「居心地の良さ」をデザインしよう
■街にはデザインが必要だ
居心地がいい、また来たい、あわよくば住んでみたい!
訪れた多くのヒトをそんな気持ちにしてくれるのは、デザインがしっかりしている街だ。
例えば街の中にポツンと異彩を放つ斬新な建築美を誇る美術館があるとか、そういうことではない。それは街のデザインではなく、単に美術館のデザインでしかない。
一般の住宅も同様で、個々の建物だけ見ると優れたデザインであったとしても、隣の建物との調和がとれていないなら、街を歩く訪問者の気持ちはそれほど揺れはしないだろう。
街全体が注意深く統一感あるテイストにデザインされていること。そして、そこが生活の場でもあること。それが訪問者を惹きつける重要なポイントなのだ。
■美は自由ではなく規律から生まれる
ヨーロッパの古い街は条例などで景観が守られている。高さ制限、壁や屋根の色の制限。間口の幅の制限。建物の改修に対する制約もある。
地中海の青い海に映える白い壁の街並みとか、シャンゼリゼ通りに面した建物の階層の高さや屋根の形やベランダ等の統一感。これらの景観が保たれているのは、そこに規律があるからだ。
おそらく住人にしてみれば不便に思うこともあるに違いない。しかし、彼らは自分たちの街の伝統を愛し、それを子孫に残すことを誇りに思っている。
日本で言えば、京都の街並みもいいが、個人的には数年前に訪れた直島が忘れられない。焼杉板の外壁、屋号表札プレート、のれん。日常に溶け込んだこのようなデザインは、1軒の建物だけでは表現できない。街の中で繰り返し繰り返し目にすることによって、訪れた人たちに強烈な印象を植え付けることが可能となる。
このように、多くの人にとっての居心地のよさとは無秩序な自由の中ではなく、規律に守られた繰り返される既知のスタイルの中で感じられるものだ。我々は規律の中に美を感じる。
■プラットフォームの魅力は、デザインの良し悪しにかかっている
さて、これをITの世界に置き換えて考えてみよう。
街はプラットフォームの暗喩だ。
例えば私がiPhoneを心地よく感じるのは、よくデザインされた街に惹かれるのと同じ理由なのだ。ひとつひとつのアプリの魅力もさることながら、プラットフォーム全体の統一感が、居心地よく、生活の一部としてしっくり馴染むものとなっている。
プラットフォームは、極論すれば「使ってもらってナンボ」いや、「使い続けてもらってナンボ」なものといえる。ここではたまたまiPhoneの例を出したが、もちろんスマートフォンだけの話ではない。様々なハードやソフトのプラットフォームに言えることだ。
「居心地のよさ」をどうデザインするか。それがプラットフォームの魅力を決定付けるファクターなのだ。
さぁ、あなたもこれからは日常生活の中で「居心地がいい」と感じたら、それが何故なのかを考えたり注意深く観察する習慣をつけてみてはいかがだろうか。そこにデザインのヒントが隠されているのだから。