えずに手を出して、後で痛い目を見たりするのも、同じ理由だと感じます。
acb
なんだかなあ、なんちゃら格差、なんて流行の言葉で誤魔化している感が。
クーポンもポイントカードも必須なものではないし、頑張って情報収集した者がそれなりの恩恵を受けるがおかしいことですかね。
情報格差、って結局、提供する側が問題なのか使う側の問題なのかわからない。
それってほんとに顧客をないがしろにしてるの?
本質よりも重要なのは実質じゃないの?
議論としては面白いけれど、ちょっとあたまでっかちじゃないのかな。
仲澤@失業者
会計的にはど~なってるのか不明ですが、発行済みクーポンの総額が
売り上げ総額の数十パーセントに達し、粗利を凌駕するらしいという
笑っちゃうような話も聞きます。
まぁ、いわゆる情報産業も成熟期に入ってきたので、カテゴリが
分かれてきたのかもしれませんねぇ。つまり、まったくデータ化
されていないものからデータを作り出すツールや環境やデータ自体を
提供する「1次情報産業」、その情報を集めて加工した情報を提供する
「2次情報産業」、情報を含めて、産業の構造を利用してそれをお金に
換える仕組みを提供する「3次情報産業」といったところでしょうか。
まぁ引用が遠くなればなるほど実際の人間やその営みとは無関係に
なっていき段々と虚業化したりバクチ化するのはやむを得ません。
当然、成熟した産業はマッチポンプ化する部分もあるので、ある意味
「シンプル化しないから儲かる」という仕組みも存在してしまいます。
クーポン探しや収集に地道を上げる皆さんも、その仕組みや売り込み
にがんばってらっしゃる皆さんも、それに費やした労力や時間を、
別の何かに投資た場合のベネフィットとトレードオフしているわけで、
本質的に儲かったかどうかは怪しいもんですわな。
まぁ、当然気づいてはいるのでしょうけど(笑い)。
ハムレット
昔、某大手旅館・ホテルの予約サイトの立ち上げに少しだけ関わった事があります。結果的に事業企画としては成功し、利益を出るようになり、最終的には、M&Aで買収されて行きましたが、成功の秘訣について、話を聞いたところ、大体次のような方針だったそうです。
1)与信を技術的に保証するのが面倒なので、電子決済には一切手を着けなかった。
2)サイトのコンテンツとなる中小の登録旅館やホテルを集めるために注力し、ネットにつながらない旅館やホテルの為にFAXでの窓口担当まで設けて、予約と空き部屋状況の連絡業務を手動で行った。
3)リンクバナーを以下に色々なサイトに掲示してもらうかに注力した。
最近、同じ時期にネットを活用した新しい旅行代理業務を考えて、結局上手くいかなかった中堅の旅行代理店の人と話しをする機会があり、「ネット経由の電子決済を活用したアイデアはうちが一番早かったのに!」と云うの聞きました。まあ大抵の人は華々しいITの技術面に目が行くけど、業務や情報のフローがシンプルになり、より低コストで運用できるなら、アナログも十分に活用すべきなんですが、その辺のバランスはやはりセンスなんでしょうかね。
onoT
>acbさん、
コメントありがとうございます。
クーポンやポイントカードは単なる例として出したもので、ここで言いたいことは、タイトルでも書いているように、「モノゴトを複雑にするIT化ってどうなの?」という部分です。例として示した事例や、私の筆力の問題で、テーマをうまく伝えることができなかったかも知れませんが、その点はご容赦ください。
それと、情報格差が提供する側の問題か使う側の問題かというのは、ご指摘の通りケースバイケースで、どちらか一方を悪者にできるような単純な問題ではないことは確かだと私も思っています。
>仲澤さん
コメントありがとうございます。
そのカテゴライズ、面白いですね。確かに仲澤さんのおっしゃる「3次情報産業」的なサービスは、複雑な仕組みになりやすいのかも知れません。
それにしても、発行済みクーポンの総額が粗利を凌駕するって、それはまたヒドイはなしですね。。。
>ハムレットさん
コメントありがとうございます。
また、興味深い事例を紹介して頂きありがとうございます。
ITの使いどころをしっかりと見極めることがいかに重要かということがよくわかりますね。確かにバランス感覚は大切ですね。
それと、技術については取り入れるタイミングですかね。
色々なご意見をお持ちの方々にたくさんのコメント頂いて、ホントに嬉しいです!
皆様、ありがとうございます!!
Anubis
いい記事を書いた時より、認識違いがあった時の方がコメントが多くつく。
思考の出発点が、人の間違いというのもどんなものなのだろうか。
・・・それはさておき。
この情報格差については、個人的に思うところが多いです。
情報格差の現象は、どちらかというと会社のシステムに感じます。
使いこなせる人と使いこなせない人の格差が大きくなり過ぎて、
業務に滞りが生じてしまう。という形で出てました。
格差ではなく、特化という形で解消できないか。なんて思う今日この頃です。
onoT
>Anubisさん
コメントありがとうございます。
>いい記事を書いた時より、認識違いがあった時の方がコメントが多くつく。
それは人間のサガなのか、それとも国民性なのか、というところも興味深いですね。。。
会社での、使いこなせるヒトと使いこなせないヒトの情報格差については、情シス系の部署にいたときには私も常に感じていました。
システムから得られる情報の共有が担保されるのであれば、役割を特化した方が、絶対に業務はサクサク流れますよね!