「ボスの見えざる手」を「見える化」してみよう
■あなたはボスを信じますか?
まず、自分の直属の上司を思い浮かべてみよう。あなたは今思い浮かべた自分のボスを信じられるだろうか?
信じられるなら、組織階層をひとつずつ上がって同じ質問を繰り返していこう。
主任は? 係長は? 課長は? 次長は?……
「このヒトは信じられないな」というボスが見つかったら、それが今の組織内での、あなたの「見える化」の範囲ということになる。
■「ボスの見えざる手」
アダム・スミスは、「神の見えざる手」によって、個人の利益の追求が社会の利益にもなると説いたが、会社組織における「ボスの見えざる手」は、業務の効率化を阻むだけでなく、メンバーのやる気を削ぐ大きな要因であるといってもいいだろう。
ここで私がいう「ボスの見えざる手」とは、以下の2つの意味を指している。
- 仕事を与えられるときに、その指示があまりにもあいまいな状態
- なにか得体の知れないチカラによって、突然プロジェクトが中断したり、会社の方向性が変化したりすること
2番目の意味の方が、アダムスミス的な用法だが、ここでは(私の見えざる手によって)1番目の意味を中心に話を進めることにする。
まぁいずれにせよ、要するに多くの人が日々の業務で経験している日常茶飯事のことだ。
■ダンジョン探検に出かけよう
では、信じられないボスを敵とみなして戦えばいいのかというと、それではなんの解決にもならないし、下手をすれば職を失うことにもなりかねないのでお勧めできない。
そんなことよりも、実は「あいまいなところを明確にする」というのは、エンジニアにとっては格好の教材ではないだろうか。ここは1つ、ボスをクライアントだと思って要求を明確化、仕様確定の訓練だと割り切ってしまおう。自分のスキルアップのための、ダンジョン探検と思えばいいのだ。
■マップを手に入れる
ダンジョンに入るならやはりマップが欲しい。最初に必要なのは「プロジェクト定義書」だ。これがあると、仕事が進めやすい。
「目的」「ゴール」「利用者」「スコープ」「期間」「リスク」「制約・前提条件」「成果物」「プロジェクト体制」といった一般的な項目を埋めてみよう。
「プロジェクト」といえるレベルのものではなくて、スポットで依頼される仕事の場合でも、実際には上記の情報が明確になっていないと、そもそも仕事を始められないと思うのだが、依頼する方はほとんどの情報を端折って、期間と成果物しか示さないことだってある。
そして、そんな依頼者に限って、提出された成果物に文句を言うものだ。
インプット情報が少なければ、アウトプットはそれなりのものになる。だから、アウトプットの品質を高めるには、インプット情報を増やさなければならない。そのために、まずはプロジェクト仕様書を書いて、足りないインプット情報を整理していこう。
■パーティーを組もう
さて、マップを手に入れたら、次はパーティーを組もう。1人でできることには限界がある。それに、チームを組むというのもスキルアップには欠かせないものだ。
仕事が部署内で完結しないような場合は、特にいいチャンスだ。他部署とのコラボレーションは、大いに自分の血肉となる。他部署との交流によって初めて分かることなども多い。
ここで、2番目の意味での「見えざる手」を思い出そう。部署間の横のつながりができると、これまで見えなかった組織の問題点が浮かび上がってきて、「見えざる手」の裏で何が起こっているのかが見えて来るのだ。得体の知れないチカラの正体が分かるようになる。
まぁ、見えすぎてやる気が失せるということもあるので、もろ刃の剣ではあるが、個人的なスキルアップのためには、そういう裏のドロドロしたところも含めて修行だという割り切りも必要だ。
ここまで見える化できるようになれば、あなたのエンジニアとしてのスキルも、一皮むけたものに進化することは間違いない。